運命とは強く儚くて

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「ねえ、エディさま」

「どうしたの?」

今日は体調も良く、侍医の許可も貰ったので久しぶりに孤児院へ来た。
あまり動かずに、数人の子達と共に木陰にいることにした。皆思い思いに絵を描いたり本を読んだり、花飾りを作ったり。
そんな中、1人の女の子が話しかけてきた。

「…どうしてデニスくんはエディさまのことをお母様っていわないの?」

「なになに!なんの話?!」

「えでぃ!」

返答に困っていると話を聞き付けたのか走っていたデニス達も集まってくる。

「ねえ、なんでデニスはお母様って呼ばないの?」

「そ、それはね」

デニスが困ってしまう、と彼の代わりに答えようとするとデニスが口を開く。

「ぼくには別のお母さまがいたんだよ。…けど今はエディが一番のお母さまだよ」

小さいながらに理解して笑顔で話すデニスを思わずあっけらかんと見てしまう。

他の子達は「そうなんだ!」と納得して遊びに出てしまったが自分は呆然としていた。

デニスには姉の事も、義兄さんの事も話した。その上で皇帝のことはお父様と呼んでいいことを話した。
けれど自分のことは母と呼んでいいと言っただろうか。

記憶にない。

自分はどちらでもいい。どう呼ばれようが姉夫婦がデニスの生みの親で自分の家族ということは変わらない。
デニスは自分の子と思っている。皇帝も同じだ。

デニスは誰かを母と呼びたいのだろうか。




「…ということがあって」

「なるほどな」

夜、寝る前に皇帝と今日思ったことを話した。
自分を胸に抱いて頭を撫でながらふむ、と、考えた彼が口を開く。

「…俺は早くに母を無くしたがデニス程早くはない。けれど…母という存在を知った上で母と呼べる者がいないのはなかなかもの寂しいものだったな」

「そうですか…」

「お前は…母と呼ばれるのは嫌か」

「嫌だなんて思いません。呼ばれたら、なんて思いますよ。…けど…姉さんの存在を、デニスに忘れて欲しくない…いや、僕が忘れて欲しくないんです」

本当は母と呼ばれてみたい、なんて。姉さんはきっと許してくれる、僕の問題なんです、と呟く。

「僕が…姉さんの存在を消してしまいそうで怖いんです」

「…お前の姉さんはそんな簡単に消えるほど弱い存在だったか?」

「そんな…。そうですね、姉さんが僕やデニスの記憶から消えるわけないです」

簡単なことなのに、忘れていた。
姉さんは強い。簡単に消えはしない。

「…今更…母と呼んでくれるでしょうか」

寝る前に飲んだ薬湯か、ほっとしたからか、彼の胸の中が落ち着いて目を閉じながらそう呟くと彼が額に口付けた感覚がある。

「もちろんだ。…俺の息子は母親を愛してるよ」

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