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テオの思い出話
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しおりを挟む俺が寝ていたのはカレルさんの部屋だったらしい。
毎日、朝から晩まで彼はそばにいてくれて、目が覚める度にベッドの傍に置いた机で仕事をする彼と目が合う。
本を読んだり、彼の他愛ない話を聞いたり。
こんなにゆっくりとした生活は何時ぶりだろう。兄が怪我をする前だろうか。
俺がゆっくりながらも歩けるようになると彼は俺を庭園に連れていった。
人が寄らない、人の手が加えられていない場所だったが天然の花畑や茂った蔓の間や木々の間から降り注ぐ木漏れ日が美しい場所だった。
「…花を、手向けてやってくれるか」
「…うん」
その隅に立てられた小さな墓石。
文字も何も入っていない、ただの石とも言えるかもしれない小さなお墓だ。
墓石の前に腰を下ろすと彼が隣に膝を着いて肩を抱かれる。
「…良い場所だね」
「そうだろう。…温かくて、明るいところにしたかった」
悲しみは無かった。
そっと彼に身を預けて2人静かに温かい風に吹かれていた。
─────────────────────
テオを墓のある場所へ連れて行った。
誰の墓かは言わなかったが、きっと彼も分かっていただろう。
庭園を散歩がてら戻っていると彼が立ち止まる。やはり長い時間歩くのはしんどいのだろうか。
「…どうした?」
「覚えてる?…お付き合いしましょうって言ったこと」
「もちろん」
「…俺は…お付き合いは嫌だ」
彼の言葉に胸が詰まる。
…やはり、彼は選ばなかったか。
「…お付き合いじゃなくて、一生…そばにいてほしい」
予想だにしない彼の言葉にやはり驚きを隠せなかった。
「…俺は…半端者だ。何もかも、体も…心も…全て…だけど傍にいたい」
「だめ?」と照れるような、自信のないような表情で問いかけてくる彼を抱き上げる。
小柄で華奢だが見た目より重い彼、この数日で少し軽くなってしまったのか。
全てが愛しいと思った。
「…もちろんだ…そばにいてくれ、私も離れない」
彼の体を気遣って、傷が治るまでは何もしなかった。
ただ隣で、お互いの温もりを感じながら眠り、起きて共に居た。
彼の傷も塞がり、彼は少しづつ薬を飲むことにした。発情すれば何度も項を噛んだ。
なかなか上手くはいかなかったが、やっとのことで番になれた時は感動だとか、そういうのよりも安心を得られた。
やることは変わらない。
番であろうとなかろうと彼のそばにいて、彼はそばに居る。
2人でたくさんのことを話し合った。
お互いの仕事のことを特に。
お互いに極力、仕事を優先すること。そのためにお互いを信じること。
必ず戻ること。
テオと公子はあれきり会えなかったが、彼宛に手紙を受け取っていた。
2人で読んでみるとまだ拙い、子供らしい字で感謝が綴られていた。
「また会えるといいな」
「会えるさ」
「君のお兄さんに会いたい」
「いいと思う。…兄さんも喜ぶよ」
彼の父は数年前に亡くなっており、兄が領地をおさめているという。
彼の生い立ちは聞いている。彼の理解者であった兄に自分も会いたいと思った。
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