運命とは強く儚くて

文字の大きさ
上 下
9 / 154
Ⅰ -3

-2

しおりを挟む


陛下は1昨晩から視察に向かわれて王宮にいない。
それでも変わらず仕事はあるのだが、食事や入浴の仕事がない分時間はできた。

デニスを迎えに行って、おんぶをしながら皇帝の部屋の掃除をしているとカレルさんに声をかけられる、

「…エディさん。少しよいですか」

「はい、何でしょうか」

「その…あるお方がエディさんと話をしたいと」

「話?」

いつも何事にも動じなさそうなカレルさんが少し困っている。
あるお方、ということは身分が高い人なのだろうか。それにしても、自分の存在は厳重に隠されていないとはいえ大それて公にもなってはいない。

「…詳しいのことは歩きながらお話します。」

「わかりました…あの、デニスは?」

「私が話し中は預かりましょう」

部屋を出て歩き出したカレルさんに慌ててついていく。

「…ローリー伯爵家のご息女、ディビナ嬢という方なのですが…。以前、陛下の婚約者として王宮にいらしたのです。」

「…なるほど」

婚約者、と聞いて少しモヤッとする。
確かに皇帝という身分だ。婚約者もいれば愛人だってなんだって沢山いてもおかしくはない。
自分は皇帝に気に入られている方ではないかと思う。けれとそれは人としてじゃない、ペットか何かを気に入る要領でなのだろう。
それでも恩恵を受けられて、デニスを幸せに育てられるのであればそれでいい。

「しかし…まあ色々ありまして、陛下はそれをお断りになられました。それにも関わらず、頑なにディビナ嬢はお帰りになられず今でもこの王宮にいらっしゃるということです」

「…な、なるほど」

「…なんというか、少し傲慢…いえ、とても愛されて育ち、自信がある方なので…キツと思われます。…特にあなたは今、皇帝から特別境遇が与えられている。それもあって…少し大変かもしれませんが私も傍に着いておりますので頑張ってください」

「はい…」

頑張ってくださいって…。投げやりすぎないだろうか。
怖くなってきた。

しばらく行くと、客室のような部屋へと連れていかれる。デニスをカレルさんに渡し、軽く身なりを整えてみる。

「…カレルでございます。 ディビナ嬢の言う通りエディを連れてまいりました」

部屋から出てきた従者にカレルさんが伝えると部屋へ案内される。
部屋はなんというか、キラキラしていて派手といえる。
中央の豪勢なソファには女の人が腰掛けていた。

「お前がエディ?」

「はい、お呼びでしょうか」

膝まついて頭を下げる。

「へぇ、お前が。…ふぅん、ねえもっと顔をお見せなさい」

立ち上がった彼女が側まで来たと思えば、扇子で顔をくいっと上げさせられる。

「…卑しい顔。お前のような奴隷が何故はあの方のそばに居るのかしら」

そんなのこっちが聞きたいのたが。

「しかもお前、この首輪…隠者?」

ディビナ嬢の言葉に体が強ばる。
もう知られていることなのだが、こうして改めて強く言われると何かされるのではないかと怯えてしまう。
チャリ、と彼女に摘まれた首輪のチャームが音を立てる。

「…この紋様…。そう、お前は隠者!その卑しい体であの方を誘惑したのね。穢らわしいこと…」

罵られ、嘲笑われても耐えるしかない。
誘惑はしていないが、隠者としてこのようなことを言われるのはこれが初めてではない。
下を向いて耐えているとカレルさんにデニスを手渡される。

「ディビナ様、それくらいにお願い致します。…それ以上は、陛下がお怒りになられますので」

頭を下げるカレルさんにディビナ嬢が悔しそうに扇子を握る。

「さっさと下がりなさい。…それと、奴隷、お前は私に会ったことをあの方に言ったら許さないからね。言ったら…その赤子は無事ではいられないかもしれないのだから」

「…かしこまりました」

震える手でデニスを抱きしめて頭を下げ、部屋を後にする。
嫌なことしかない。廊下を歩きながら考え事をする。

「…あまりお気になさらず。身分こそ高いお方ですが、あまりこの王宮に支持者はおられませんから。…皇帝には報告しますか」

「…しないでください」

「何故ですか?」

「…少しでも、デニスに危険が及ぶことはしたくありません。」

「分かりました。…今日はもう部屋に戻っておやすみなさい。明日は昼から出てきてもらって構いません」

そう言ってカレルさんに部屋まで送ってもらった。
部屋に戻ると悔しさが溢れて涙がこぼれそうになる。 隠者だからよく思われないのも知っていた事だ。
少しでも優しくされることを覚えたからだろうか、なんだか弱くなった気がする。
心配そうに顔に小さな手を伸ばしてくるデニスに頬擦りし、ベッドへはいる。
今日は一緒に寝よう。

「…姉さん…」

そう呟くと共に、皇帝の優しい微笑みや声が脳裏に浮かんだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...