運命とは強く儚くて

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Ⅰ -4

-3 皇帝目線

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「あーぁ、う…!」

「そうだ、馬だな…今度本物を見せてやろう」

ベッドの上で昔に自分が読んでいた絵本を読んでやると楽しそうに馬の絵を指すデニスを膝の上に乗せて馬のように揺らしてやるとキャッキャとはしゃぐ。
彼らと出会って一月ほど経っただろうか。
エディはともかく、これほどまでこの幼児を可愛いと思えるとは思わなかった。
今では弟か、もはや自分の子のようにも思ってもいる。

「すみません…遊んでいただいて」

「いや、構わない。俺も楽しいからな…それはなんだ?」

エディも風呂を終えたのか、ほかほかした様子いるが、手に持っている小箱と布に目を移す。

「これはデニスの服です。少し破れているのを直して、少し小さいので裾と袖を下ろそうかと」

「そんなことしなくても…言えば新しいものを買ってやる。聞けばお前を古着をもらって着ているようではないか…給与は充分やっているだろう」

「はい、多すぎる程頂いています。…ですがいろいろとこれから物入りになると思うので」

「そうか…」

言えば、お前が少しでも強請れば喜んで何でも買ってやるというのに。そう言いたいのをグッと飲み込む。
そういったところで彼は素直に受け入れないだろう。いっそのこと、本当に身内になれば…。

だがもしも己が力を行使して彼を娶ったところでどうなる。エディやデニスは一部の権力者から反感を買い、危険が及ぶかもしれない。

どうすれば良いのだろうか。
落ち着くとウトウトし始めるデニスを抱き直して隣に来たエディの項の匂いをそっと嗅ぐ。

書物などで見聞いた運命の番。
チラホラとそういった例が上がっているなか、特徴として再開しても覚えている、相手の匂いを好ましいと感じる…などなど様々だ。

俺とエディは過去に1度会ったことがある。
本当に幼い頃の話だが、俺はハッキリとエディを覚えていた。
だがエディは覚えていなかったのだろうか。それもそのはず、俺は身分を隠して顔を隠していたのもあるし、声も体格も変わっている。

「…隠者臭いですか?」

「いや、分からないが…とてもいい匂いなのは確かだ」

「なら良いのですが…。あの、王宮で薬が買えるところはありますか」

「ああ、それなら医務室に行けば良い。…どこか具合でも悪いのか」

「いえ…抑制剤を早めに買っておこうと」

「そうか。…今使っているのを見せてくれるか」

不思議そうに頷いたエディが腰から下げている巾着から紙の包みを差し出す。
それを受け取り中の薬を見てみる。…これはよく出回っている粗悪品ではないか。
こんなものを飲んでいては体を壊してしまう。

「…これは良くないものだ。いずれ不調が出るぞ」

「ですが…正規品は高級品なので、とても下級人には買えません。」

「なるほど。…正規の抑制剤を安価で世に出せるようする必要があるな。粗悪品を売りさばく商人も取り締まらなくてはな」

「きっと皆喜びます。…下級の隠者は奴隷同然の扱いを受けますので…発情がバレれば死ぬまで辱めを受けます」

「お前は無事だったか」

「はい。…おかげさまで」

よかった、と胸を撫で下ろす。
自分では分からなかったことを彼は知っている。上に立つのなら下を知らなくてはならない。
改めて身にしみた。

デニスの衣服の穴に器用に刺繍を施す彼を撫でて 、そっと眠りについたデニスを寝かせた。
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