運命とは強く儚くて

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Ⅱ -1 3人での暮らし

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「皇后さま!これあげる!」

「抱っこ!抱っこ!」

今日はデニスだけではなく、たくさんの子供達に囲まれている。
古くなった修道院を改築し、様々な地域から孤児を集めた孤児院だ。
かつて皇帝が進めていた計画で、それを僕が引き継ぐこととなった。
他にも福祉関係、特に孤児は隠者関係のものをやりたいと申し出た。


一、二週間前からよく来ていて子供たちとも仲良くなれた。
なかなか話してくれなかった子も隣に来て本を読んでくれるようにはなったし、かけるようになった字を見せてくれたりもする。
たまにデニスを連れてくるが、仲良くみんなで遊んでいる姿を見ると、皇子になってもこうして普通の子として過ごさせたいとも思う。


半日を過し、元気に外で遊ぶ子供達を見ていると後ろからわっと驚かされる。
誰だろうと考える間もなく皇帝と分かった。

「どうした、考え事か」

軽くキスをして隣に座る皇帝の格好はいつもと違う軽装だった。
隣に座る彼に肩を抱かれながら首を振る。

「いえ、デニスが楽しそうなので。…皇子になってもこうして伸び伸び過ごさせてやりたいなと」

「そうだな。…それは俺もそう思う、俺自身もそうでありたかったと思うくらいだ。俺は市民の暮らしを人伝えにしか知らない、それがなんと歯痒いことか…」

皇帝は自国に限らず、属国の政治に対してとても熱心だ。身分の低い人、かつての自分のような者にも目を向ける。
属国になった後の方が生活しやすくなったという意見が絶えないほどだ。

「僕にできることがあれば何でもしますから」

むしろ自分にできることはそれしかない、と皇帝の手を握り微笑むと彼も微笑み返してくれる。
2人見つめ合っていると、子供達が駆け寄ってくる声でハッと我に返る。

「皇帝だ!」

「すげぇ本物?」

「馬鹿!前も来てたぜ」

わらわらと遠慮無しに皇帝の元に集まる子供達を皇帝は抱き上げる。

「本物だぞ、ほぅら」

きゃーとはしゃぐ皆を隣で見ているとデニスが抱きついてくる。

「デニス、どうした?」

「屈んでー!」

デニスと同年代の幼い子達にせがまれてしゃがむと豪華な花かんむりを乗せられる。
デニスのブームなのか。今回は他の子達も共に作ったのだろう、とても華やかで、皆得意げにこちらを見るものだから皆の頭を撫でてやる。

「ありがとう、すごく素敵だね。どこに咲いてたの?」

「あっちにお花がたくさん咲いてるの」

「皇后さまも今度行こう!」

「ブランコもあるよ」

賑やかでとても楽しい。
ブランコは以前アッシアが作ってくれたものだ。本当になんでも出来る子だ。

その後、年長の子供達と鬼ごっこやかくれんぼをする皇帝達を見ながらデニス含む年少の子達に絵本を読んで昼寝をさせた。
させた、もいうよりは皆が寝ていってしまったのだが。
木陰で気持ちよさそうに眠る子達に布をかけて頭を撫でる。

皇帝の楽しそうな姿は以前も見たことがある。デニスが雨の中遊びたいと駄々を捏ねて、一緒に遊んでくれた時だ。
彼は普段こそ威厳ある皇帝だが、こうした少年らしい一面もある。
そんな所が僕はとてつもなく愛おしいと感じてしまうのだった。
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