56 / 154
Ⅱ -5
1
しおりを挟む「ねえ、エディさま」
「どうしたの?」
今日は体調も良く、侍医の許可も貰ったので久しぶりに孤児院へ来た。
あまり動かずに、数人の子達と共に木陰にいることにした。皆思い思いに絵を描いたり本を読んだり、花飾りを作ったり。
そんな中、1人の女の子が話しかけてきた。
「…どうしてデニスくんはエディさまのことをお母様っていわないの?」
「なになに!なんの話?!」
「えでぃ!」
返答に困っていると話を聞き付けたのか走っていたデニス達も集まってくる。
「ねえ、なんでデニスはお母様って呼ばないの?」
「そ、それはね」
デニスが困ってしまう、と彼の代わりに答えようとするとデニスが口を開く。
「ぼくには別のお母さまがいたんだよ。…けど今はエディが一番のお母さまだよ」
小さいながらに理解して笑顔で話すデニスを思わずあっけらかんと見てしまう。
他の子達は「そうなんだ!」と納得して遊びに出てしまったが自分は呆然としていた。
デニスには姉の事も、義兄さんの事も話した。その上で皇帝のことはお父様と呼んでいいことを話した。
けれど自分のことは母と呼んでいいと言っただろうか。
記憶にない。
自分はどちらでもいい。どう呼ばれようが姉夫婦がデニスの生みの親で自分の家族ということは変わらない。
デニスは自分の子と思っている。皇帝も同じだ。
デニスは誰かを母と呼びたいのだろうか。
「…ということがあって」
「なるほどな」
夜、寝る前に皇帝と今日思ったことを話した。
自分を胸に抱いて頭を撫でながらふむ、と、考えた彼が口を開く。
「…俺は早くに母を無くしたがデニス程早くはない。けれど…母という存在を知った上で母と呼べる者がいないのはなかなかもの寂しいものだったな」
「そうですか…」
「お前は…母と呼ばれるのは嫌か」
「嫌だなんて思いません。呼ばれたら、なんて思いますよ。…けど…姉さんの存在を、デニスに忘れて欲しくない…いや、僕が忘れて欲しくないんです」
本当は母と呼ばれてみたい、なんて。姉さんはきっと許してくれる、僕の問題なんです、と呟く。
「僕が…姉さんの存在を消してしまいそうで怖いんです」
「…お前の姉さんはそんな簡単に消えるほど弱い存在だったか?」
「そんな…。そうですね、姉さんが僕やデニスの記憶から消えるわけないです」
簡単なことなのに、忘れていた。
姉さんは強い。簡単に消えはしない。
「…今更…母と呼んでくれるでしょうか」
寝る前に飲んだ薬湯か、ほっとしたからか、彼の胸の中が落ち着いて目を閉じながらそう呟くと彼が額に口付けた感覚がある。
「もちろんだ。…俺の息子は母親を愛してるよ」
0
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです


【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる