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テオの思い出話
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しおりを挟む「…これ…」
「ご存知ですか」
棚の埃を拭きつつ整理をしていると見覚えのあるタイトルの本が目に入る。
兄が気に入っていた。当時俺は小さくてよく分からなかったし、兄は頭が良かったので難しいものを読んでいたからか気になっていたもののとうとう読まずじまいだった。
「兄が気に入っていたもので…気になってはいたんですけどなかなか」
「良ければお貸ししますよ。…感想を言い合えるのであれば私も嬉しいです」
袖で本の表紙を拭い、そっと本を差し出してくる彼。何だか調子が狂う。
「…俺は5、6歳から体を動かしてばかりだったので…難しい本を読めるかどうか」
「そうですね…この本は少し小難しい。…ですが一度理解すれば紐解くように全てが分かってきてとて面白いですよ。…分からないところはお教え致しますので、どうですか」
「忙しくないですか」
「…忙しくないといえば真っ当な嘘です。…が、公子の護衛は大切な事。打ち合わせと称する時間なら取れるでしょう。」
真面目な口調でそんなことを行ったかと思えば「私だってサボりたい時もあります」と付け足すものだから思わず笑ってしまった。「可笑しいですか」と困惑した様子で首をかしげてきたので彼の手にある本を受け取り答える。
「…いや、とても真面目な方だと思っていたので。なかなか楽しい方だなと」
「私も人ですから。…意外と言われますが狩りにだって行きますよ」
「本当ですか。俺も狩り好きです」
「では今度御一緒に」
「もちろん」
なんだろう、とても自然に話している。
楽しい。
ふと見せる彼の笑みも見ると心が温まる。
その後、片付けを半分済ませ、無事探し物が見つかったようなので一緒に食事をした。
そこでは護衛などの真面目な話をしたり、切り替えて世間話をしたり。
仕事の切り替えなどが自分と似ている人だと思った。
二人とも自分より仕事。甘いものが好きで、狩りが好き。
まだまだこちらの知識不足ではあるがほんの趣向が似ている。
笑いのツボが似ている。家族構成が似ている。
「そろそろ行かないと」
「もうそんな時間でしたか。…ではまた約束の時間に」
はい、と頷き席を立ち上がると彼と目が合う。お互い何か言いたげに目を細めると何を発さずその場を離れた。
何が言いたかったのだろう?自分も、彼も。
部屋を出ると部屋と廊下の匂いの差に不思議に思う。特に強くお香を炊いていたわけでも無さそうだ。
…まさかな。
半端な自分にそんなのあって言い訳がない。
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