運命とは強く儚くて

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「…今日は雨だから外には行けないよ」

外で遊びたいと泣くデニスをあやす。
皇帝の部屋に連れてきてもらえる=お庭で遊べる、という認識らしい。
時々、皇帝に大事な書類仕事などがないときや、自分が洗濯ではなく部屋でする仕事だけの時はデニスも一緒にいられる。
デニスは皇帝の部屋についている中庭で遊ぶのが好きなのだ。

だが今日はあいにくの雨。
外に連れ出す訳にもいかないし…と抱き上げてあやしているわけだ。
あまりうるさくしても執務室で仕事中の皇帝にも邪魔になってしまうし、自分も仕事が出来ない。
おんぶにして掃除をながらあやそうか、と考えていると皇帝が執務室から出てくる。

「お疲れ様でございます。…うるさくて申し訳ありません」

「いや、構わない。…どうした?何か不満なのか」

泣きじゃくるデニスを皇帝が抱き上げる。
凄く良いお召し物に…鼻水と涙が…と焦るがずっと抱いていて正直肩も腰も痛かったので少し助かる。

「申し訳ありません。…外で遊びたかったみたいなんですけれど…雨ですので」

「そうか。…それ程活発とはお前は剣術に恵まれているかもしれないな。では、行こうか」

「…っ、く?…っ」

「そうだぞ、雨の中遊ぶというのもなかなかいいものだ」

皇帝の言葉を理解したのかヒックヒックとしゃくりあげながら首を傾げるデニスに皇帝が優しく頷く。
まさか、この雨の中遊ぼうと言うのだろうか。
確かに子供のころは誰しもがやったと思う。楽しいのだが…今ここですれば部屋を後々汚すことになる。
そうなっては…いいものだろうか。

「陛下、ですが…。ここから浴場まで距離がございます…のでお部屋を汚してしまいます」

「それならばこの部屋の浴室を使え。…では、行ってくる」

そう言って楽しそうにテラスのガラス戸から皇帝は庭へ出ていってしまった。
その後ろをカレルさんが困ったような、怒ったような表情で見ている。

「カレルさん…申し訳ありません。お仕事中でしたか」

頭を下げると仕方ない、というように笑ったカレルさんが首を振る。

「いえ、仕事はあらかた終わってます。…相変わらず、あの方は子供らしい所があると思っただけです。あと、あのお召し物で行かれるとは正直思わなかったので」

「確かにそうですね…。丹精込めて洗わせていただきます」

「お願いします…」

バチャバチャと水溜まりで泥水を跳ねさせるデニスの手を取り楽しそうな皇帝。
年相応というか、それよりも幼く見える。

「…エディさんは陛下と番われるおつもりはあるのですか?」

「は、はい?」

驚きで声がうわばってしまう。
これはYESが正解なのか、それともNOなのか。
困惑しているとカレルさんが手を軽くあげて制する。

「咎めようとしている訳ではありません。…できれば皇帝の望む通り、番になってやってくださいとお願いしたい所でもあります。私もそれを望みます。
…ですが、それをよく思わない人間もいる。あなたの身分や生い立ちのことも、相手が男の隠者ともなるとそれは大きいでしょう。
あなたへの負担は大きい。陛下は大きな力をお持ちだ、すぐにでも貴方を娶り、妾にでも番にでもすることが出来る。…それをしないのはあなたの事を案じているからです。それ程あなたの事を大切にしておられます。…どうか、そのお心、少しでも御理解ください」

カレルさんが深く頭を下げるものだから慌てて上げてもらう。

「…頭を下げないでください。僕が下げるべきなんですから。
…皇帝が僕らを大切にしてくださっていることは身をもって分かっています。僕の立場や身分も、充分に。ですから僕は素直に、その思いを受け取れません。…僕が傍にいたい、では駄目なんです。だから僕はあくまでデニスを守るためにと思ってやってきました。
…でもやはり情が湧いてしまうのです。自分の心のままに動いてデニスや陛下を危険に晒したくはありません。身の程知らずではありますが…僕はそう思っています」

泥だらけになり、髪を乱して遊ぶ2人を眺める。二人とも、僕の大切な人だ。
たった1人の大切な家族と、どんな内情かは分からないが自分を大切にしてくれる人。

そんな人達を守らなくてどうするのか、守らなければならない。
それが出来ればどうなってもいい。
そう話すと、カレルさんも同じように外を見る。

「…ディビナ嬢には気をつけてください。他にも皇帝の妻にと娘を差し出そうとする貴族は多いです。貴方を邪魔と思う者もいるはず、気を付けてください」

「ありがとうございます。…わかりました」


自分達を脅かすのはディビナ嬢だけではない。
肝に銘じておこう。
その後、すっかりベタベタの泥だらけになった2人を風呂に入れたのはかなり大変だった。

「今日は2人とも泊まっていけ、夕食もここでとれ」

「ですが…」

「いいであろう?、デニスに本を読んでやると約束したのだ」

すっかりデニスは皇帝に懐いている。
風呂上がり、皇帝の髪をとかしている間も、皇帝の膝にちゃっかり座っていた。

こうして肝が太いのは誰譲りなのだろう。姉さんもなかなか気は強かったが心配性だったから違う気もするし、もしかしたら義兄さんかもしれない。

みんながデニスと生きてる、そう思うとなんだか嬉しい気分になった。

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