運命とは強く儚くて

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Ⅰ -7 皇帝目線

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「…ダ、ダ!…ぁ」

「そうだ、父様だぞ」

デニスの言葉が活発になってきた。最近では俺の事をダダと呼ぶこともあり、その度に俺は父様と訂正している。
正直なところ、デニスの本当の両親はなくなっている。俺が親を名乗るなどいいものかと思ったが…デニスを後継者として育てるのもいいと思う。
エディやその姉もデニスの安定を望んでいた。
 

「…ほら、行こうか」

絵本を置いてデニスを抱き上げ、自分の部屋の隣に用意したエディの寝室へ入る。
エディは相変わらず静かに眠り続けている。
あれから2週間が経っている。顔色は前よりも良くなり、容態も安定はしているがなかなか目覚めない。
彼の寝顔は穏やかではなく、どこか憂いを帯びた表情だ。

「えぃ…い…ダぁ……」

「…そうだな。俺も心配だ」

大人しくするよう言い聞かせ、デニスを隣で寝かせてやる。
言われた通り、暴れることなく控えめにエディに引っ付き眠るデニス。
やはり恋しいのだろう。…俺もだ。

「エディ…子供の成長は早いな。もう1人で歩き回り喋るようにまでなった。…お前にも見せてやりたい…」

暇があればエディの元に行き、話しかけている。
エディの寝室には花束やら贈り物がいくつも置いてある。
使用人がほとんどだ。
彼のことだ、きっと炊事場や洗濯場で友人を作ったに違いない。

エディの発情期の予定は過ぎた。
あれだけの事があっただけあって何も無い。

今日デニスに読んでやった絵本。
王子が姫にキスをすると目覚める…という有名な童話だ。
今ばかりは現実になって欲しいと願わんばかりだ。

「…こんなものでは起きないか」

エディの唇にそっと口付けて苦笑する。

「…もう一度お前の笑った顔が見たい。…頼む、またお前を失いそうだ」

命の心配はある程度なくなった。
が、このまま目覚めないといつかこの手の中からなくなってしまうそうな気がする。
もう離さないと決めたのに。

お前はデニスの居場所を作れば死んでもいいと思ったのか。
お前こそデニスのいる場所であったのに。俺もそうだ。お前の傍がいるべき所だと今になって思う。

彼の手を取り長く唇を付ける。
この手の微かな温もりがいつか消えてしまえば、もう耐えられなくなってしまう。

「起きてくれ…」

自分でも情けない声と共に涙が一筋頬を伝うのを感じる。
その時、気のせいだろうか。
彼の手が小さく握り返して来たのに気がつく。

思わずハッとして顔を上げると薄らと彼の目が開いている。

「…あ…」

掠れた声でこちらをぼんやり見る彼を思わず抱きしめた。

「良かった…!…愛してる。もう二度と離すものか」

「陛下…僕は…?」
 
「いい、何も思い出すな。…ずっと眠っていただけだ」

彼を抱き起こし、再度胸に掻き抱く。
しばらく抱き合っていると、デニスが目を覚ましたらしい。
エディが起きているのに気がつくと堰を切ったように泣き出した。

「デニス…。大丈夫だよ…」

弱々しいが、強い手取りでデニスを抱くエディを二人まとめて抱きしめる。

「陛下…如何されました…っ!?」

様子を覗きに来たカレルがエディを見て目を見開き、侍医を呼びに走って行った。
あれほど慌てた彼の様子を見るのはいつぶりだうか。

もう王宮にディビナはいない。
それでも反発するものはいるだろう。王宮内を調べさせ、反発する者をまとめると少しづつ注意しながら過ごすことにした。
意見の違うものを片っ端から処分しても何もならない。

何か手を出せば容赦はしないがそれまでは経過観察だ。
俺国と同じくらいに大事な人達だ、絶対に守り抜こう。そう心に誓った。
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