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Ⅰ -2
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しおりを挟む「美味いか?」
「はい、とっても美味しいです」
何故か僕は皇帝とピクニックをしている。
珍しく、家来やみはりなどはいない。2人きりの小さな庭園だ。
遡ること小一時間前。
「エディ、昼食は外で食べるぞ」
「外…お出かけされるんですか?」
「いいや違う。…付いてからのお楽しみだ」
「ごゆっくり」とバスケットをカレルさんから受け取り、皇帝に手を引かれる。
向かったのはの宮廷の庭園。
人が頭を下げて道を開けるのを見ると複雑な気分になる。
連れていかれるがままに着いていくと、一通りの少ない、蔓に覆われた小さな門をくぐる。
しばらく細い道を進むと開けた場所に出る。その光景を見て呆気にとられる。
あまりにも、美しかったから。
「…綺麗だろう?俺の秘密の場所といったところか。誰も知らない、だがお前には見せたかったのだ」
「ありがとうございます。…とても…美しいです」
花が咲き乱れ、奥の池の上のあずまやへ続く石畳。
御伽噺のようだ。
「ほら、足元に気をつけろ」
手を取られ、ゆっくりあずまやへ上がると石造りと床へ皇帝が腰かける。
「…何か敷きますか?」
「いや、いい。…たまには良いだろう」
優しげに笑う皇帝に何だか絆され頷き自分も座らせてもらう。
バスケットの中を見ると、サンドイッチやフルーツ、ちょっとしたケーキなんかが入っていた。
「美味しそう…」
空腹から思わずそう呟くとクスっと皇帝の笑い声がに聞こえる。
笑い声を聞いたのは初めてだ。…とは言っても、まだ出会って2日も経っていない。
「食べるか、俺も腹が減った」
「はい。…いただきます」
石畳に料理を並べて頂く。
美味しい、さすがは宮廷の料理。味どころか素材も違うのだろう。
「美味いか?」
「はい、ここのご飯は美味しいです」
正直にそう答えると食べる手を止めて膝に肘を置いて頬杖をついた皇帝が微笑む。
「お前が美味そうに食べる姿は愛らしい。…最も、お前はいるだけで良いのだが」
愛らしいなんて、何だか気恥ずかしくて気を紛らわそうと小さなケーキを齧る。
「愛らしいだなんて、もっと言うべき方がいらっしゃいますでしょうに」
この昼食で会話をしたからか、少し皮肉った言い方になってしまう。
怒っただろうかと様子を伺うと頭を撫でられる。
「いないぞ。お前だけだ、これからもずっと」
真剣な眼差しに目を逸らして口ごもると小さな箱を手渡される。
リボンのかかった綺麗な箱。
「開けてみろ」
不思議に思いながら開けてみると首輪が入っていた。頑丈そうでシンプルだが、アクセントに入っている銀のチャームが上品だ。
「俺からお前にだ。…万が一の事があれば俺はそいつを殺してしまうかもしれないからな、付けといてくれ」
「物騒な…。ありがとうございます、付けさせて頂きます」
「付けてやろう」
大人しく古い首輪を外して首を晒すと、そっと首筋を撫でられる。
思わずぴくりと反応すると「愛いな」と囁かれ、首輪がはめられた。
「良い香りがするな、お前は」
項辺りに皇帝が鼻を擦り寄せる。
「は、発情期は…かなり後だと思いますが…匂いますか?」
「そうか。…いや、発情期ではない。だが良い香りがするのだ」
ふいに後ろから抱きしめられ、驚いてしまう。
「嫌か?」
強ばっていると優しい声色で尋ねられる。嫌ではない、むしろ嬉しいとか心地よいとさえ感じてしまうのだ。
皇帝を出玉にとって嬉しいとか、そういうのでは無い。不思議な感覚だ。
しばらくして、背中にある重みから穏やかな寝息が聞こえてきたのにつられて自分にも眠気が襲う。
ゆっくり皇帝を支えながらひんやりとした石畳に横になる。
さすがに、と思ったので自分の羽織っていた上着を畳んで皇帝の頭に敷く。
これでよし、と思い、眠気故か皇帝の懐に潜り込んで寝てしまった。
再び目覚めると目の前には皇帝の服…いや、皇帝本人がこちらを見下ろして微笑んでいた 。
「も、も申し訳ございませんっ」
慌てて離れようと謝るがぐい、抱き寄せられ身動きが取れなくなる。
「良いでは無いか、俺はまだこうして
いたい」
「かしこまりました。…」
最初は強ばっていた体も今じゃ安心しきって皇帝の懐で眠りこけてしまった。
気がつくと夕暮れで、なかなか離れようとしない皇帝を再度部屋まで連れ戻すのは至難の業だった。
それても、なんだか皇帝もの距離が縮まった気がした。
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