運命とは強く儚くて

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Ⅱ -1 3人での暮らし

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「陛下…お忙しいですか」

「エディか。いや、丁度休憩しようと思っていた
、おいで」

手招きされて近寄ると膝の上に乗せられる。
大分慣れたとはいえまだまだ気恥しい。

「…デニスは?」

「今は部屋です。先程まで外でアッシアと遊んでいました」

「なるほどな。…それで頭に可愛らしい冠が乗っているのか」

「はい、デニスがくれました」

「良く似合っている」

撫でられてそっと手の甲にキスされる。
それよりも、皇帝に言わなくては行けない…いや、言わなくてはいけない訳ではないのだが。

「さっきデニスにいい匂いがするって言われて…。甘い、花とも違う匂い…と」

すん、と皇帝が匂いを嗅ぐも「言われてみればそのような気もするが、分からないな」と首を傾げた。
発情期とあの一件で伏せっていた時期が被っていた為か、薬のせいか発情期の気配がなかった。
子供は勘がいいというし、もし発情期が来るとしたら…。

「発情期…か?。…あの事もあったんだ、侍医に一応見てもらおう」

「ありがとうございます…」

早い方がいい、と直ぐに侍医を呼んでくれた。
あの一件以来、定期的に診察を受けていたが、ただ一つだけを除いて大きな体の変化は無かった。
発情期の気配が無くなってしまったことだ。

普通、人に言われるまでもなく、発情期が近いと自分でもわかる。
それが無くなってしまったのだ。
あの一件が重なり、遅れてくるものだと思っていたがその気配すら無い。それに対して侍医は

「…薬やその他のショックが体に残ってしまったせいでしょう。特にあの量の薬は隠者の生殖機能に大きな負担がかかります。…少しづつ回復出来れば発情期はまた来ると思います。が、最悪の場合もう二度と発情期が来ることは無いかもしれません」

隠者にとって発情期は嫌なものでもある。
それでも皇帝と固く結ばれるには発情期内に番わなければならない。
ただの非力な男としての体は子供も孕めない。完全なる役立たずになってしまう。
侍医の言葉を聞いた当初はショックを受けていたが皇帝の「気長に待とう」という言葉にほっとした。

ーー

「…なるほど。…もしやするとお体が発情ができる体へと回復しているのかもしれません。時間はかかると思いますが、安心してもらっても大丈夫です。また定期的に診察に参ります」

そう言って診察を終え、侍医を見送ると皇帝に抱き上げられる。
彼が嬉しそうで僕も嬉しい。

「ほら、薬湯を飲んで今日はもう休め。傍にいる」

「でも…駄目ですよ。なら執務室にいるので、一緒にしますか」

「そうしてくれ」

すり、とおでこを擦り合わせてキスをする。
その後夕食までは皇帝が執務をする隣で自分も仕事をした。
デニスの楽しそうな今日の報告とそれに嬉しそうに相槌を打つ皇帝。
そんな2人と今、テーブルを囲んで家族として食事をしていると思うととてつもない幸せが湧き上がる。
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