運命とは強く儚くて

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Ⅱ -4

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「少し熱がありますね」

「うん…体が重い」

朝から体調が悪く、休んでいると案の定熱が出てきたらしい。

「侍医を呼んで参ります」

濡らしたタオルを額に乗せられると冷たくて気持ちがいい。
熱特有のぼんやりとする思考に違和感を感じながら目を閉じる。
万が一の為に強い薬が服用出来ず、お腹が少し痛んだり体が怠くても安易に薬を飲めない。

仕方ないといえば仕方がないし、耐えられない訳では無いのでいいのだが…。

「エディ様、失礼致します」

少し経つと侍医が来てくれて、軽い診察と薬湯を飲ませてくれる。薬、というより生姜湯のようなものだった。

「…薬を出せず申し訳ございません。薬の代わりに何か少しでもございましたら伺いますので。…お食事は無理のない範囲でできる限り取って下さい」

お腹を温めるよう助言をもらい、侍医は戻って言った。普段は何をしているのか全く不思議だ。

「エディ、大丈夫か」

その入れ替わりか、皇帝が部屋へ入ってくる。時計を見れば昼前。昼食前に来てくれたのだろう。

「熱があるようだな、しんどいか?」

「はい、少し…でも少し楽になりました」

「そうか」とほっとした様子で息をつき頭を撫でられる。いつもは温かい陛下の手が今日はひんやりしている気がする。

頬に彼の手を擦り付けながら「冷たくて心地よいです」と言うと両手で頬を包み込まれた。
落ち着く。

「これでもっと冷たいだろう。…昼は食べられそうか、粥だと聞いている」

「…少しいただきます」

「分かった、持ってこよう」

少し待ってろ、と額に口付けられ陛下が部屋を出ていく。
ただでさえ広い寝室なのにあっという間に静かで心細くなってしまう。

数分待っていると皇帝がお盆を持ってワゴンを押すテオと共に入ってきた。
良い香りで部屋がいっぱいだ。

「俺もここで食べる。…薬を飲まなくてはいけないだろう?少しでも食べれるか」

果物もある、と進めてくれる陛下の優しさに嬉しく思いながら粥の匙を取る。
甘いいい匂い。

ミルク粥だ。
姉さんと暮らしてた時、寝込んだ時はミルク粥を食べたっけ。懐かしいな、と少し口に含むと少しづつ食欲が湧いてくる。
ゆっくりではあるが、完食した。陛下は既に食べ終わったがじっと楽しそうにこちらが食べるのを見ていたので心底不思議だ。

結局、薬を飲み終えるまで居てくれて、その間カレルさんが何か言いたげに部屋の入り口を行ったり来たりしていた。

「また来る。…何かあれば直ぐに人を呼べ」

「はい。大丈夫ですよ、行ってらっしゃい」

皇帝が部屋を出ていくとすっかり目が覚めてしまい、テオと話していた。

「…そういえば僕ってフェロモンの匂いするの?」

「いえ…しないと思います。でも聞く限り発情期の体には近づいていると思いますよ」

「そっか。…ねえ、テオの体のこと聞いてもいい?」

ずっと気になっていた。
彼自身、気にしているのかと思って聞かなかったがこの際だ。
もしかしたら嫌がるか、と思っていたが案外気にしていないような素振りを見せる。

「いいですよ。面白い話ではありませんが…」

「どこから話しましょう」と呟き彼が話し始める。

「あれは俺が5つ、6つの頃だったと思います…」
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