運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
46 / 154
テオの思い出話

1

しおりを挟む


「昔話は苦手なのですが…」

と小さく笑いテオが目を伏せる。
いつもは淡々とまっすぐ話す彼が膝の上に置かれた手の指先をじっと見て話し始めた。



─────────────────────


ラマール家はリワーフ帝国建国当時から、緑豊かな
小さな領地を治めていた家だったが、代々精鋭隊に毎代優秀な人材を出すと武人の間では名家であった。父はその伝統に執拗に執着していた。

俺には10離れた兄がいた。
兄は腕がたつものの、温厚な性格で学問が好きだった為、自分は領地でのんびり学問をしている方がいいとよく言っていたものだ。

俺はまだ5つになったばかりで、兄と比べてやんちゃばかりの俺は父に指導を受ける兄に混じってよく鍛錬をしていた。
父は厳しかったものの、上手に出来れば褒めてくれたり狩り等いろいろなことを教えてくれるし、兄は優しく本を読んでくれたり動物のことを教えてくれたりしたので、俺は父と兄が大好きだった。


そんな幸せが終わったのはその年の冬。

新年も近く、賑わう寒い市場は薄ら雪で覆われていた。その市場の石階段で足を滑らせた子供を庇い、兄は足を不自由にしてしまった。杖なしでは長い間歩くこともままならず、精鋭隊入隊を目前にして不可能になった。

兄は笑って「大人しく領地で過ごすさ」と言ったが、精鋭隊の任を逃れて嬉しかったのかもしれない。と幼いながらに思った。

それを良しとしなかったのは父である。

兄が無理と判断した父は俺を最年少で精鋭隊に入れるべく今まで以上の訓練を施した。
今での厳しくも優しい父ではなくなってしまった。皮肉にもそのおかげで10をすぎる頃には身軽さもあってかそこそこの強さを得ていた。

しかし、俺は父や兄と違い、小柄だった。もしや隠者ではないかと恐れた父はそれが現実とならぬようにか、はたまたそれを潰すような、更なる厳しい訓練を俺に課した。
隠者なら12、3の頃に初めての発情期が訪れるはずだった。

だが隠者としての体が訓練のおかげで未熟のまま成長を終えてしまった。
父の隙を着いて、兄が医者に見せてくれた。

その時の俺の体はおかしかった。発情期は一向に来ないのに体は一般男性に比べて小柄で華奢。
発情はしていないのに隠者特有の香りが微かに香る。数ヶ月に一度訪れる謎の倦怠感や微熱。

医者の診察の結果、隠者としての内臓器官はあるが、隠者としての体の作りが十分でない。そのため完全な発情期が来ない。
だが体は小柄で非力。

幸い、身体の性能まで潰すような訓練のおかけで力には苦労しなかったがそれを補うのには周りの数倍努力をした。
17で精鋭隊に入った時、周りの男は長身でガタイの良い奴ばかりで。明らかに差があると確信した。
ただなめられぬよう、足を引っ張らぬように努力をし、半端者と言われぬように懸命に任務をこなした。



カレルと出会ったのは入隊して3年経った冬のこと。俺は20になっていた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

処理中です...