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Ⅰ -3
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しおりを挟む宮廷で生活をするようになって早2週間が経とうとしている。
なんやかんやで、夜就寝前にデニスを連れて皇帝の部屋にいることが多くなった。始めは良いのだろうかと不安に思ったが、結局自分は皇帝の部屋をカレルさんに代わって片付けることになった。
「こら、そのようなことをしては危ないぞ。エディに叱られてしまう」
「う…ぁ…あ!」
「そうだ、お前は聡い子だな」
持ち込んだ洗濯物を畳みながら、敷物の上で遊ぶ皇帝とデニスを見て微笑む。
相手が皇帝であろうと好きなように這っていくデニスに真面目に、だが優しく語りかける皇帝。
なんだか微笑ましいのだ。
「エディ、まだ終わらないのか」
カゴに畳んだ衣類を片していると、いつの間にかデニスを抱いてやってきた皇帝に抱きしめられる。
皇帝からこういったスキンシップが多いのは相変わらずだ。
気恥ずかしくなってしまうような言葉も、真っ直ぐな眼差しもなれない自分にとってはくすぐったい。
自惚れもしれないが、皇帝に気に入られているという自覚はある。
そうでなければこんな連れ子?の面倒まで見てくれないだろうし、こんな一奴隷に側仕えをさせるわけが無い。
「もう終わりましたよ。…もうお休みになられますか?」
皇帝の腕の中からこちらへ抜け出そうとするデニスを受け取り、抱き直しながら尋ねる。
皇帝が寝るなら自分達も部屋に戻ろうと思った。夕食は済ませたし、風呂は皇帝の入浴を手伝ったついでに後から残り湯を頂いてしまった。
ありがたいことに、デニスも夕食やお風呂は既に託児所で済まされていてとても助かる。
助かる反面、もっと一緒に過ごす時間を作らなければとも思っている。
「そうだな。…寝はしないが、ベッドには入ろうと思う」
「では…僕らはこれで失礼致します。」
お休みなさい、と頭を下げて口を開こうとすると皇帝に顔を上げさせられる。
「…お前達もここで寝ろ」
「ですが…たまにデニスが夜泣きをするので」
「構わない。…俺が共に寝たい」
「かしこまりました」
そこまで言われては断れない。
確かに皇帝のベッドは1人で寝るには広すぎる。
広すぎるがこうして皆で寝るものでもないような気もする。
「ほら、入れ」
微笑んで、先にベッドへ入った皇帝に隣を勧められる。
「失礼致します」
一礼してベッドに上がる。
自分の部屋のベッドも十分贅沢だし、ベッドメイキングをする時に既に驚いたのだが、入ってみるのとでは訳が違う。
柔らかくて、笑ってしまうくらい居心地が良い。
毎日ここで眠っているなんて…恐れ多い。
デニスを中央に寝かせ、遊び疲れたからか直ぐに寝息を立て始めたデニスの胸を優しく叩いていると皇帝がこちらを見ていることに気がつく。
「…どうされましたか」
小声でそう訪ねるとさら、と髪を撫でられる。
「お前はデニスの母のようだな」
「…はい。姉さんの代わりに僕がこの子を育てなくてはならないので」
姉さん、と口に出す度胸が痛む。
戦続きで生活はいっそう苦しくて、産後の肥立ちが悪かった姉さんはみるみるうちに弱っていった。
美人と評判だった姉さんの薔薇色の頬は痩けて、明るくキラキラしていた目は暗く、日に日に生気がなくなっていた。
涙が溢れそうになり、慌てて目を逸らし、目を袖で拭おうとすると彼の指が涙を掬う。
「…泣け。お前には俺がいる、何も案じなくていい。強がらなくていい、俺を頼れ、甘えろ」
皇帝の胸に抱き寄せられ、優しく言われる。そうされると涙が止まらなくて、嗚咽をもらしながら泣いた。
泣いたのは姉さんが死んだ日以来だった。
一通り泣くと、そっと顎を上げられ皇帝と目を合わせる。
彼の吐息がかかる。それほど近いのだ。
彼の美しい黒い瞳に囚われていると、ゆっくり彼が近づいてきて唇が重なる。
最初は何が起きたかわならなかった。
が、唇がゆっくり離れて微笑まれると全てを理解した。
「…俺はお前が愛しい」
自分だけに向けられる、とびきりの優しい微笑みと優しくて甘い、低い囁き。
戸惑いに言葉が出なくて、ぎゅっと唇を結ぶ。胸が痛い。体が熱い。
どうしたら良いか分からず戸惑っていると小さく笑いを漏らした皇帝にまたそっと口付けられる。
今回は自分も目を閉じて、そっと彼の寝巻きに手をかけた。
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