運命とは強く儚くて

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Ⅰ -7 皇帝目線

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「エディ!しっかりしろ!」


鞘を被った剣で男共を峰打ち、エディから引き剥がし、崩れ落ちる彼の体を抱き上げる。
彼の意識はない。
背後でカレルや連れてきた護衛が男らを捕らえるのを感じつつ、上着を脱ぐと彼の体を包み込む。
体は高熱があるように熱いのに頼りなく震えている。顔色も悪く、息は荒い。

直ぐに連れて帰らなければ。
彼を胸に立ち上がり、捕らえられている男を見ると激しい憎悪が湧いてくる。
すぐにでも此奴らをこの手で切り捨ててやりたい。だが今はエディが先だ。

「…カレル、行くぞ」

カレルが上から掛けた毛布にエディの体を包み直し、馬で王宮へ急ぐ。

「すまない…エディ、だからしっかりしてくれ」

人形のようにただ揺れる彼を抱きしめる。
頼むから死ぬな、と祈りながら王宮に入るなり侍医 を呼ぶ。

すぐさま見てもらい、落ち着かずに部屋の外で待っていると、2時間後に侍医が難しい表情で出てきた。

「エディは?どんな様子だ」

「…難しい状況です。手はつくしましたが、致死量に近い量の薬物を投与されており、元々発情期が近かったのもあるのでしょう…酷く衰弱しております。精神的にも来る薬ですので、出来事にも強くショックを受けています。…容態が安定しても目染めるかどうか…」

「そうか…。礼を言う」

頭を下げた侍医が去るとそっと部屋に入り、ベッドの傍らに腰掛ける。
先程よりは落ち着いているように見える。

だが布団から覗く肌は痣が残り、青ざめている。
苦しそうに上下する胸と熱い体温。
時折痙攣する彼の手をそっと握り、口付ける。

「…目を覚ましてくれ…。もうお前を手放したくはない…」

神でも、亡き代々の皇帝達、エディの姉や両親。誰でもいい彼を助けてくれ。

この人生でたくさんのものを失ってきた。自分の起こす戦で失われる命、両親や兄弟。
仕方ないと割り切っていた。この地位にいるためには慣れなければならないと。
それでも彼を失うことがこんなに怖い。自分はこれほどにも臆病だっただろうか。


「陛下…失礼致します。あの男達の雇主が分かりました」

「…ディビナか」

「はい」

「すぐ戻る」と彼の手を握り立ち上がる。彼の為にも、これはきちんとケジメをつけなければならない。

向かったのはディビナの部屋。
今にも怒りが溢れそうだが、必死に堪える。冷静にならなければ。

「失礼する」

「陛下!いらっしゃいませ」

直々に出迎えて来たのは通常よりも体を露出させたドレスを纏ったディビナだった。
この女は一体何をするつもりなのか。

「さぁ、こちらへおいでになって」

ベタベタとまとわりつく彼女に思わずカッとなり、腕を引っつかんで怒りの目を向ける。

「エディを傷つけるよう命じたのはお前か?」

「な、なんの事やら…」

目をそらすディビナの顎を掴み、詰め寄る。

「恍けるなど片腹痛い、お前だな?…言え、そうでないとお前を切り捨てる」

「わ…私です…男に命じて…命じただけですわ。…大体!何故私では無いのですか!?あんな下劣な隠者等になぜ心惹かれるのですか、醜く男を誘惑し…あなたが引かれる魅力なんてありません」

「黙れ」

怒りで手と声が震える。

「…二度とその口でエディを侮辱するな。…彼が下劣で醜いだと?…お前が言えたことではなかろうに。この事は公にする…ローリー家共々、二度と易々と王宮へ足を踏み入れれると思うな…お前のせいでな。荷物をまとめて出ていけ、それとも下女にでもなるか…?」

彼女を乱暴に突き放すとヘナヘナと魂が抜けたように床へ座り込んだディビナを見下ろし部屋をあとにした。

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