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テオの思い出話
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しおりを挟む「お初にお目にかかります。モーセット・リュオン様。…公子さまがお帰りになられるまで公子をお守りさせて頂きます」
モーセット家の子息が王宮へやってきた。カレルさんは近侍とはいっても、世話係では無いので一緒にはいられない。
1ヶ月、この命を狙われているという小さな公子を身をもって守らなければ。
3日前の夜、体を重ねた日以来カレルさんとはまともに話していない。
彼は受け入れてくれた。
一緒にいたいと何度思ったことか、けれど色々思うことがあって上手く接することが出来なかった。
「では公子、お部屋へご案内致しますのでこちらへ」
真面目に、いつもと変わりなく公子御一行を部屋へ導く傍をそっと歩く。
暗殺を企てられている、とは聞いたがあくまで噂よりで詳しいことは分かっていないらしい。
雑魚な暗殺者か、腕のたつ者か。
可能性として後者が有り得る。理由は簡単だ。
公子は皇帝の一番近い親戚の子息。他にも跡継ぎのいない皇帝の後継者を狙う輩は少なくない。
公子はまだ5歳。消してしまうのは安易だから早めに消してしまおうという魂胆ならば、依頼主は権力者。
下手な者には頼まないだろう。
幼い公子は従者の間をキョロキョロと落ち着きなく歩いている。
子供。
そっと自分のお腹へ意識を向け、直ぐに我に返る。
ここに子供はいない。俺は妊娠していない。
…薬は、妊娠の可能性は限りなく低い。
今は任務に集中しなければ。
─────────────────────
公子が来て2週間が経った。
戴冠祝いも終わり、公子は街の催し物に来賓として訪れたり勉強をしたりと穏やかに過ごしている。
油断は出来ない。
「…毒味役が倒れた?…毒か?」
「いえ、毒ではないと分かりました。…が、代わりの毒味役は…」
突如、公子の毒味役が倒れた。
皆毒味などしたくはない。ましてや権力争いの中心核となるとさらにだ。
「…俺が引き受けましょう」
話し合ってもなかなか決まらないので自分が引き受けることにした。
訓練で毒には慣れているし大丈夫だろう。5歳児に使うものなら多少量も少ないだろう。
敵もリスクがある大量混入はしないはずだ。
その後少し用事があり、部下にその場を委せて廊下を歩いているとカレルさんが早歩きでやってきて腕を掴まれる。
「本当ですか?…毒味役を引き受けたのは」
「そうです」
「そんな馬鹿なことはやめてください。…毒味の人材な探します」
「でもその人材はすぐには見つからないでしょう。回し者でないことはすぐには分かりませんし。俺がやった方が手っ取り早いです。…大丈夫です、毒には多少耐性があります」
「そういうことじゃない!」
小声ながらも彼の荒らげた声は初めて聞いた。
驚き、固まっていると廊下の端に押し込まれ、抱きしめられる。
温かい。
思わず心地良さに手を回してしまいそうになる。
迷っていると彼が驚愕の言葉を呟いた。
「…あなたは…子供を殺す気ですか」
「子供とは…どういう」
「…あの夜、言ったでしょう?運試しです。…私は可能性があるならば殺したくありません。…ここに、あなたの腹に私達の子がいるかも知れません」
彼の言葉に頭が回らなくなる。
身ごもっていればいい、と何度思ったかもしれない。それなのに現実を突きつけられ怖くなってきた。
「…失礼します」
何も言えずに彼の手をそっと抜けるとその場から立ち去ってしまった。
お腹に彼との子がいる。
その言葉が頭から離れなかった。
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