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Ⅰ -1
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しおりを挟む胸に抱いていたデニスがぐずり出す。無理もない、ここ2日間、身一つで捕らえられて暗い牢獄に放り込まれたのだから。
「姉さん…僕らをお守りください」
デニスをあやしながら縋る思いで祈る。これ以上、誰も失いたくない。今ではたった一人の肉親であるデニスを抱きしめた。
やっとのことでデニスが泣きやみ、壁にもたれて自分も眠りにつく。
幼い頃に両親を亡くし、姉と二人で生きてきた。陰者である自分は地位も低く、生活は厳しかった。
幸い、姉の勤めていた王宮のツテで下働きをさせてもらえることになり、慎ましながらも幸せな生活を送っていた。
そんな生活を送っていた頃、姉は兵士の一人と結婚して、約1年前にデニスが生まれた。
新しい家族と幸せな生活が始まると思っていた。
しかしそれは先日起きたリワーフ帝国との戦によってあっという間に崩れてしまった。
姉さんの旦那さんは帰らぬ人となり、姉さんはそのショックもあってか病気で亡くなってしまった。「デニスを守って」という遺言を残して。
姉さんが亡くなって数日後、戦火は自分達の暮らすルドアにも及んだ。
デニスを連れて勤め先の王宮に避難していたところを攻められ、あっという間にルドアは負けてしまった。
王宮に残っていた人達は捕らえられ、今に至る。
逃げる時に持ち出せられた抑制剤と少しの薬草を帯の隙間に隠してきた。
これからどうしたら良いのだろうとそんなことを考えながらウトウトしていると勢いよく鉄格子が開かれる音で目を覚ます。
慌ててデニスを抱きしめ様子を伺う。入ってきたのは数名のリワーフ兵と役人であろう冷ややかな黒くずめの男。
役人の男はゆっくりと捕虜の顔を見ながら歩いてくる。残党狩りだろうか。
それなら自分は関係がない。とりあえずは良かった、なんてホッとしていると役人の足が自分の目の前で止まる。
「…お前…」
呼びかけられた冷たい声に体が震える。殺されてしまうのだろうか。デニスを守らなくては。でもどうやって?
「…ある方がお呼びだ。傷つけはしない、着いてきなさい」
震えているとずっしりとした布が肩にかけられる。男の着ていた上着らしい。…優しいのだろうか。
震える足で立ち上がると「待て」と制止させられる。
「…その赤子は…お前の子か」
言葉につまる。
自分の子と言った方がいいだろうか。その方が一緒に連れて行けるし庇う理由も出来る。
「…そうです」
恐怖で声が出ず、か細い声でそう答えると男は特に何も咎めず「よろしい」と歩き出した。
兵士に後ろをせっつかれて他の捕虜の視線の中牢獄の外へと出た。
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