運命とは強く儚くて

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「エディ、私の働いてるとこであんたも働けるようになったの。これで生活も少しは楽になるし、あんたも体に悪い薬を飲まなくて済むわ」

コロコロと朗らかに笑う姉さん。
水仕事で手は赤く色づいていて、あかぎれがある姉さんの手。


「あのね、私結婚することになったの。ほら、前にも会った兵士の。…あんたの言いたいことは分かってるわ、もうすぐ戦が起こるかもしれない。だからこそ私はあの人と一緒になりたい。形式でもなんでもいい、あの人と確かなもので繋がれるのだから」

結婚報告をする姉さん。
お金が無くて粗末な結婚衣装だったけれど、友達や仕事仲間達と結婚式を挙げた。あの時の姉さんは誰よりも綺麗で輝いていて自慢の姉さんだった。


「…エディ…デニスを守って…。あの人ももう…私も直ぐに死ぬと思うの…あなたしか居ない…から…」

義兄さんが死んで、その前前から体調が良くなかった姉さんの病が悪化した。
戦で生活もさらに貧しく、薬も栄養のある食事もこい。綺麗な姉さんは見る影もなくやせ細って、やつれていた。


「姉さんごめん。…義兄さんの仇ともいえる人を僕は愛しちゃったんだ。…許してなんて言えないよな」

誰もいないその場所に泣きながら謝る。
誰も答えてくれない。
思わず泣き崩れると聞き覚えのある声と確かなあの温もりが頬を包み込んで顔を上げさせられる。

「馬鹿ねあんた。…あの人が死んだのは悲しかったし、ほんとに憎かった。」

姉さんの優しい目に悲しみが宿る。
それでも僕にも譲れないものがある。例え大好きな姉さんのことでも。

「けど僕はあの人のこと…」

「大丈夫、ちゃんと分かってるわ。…あんたが選んだ人なら私は良いよ。…それにね、デニスを守れなんて言っちゃったけど本当は少し後悔してたのよ。…あんたを縛ることになったかもって…。でもやっぱり大好きな弟には幸せになって欲しいじゃない。…けど最後にお願い、わがままだけど…あなたの恋人をデニスに父と呼ばせてやって…あなたのことは…あなたが決めていい。」

「姉さん…」


ありがとう、とかつての綺麗な姉さんと抱き合い泣いた。
ありがとう、約束する。

そう言ってふと目を覚ます。
でもそこには姉さんはいなくて、星空の下、皇帝の懐の中だった。流れていた涙を指で掬われて自分が泣いていたことに気がついた。

「悪夢か?…なぜ涙が出ている」

「違うんです…姉さんが…陛下と幸せになりなさいと言いに来てくれたです」

婚礼をあげた日の夜。
デニスを寝かしつけて皇帝と中庭に来ていた。石畳の上に座り、皇帝の懐の中で一緒に布に包まっている。

「…そうか。……お前は覚えていないだろう、俺は1度お前とお前の姉にあったことがあるぞ」

「そうなんですか…?」

初耳だ。

「あれはまだ俺が16のことだったか、お前達の国へ忍びで遊びに行ったんだ。国境の森へ。…その時は覆面をしてたから分からなかっただろうが、俺はお前を忘れたことは無い」

「覆面…。あの、池のほとりでガチョウに追いかけられていた人…」

「変なことを思い出すな…。そうだ、それを見てお前は楽しそうに笑っていたな」

ふと昔の記憶が蘇る。
あれはまだ10代前半で、1人で森へ探検へ行った時のことだ。
いつもは1人の所なのに覆面をした不思議な男の子がいて何も考えずに話しかけた記憶がある。
餌をやろうとしてガチョウに追いかけられていたあの彼はまさか皇帝だったのか。

「…覚えてませんでしたけど…。でも陛下の匂いはとても安心して、嗅いだ覚えがありましたよ」

「そうか。…それは嬉しいな」

微笑んだ皇帝が星を見上げる。
今僕の指には皇帝と揃いの結婚指輪がある。シンブルな作りの目立たないものだ。
そしてもう1つ、后としての冠を嫌がった代わりに首輪のチャームには王族であるという紋章が刻まれている。

「陛下…」

「どうした」

「…愛してます」

初めて自分から直接言ったかもしれない。
恥ずかしくて言った直ぐに俯くと顔をあげられてキスをされる。

「初めてじゃないか、お前から言うなんて。…俺も愛している」

そうしてもう一度キスを交わした。
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