運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
44 / 154
Ⅱ -4

2

しおりを挟む


しばらく体調が落ち着くまで、部屋での仕事となった。
午前中に診察があり、薬を飲んだり、書類など申し立てに目を通しているとあっという間に昼になる。
皇帝は会食だったな、なんて思い出して1人で食べようとするとデニスがお弁当の入ったバスケットを抱えて尋ねてくる。

「えでぃ、だいじょーぶ?…ごはんたべよう」

「大丈夫だよ。ほら、おいで」

バスケットに入っていたのはサンドイッチとスコーンだった。
孤児院でみんなで作ったらしく、食べずに2人分持ち帰ったらしい。

もう料理ができるくらいに成長したのか。
付きっきりではないからか、デニスの成長が目に見えて早くかんじる。

「美味しそうだね、これもデニスが作ったの?」

「まぜた!」

お行儀が悪いかもしれないが、デニスを膝の上に乗せたまま昼食を取る。
デニスは自作のサンドイッチを頬張り、自分はスコーンを食べる。
添えるクリームもとても美味しくて、薬湯の不味さが飛んでいきそうだ。

「おとしゃまにもある!」

元気にクッキーの袋を掲げるデニスの頭を撫でる。

「そうか、お父様きっと喜ぶね。後で渡しに行こうか」

色々な形に型抜きされたクッキー。
きっと子供たちが楽しんで作ったのだろう。アッシアの話では、今回作ったのは練習で、次に作ったものは市場で売ることになっているとか。
とてもいい案だと思う。

正直、デニスを孤児達と過ごさせるのをよく思わない人もいる。
けれど自分はデニスにいろいろな世界を見せたいし、選択肢があることを自分で学んでもらいたい。






「おとしゃまー!」

「デニスか、エディもどうした?」

午後、皇帝が多忙でなさそうなところを見計らって執務室を訪ねる。
皇帝に抱きついてお膝にちゃっかり座るデニスはやはり年相応だ。

「忙しかったですか?」

「いや、丁度休憩中だ。体調はいいか?」

「はい、だいぶ楽になりました」

向かいの長椅子に腰掛けて2人を見守りながら少し息を整える。
ずっと寝ていたからか、体調が良くないのもあって歩くのは慣れないようだ。

「これ!つくった!」

「デニスが作ったのか…?凄いな、美味そうだ。早速食べるとしようか」

偉いぞ、とむちゃくちゃに撫でられくすぐったそうに笑い声を上げるデニス。
デニスには自分を母とは呼ばせていない。

初めは皇帝も周りも疑問に思っていた。
けれどこれは自分の問題でもある。デニスに自分を母と呼ばせたら姉の存在を無くしてしまうのではないかと。

けれどデニスには、デニスのことを愛しているし母と思ってくれと伝えている。当本人はよく分かっていないようだがいつか分かるかもしれない。

大きくなったデニスは自分が本当の母ではないことにどう思うのだろう。自分は幸せだと思えるように過ごさせてやりたい。
そう思いながら微笑ましく彼らを見守った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...