運命とは強く儚くて

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「カレルさん、少しいいですか」

「どうぞ」

夜、デニスが陛下と遊んでいるのを伺ってカレルさんのいる書斎へ顔を出す。

「そろそろ発情期が始まる頃なのでその時の話を」

「なるほど。…どうぞ、座ってください」

デスクの前の椅子に座るとカレルさんがペンを置く。

「…王宮に住んでいる隠者…まあ、少数ですが。その者達は発情期の間、離にいることになっています。相手がいる場合は相手と共に…となっていますがいない場合は1人…またはそういった商売をされている方を招くこともできます」

「…多分1人でも薬を併用すれば何とか大丈夫です。でも…その間デニスはどうしましょうか」

「陛下から先日、あなたが発情期の時はデニスを預かりたいとお言伝を頂きました。陛下は多忙ですから、日中は通常通りとなりますが、夜は食事などはこちらで見ますので御安心を」

「ありがとうございます… 」

本当に感謝の言葉しか思い浮かばない。
そう思って深々と頭を下げると心配そうなカレルさんの声が続く。

「…本当に1人で良いのですか?。…とは言っても、あなたが人を呼ぶことを恐らく陛下はお許しにはなりません。あなたが願えば陛下はお喜びになると思います。…あなたが決めることです、私は強く言えませんが…どうかよろしくお願いします」

「…失礼します」

静かに頭を下げて寝室へ戻る。
静かな部屋で、微かに聞こえるのは皇帝が口ずさむ子守唄だ。
…民謡だろうか、どこかで聞いたことのあるような…ないような。

ベッドの天蓋を覗くとデニスを寝かしつけている最中だった。

「すみません、何から何までありがとうございます」

小声で感謝を伝えて頭を下げると皇帝に顔を上げさせられ、ふいに抱き上げられてしまう。

「っ、いかがされましたか」

「静かに」

何やら悪戯げに微笑み、連れてこられたのは中庭だった。
頭上には空いっぱいの星。その絶景に思わず息を飲む。

「綺麗…」

「そうだろう。…お前に見せたかった」

肩を抱き寄せられる。外が肌寒い分、陛下の体温が温かい。

「…そろそろ発情期か」

「はい。…デニスのこと、ありがとうございます」

「気にするな、俺はデニスを弟や実の子のように思っている。これは俺がしたかったのだ。…離れでは1人でいるつもりか?」

「そのつもりです。…カレルさんが…陛下と…。いえ、何でもありません」

自分で口に出してみて思いとどまる。
なんておこがましい。こういうことは人のせいにしたらダメだ。
言葉を探していると陛下が少し屈んで目を合わせてくれる。

「…俺を招いてはくれないか」

「…でも…」

「俺は辛抱強い方だ。…だがこんなにも近くにあるのにお預けもなかなか辛い。…お前が嫌がることはしたくない、だからそれだけは…」

頼む、と少年のような表情で抱きしめてくる皇帝に恐る恐る手を回す。
自分は流されているのだろうか。

でも何だかしっくりくる…。
皇帝が好きだと思う。
身分とか、そういうのを抜きにしてもそばにいたいと思う。

顔を上げると皇帝と目が合い、今度は自分から皇帝の頬を恐る恐る包み込むとゆっくりキスをした。
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