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Ⅰ -3
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しおりを挟む陛下は1昨晩から視察に向かわれて王宮にいない。
それでも変わらず仕事はあるのだが、食事や入浴の仕事がない分時間はできた。
デニスを迎えに行って、おんぶをしながら皇帝の部屋の掃除をしているとカレルさんに声をかけられる、
「…エディさん。少しよいですか」
「はい、何でしょうか」
「その…あるお方がエディさんと話をしたいと」
「話?」
いつも何事にも動じなさそうなカレルさんが少し困っている。
あるお方、ということは身分が高い人なのだろうか。それにしても、自分の存在は厳重に隠されていないとはいえ大それて公にもなってはいない。
「…詳しいのことは歩きながらお話します。」
「わかりました…あの、デニスは?」
「私が話し中は預かりましょう」
部屋を出て歩き出したカレルさんに慌ててついていく。
「…ローリー伯爵家のご息女、ディビナ嬢という方なのですが…。以前、陛下の婚約者として王宮にいらしたのです。」
「…なるほど」
婚約者、と聞いて少しモヤッとする。
確かに皇帝という身分だ。婚約者もいれば愛人だってなんだって沢山いてもおかしくはない。
自分は皇帝に気に入られている方ではないかと思う。けれとそれは人としてじゃない、ペットか何かを気に入る要領でなのだろう。
それでも恩恵を受けられて、デニスを幸せに育てられるのであればそれでいい。
「しかし…まあ色々ありまして、陛下はそれをお断りになられました。それにも関わらず、頑なにディビナ嬢はお帰りになられず今でもこの王宮にいらっしゃるということです」
「…な、なるほど」
「…なんというか、少し傲慢…いえ、とても愛されて育ち、自信がある方なので…キツと思われます。…特にあなたは今、皇帝から特別境遇が与えられている。それもあって…少し大変かもしれませんが私も傍に着いておりますので頑張ってください」
「はい…」
頑張ってくださいって…。投げやりすぎないだろうか。
怖くなってきた。
しばらく行くと、客室のような部屋へと連れていかれる。デニスをカレルさんに渡し、軽く身なりを整えてみる。
「…カレルでございます。 ディビナ嬢の言う通りエディを連れてまいりました」
部屋から出てきた従者にカレルさんが伝えると部屋へ案内される。
部屋はなんというか、キラキラしていて派手といえる。
中央の豪勢なソファには女の人が腰掛けていた。
「お前がエディ?」
「はい、お呼びでしょうか」
膝まついて頭を下げる。
「へぇ、お前が。…ふぅん、ねえもっと顔をお見せなさい」
立ち上がった彼女が側まで来たと思えば、扇子で顔をくいっと上げさせられる。
「…卑しい顔。お前のような奴隷が何故はあの方のそばに居るのかしら」
そんなのこっちが聞きたいのたが。
「しかもお前、この首輪…隠者?」
ディビナ嬢の言葉に体が強ばる。
もう知られていることなのだが、こうして改めて強く言われると何かされるのではないかと怯えてしまう。
チャリ、と彼女に摘まれた首輪のチャームが音を立てる。
「…この紋様…。そう、お前は隠者!その卑しい体であの方を誘惑したのね。穢らわしいこと…」
罵られ、嘲笑われても耐えるしかない。
誘惑はしていないが、隠者としてこのようなことを言われるのはこれが初めてではない。
下を向いて耐えているとカレルさんにデニスを手渡される。
「ディビナ様、それくらいにお願い致します。…それ以上は、陛下がお怒りになられますので」
頭を下げるカレルさんにディビナ嬢が悔しそうに扇子を握る。
「さっさと下がりなさい。…それと、奴隷、お前は私に会ったことをあの方に言ったら許さないからね。言ったら…その赤子は無事ではいられないかもしれないのだから」
「…かしこまりました」
震える手でデニスを抱きしめて頭を下げ、部屋を後にする。
嫌なことしかない。廊下を歩きながら考え事をする。
「…あまりお気になさらず。身分こそ高いお方ですが、あまりこの王宮に支持者はおられませんから。…皇帝には報告しますか」
「…しないでください」
「何故ですか?」
「…少しでも、デニスに危険が及ぶことはしたくありません。」
「分かりました。…今日はもう部屋に戻っておやすみなさい。明日は昼から出てきてもらって構いません」
そう言ってカレルさんに部屋まで送ってもらった。
部屋に戻ると悔しさが溢れて涙がこぼれそうになる。 隠者だからよく思われないのも知っていた事だ。
少しでも優しくされることを覚えたからだろうか、なんだか弱くなった気がする。
心配そうに顔に小さな手を伸ばしてくるデニスに頬擦りし、ベッドへはいる。
今日は一緒に寝よう。
「…姉さん…」
そう呟くと共に、皇帝の優しい微笑みや声が脳裏に浮かんだ。
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