運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
55 / 154
テオの思い出話

10

しおりを挟む


「…という感じです。…」

話し終わってエディ様に目を戻すと彼は眠ってしまったらしい。
そっと起こしていた体を横たえ、体を冷やさないよう布をかけてベッド周りを片付けていると丁度カレルが部屋を尋ねてくる。
皇帝の代わりに様子を見に来たらしい。

「…エディ様は…お休みか」

「うん。…昔話をしてたら寝てたみたいだね」

「昔話?」

「そう。俺の話が聞いたいって言うから」

「そうか」

微笑んで軽く頭に手を置いた彼に目をやる。
何を話したかはきっと彼もわかるだろう。

「もうそろそろ花を替えに行くか」

「そうだね。…そうだな、何時が空いてる?」

「絶賛今だな。…君はここを離れてもいいのか?」

「まあね、もともと今は違うし…護衛は外にいるから少しだけ」

今でも俺と彼はあの墓石に花を手向ける。
名前も顔も知らないその子に。



「今夜は早く帰れる」

「俺もだけど。…明日は朝早い、鍛錬がある」

「そうか…なら夕飯どうだ?」

「いいね、街に行こう」

予定は仕事優先。
気取った、ロマンチックな食事はなかなかしない。

今日も夕飯がてらやってきたのは街の大衆酒場だ。
カレルを初めて来た日からどれくらい経っただろう、隣で男衆と楽しげに話す彼を見て数年前を思い出す。
育ちの良い彼は大胆で陽気な彼らに戸惑っていたが、今じゃ溶け込んでいる。相変わらず品の良さは一目瞭然だが口を開けて笑うようになって軽口も叩くようになった。

「ようテオ!一発勝負と行こうじゃねぇか」

「望むところ!…負けたら酒奢りな」

「俺ァテオに賭けるぜ」

「じゃあ俺ァゲオルドに」

「私はテオに」

酒場のテーブルを囲んで腕相撲勝負に体術勝負。
腕相撲では敵わない大男なんかもいるが体術勝負や酒勝負は負けたことがない。


「っちくしょう!負けたあ!」

「約束どおり、酒ね、姐さん!麦酒一杯!」

今日も快勝。
お互いに勝敗は予想が着いていながらしょうぶをして、たまに負けたり勝ったり、酒を奢ったり奢られたり。
楽しくて仕方がない。

そんな中に愛しい人がいる。

そんな時俺は、隠者で良かった、彼と出会えて良かったと思うんだ。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...