運命とは強く儚くて

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与えられたのは身分の高い、本来ならば皇帝や大臣直属の使用人の生活する部屋の一部屋だった。
それでも十分過ぎるほど広くて、デニス用にゆりかごや玩具なんかもあった。
狭い部屋に4人で暮らしていた時でさえ、雑魚寝でないだけ運がいいと思っていたのに、と何だか落ち着かない。
それでも、有難いと思う。
眠っているデニスをゆりかごに寝かせると寝巻きに着替えてベットに潜り込む。
なんて贅沢なベッド。固くて軋むベットじゃない。
寝心地の良さに目を閉じて数時間前のことを思い出した。





「…お前には、俺の傍となってもらう」

「そんな大役、僕なんかが良いのでしょうか」

傍務めといえば身の回り世話をしたりどんなときもお傍に侍る重要な役目だ。
昔からいるベテランの人がやるものだと思っていたが、いいのだろうか。

「何かしらの手配や、職務のことに関してはカレルがやる。…お前は正直、傍に居るだけでいいのだが…それはお前が嫌であろう?。だから衣食住をお前に任せようと思う」

「…かしこまりました。…精進致します」

不安しかないが、こう言われてはそう言うしかない。




今までも王宮に勤めていたとはいえ、本当に下働きで洗濯と洗い物、食事の下ごしらえの繰り返しだった。
それなのに今では、顔も見ることの出来なかった身分の方の傍務めなんて不思議な話だ。
上手くいくといいな、なんて思いながら意識を落とした。

再び目を覚ましたのは朝5時。
今までもこれくらいの時刻に起きていたので問題は無い。 少し早いがデニスの面倒もあるのでちょうど良いくらいだろう。

デニスを起こさないようにベッドから抜け出し、先に支度を済ませてから、デニスを起こす。
まだ半分寝ているデニスの体を拭ってやり、用意されていた服を着せてやる。

約束の7時頃、デニスが泣き出さないようにあやしながら廊下を歩いているとカレルさんがやってくる。

「おはようございます。お早いですね、案内します」

「おはようございます…はい、ありがとうございます」

短い会話をするとさっさと歩いていってしまう彼の後ろを慌てて着いていく。
怖くもないが、特別優しくもない。何と言うか、無機質な方だ。
それから30分ほど説明を受けてデニスを託児所へ預け、食堂で賄いを食べる。
今朝は説明やらで時間がなかったが、明日からはできる限りデニスと食べるようにしよう。

言われた通り、各場でタオルや、水差しやお湯を受け取りワゴンで皇帝の部屋まで運ぶ。
時刻の8時半前に到着すると既にカレルさんが待っていた。

「先程ぶりですね。…では、行きましょう」

さっさと重たそうなドアを開けて入ってしまう。
慌て目追いかけ、奥の寝室へと向かう。

「…起こしてください。着替えをとってくるので」

「分かりました」

衣装部屋へ入って行ってしまったカレルさんを見送り、ぐっすりと眠っている皇帝に声をかける。

「陛下、お目覚めください。…朝ですよ」

カーテンを開けて声をかけてもモゾモゾと動くばかりでなかなか起きない。苦戦していると衣装部屋から「揺すってください」と言われたので恐る恐る肩を掴んで軽く揺すってみる。

「…うう…ん?…」

「おはようございます。…朝ですよ」

「…エディか。…おいで」

やっと起きてくれたと思ったのも束の間、腕を捕まれ、腰を引き寄せられてベッドに引きずり込まれてしまった。

「陛下…っ、お目覚めください」

「覚めてるさ…。ただ目を開けてお前がいるというのはいいな、見るだけでは足りなくなる」

退かなくてはと困っていると額に怒りマークを浮かべたカレルさんに布団をひっぺがされ、やむを得ず起きて着替え始めた皇帝だった。

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