8 / 33
サポートします!(物理)
しおりを挟む
「え? やあよ。何で私が」
「そんなこと言わずに、ね? 一生のお願いだから! 一人だけじゃちょっと不安なのよ」
私はゾアの屋敷で手を合わせて必死で頼み込んでいた。
「グレンを手助けしたいのは分かるけど……」
「昼間起きれない人間に、主に活動が昼間の魔物退治って無理があるでしょう? 倒した数勝負なのよ? それにもし彼が襲われたらどうするのよ」
私が頼んでいるのは、私が陰ながらサポートしたいので一緒に山に行ってくれないか、と言う話である。
「ほら、ゾアは弓が得意だし、何かあれば頼りになるじゃない」
「止めてよ。エヴリンがしょっちゅう山に遊びに連れて行くから自衛のために覚えただけだし、レディーになるためにはもう不要な技術だわ」
「でももう婚約者もいる訳だし、自衛のためだけとは思えないほど熱心に練習していたじゃないの。協力して獲物を仕留めた時には一緒にハイタッチもして喜んでいたのに、完全封印してしまうのは勿体ない腕じゃない? 才能あるんだもの」
ゾアは自分が小柄で筋力が弱く、重たい剣さばきには向いてないと判断したためか、早くから弓の鍛錬をしていた。彼女はかなり目が良いので遠くの獲物を見つけるのも早かった。私がとにかくアウトドアなタイプだったので、気がつけばゾアも流されてという感じではあったが、少なくとも弓の腕は一級なのである。
「あのねえ、キアルのためならまだしも、何故グレンのために私が動かないといけないのよ?」
「とりあえずね、私はゾアのところでお泊り会をしたいと父様に言うから、ゾアの家でも何とか口裏を合わせて欲しいのよ。二日ぐらいなら何とかなると思うの」
「だから人の話を聞きなさいよエヴリン」
「心配でいてもたってもいられないのよ。……それに、ちょっと格好良いじゃないの。隠れて人助けして、人知れず姿を消すとか正義のヒーローみたいで」
「…………」
「ゾア、今ちょっと気持ち揺らいだでしょ?」
「……そんなことないわよ」
「子供の頃、川原で小さい子が溺れそうになっていたのを見つけて二人で助けに行ったの、覚えてる?」
「……そうね」
「そしたら私たちもびしょ濡れになって、一緒に溺れそうになったのをグレンが助けてくれたわよね? ああ格好良かったわ本当に」
「そんなことも……あったかしらね」
「彼は『困っている友だちを助けるのは当然だから気にするな』ってお礼も言わせてくれなかったけど、今こそ困っている友だちを助ける時じゃない? まあ私は友だちではなく未来の旦那様希望なのだけど」
「……隠れて人助け、ねえ……」
「それに、ゾアだってレディーがどうとか言ってるけれど、実は野山を駆け回るの案外好きでしょう? 私と縁を切らなかったぐらいだもの」
ゾアはぴくりと眉を上げる。
「結婚したらそんなことも出来なくなるでしょうし、独身の間だけよ? 好き勝手に動けるのも。もちろんゾアが危険になるようなことはしないし、その時には私が命に代えても守るわ。私は後先考えないタイプでしょう? 絶対に彼の邪魔にならないようにしたいの。だから冷静に客観視出来る、司令塔としてのゾアが必要なの」
「司令塔……ふふ、いい響きじゃないの」
ようやくその気になってくれたのか、ゾアが笑みを浮かべた。
「──分かった。ひっそりとグレンの護衛と手助けをすること、協力するわ。私の愛弓スペシャルゾアの引退仕事ね」
「ありがとう! 愛してるわゾア!」
ゾアにがばっと抱きついた。だけどネーミングセンスはイマイチなのよねえこの子、と思いながらも味方が出来た安堵に胸を撫で下ろした。
幼馴染みのゾアのことをいたく気に入っている父は、お泊り会については快諾してくれた。
「ゾアもそろそろ結婚するし、そうそう気軽には出歩けないだろうからな」
「そうなのです。ですから親友のエヴリンと心ゆくまで語り合いたいのですわ陛下」
「公の場でなければ前みたいに気軽にローゼンおじ様で構わないよ。娘もゾアも、どんどん大人になってしまうようで私も悲しいからね」
「ありがとうございますローゼンおじ様!」
父にキラキラした眼差しでお礼を言うゾアに頷きながら、
「エヴリンもゾアを見習って素敵な淑女になるように頑張りなさい」
と私に説教をして来た。
彼女、さっきまで自室であぐらをかいた状態で弓の手入れしてましたけれども、そういった辺りを見習えば良いでしょうか? それとも矢じりに塗る毒と眠り薬に使う薬草を、満面の笑みでゴリゴリと器で砕いていた手際の良さ辺りも見習った方が良いでしょうか?
ともあれゾアの父への受けの良さは大変ありがたい。
私とゾアは、明日の待ち合わせ場所を決め、誰かに見られても参加者の一人と誤解されるよう動きやすい男性の格好をすること、食料と治療薬などの分担を決めて別れた。
……グレン、私たちが万全のサポートをするから、どうにか試練を乗り越えて突破してちょうだいね。
私は祈るような気持ちで早めにベッドに潜り込んだ。
「そんなこと言わずに、ね? 一生のお願いだから! 一人だけじゃちょっと不安なのよ」
私はゾアの屋敷で手を合わせて必死で頼み込んでいた。
「グレンを手助けしたいのは分かるけど……」
「昼間起きれない人間に、主に活動が昼間の魔物退治って無理があるでしょう? 倒した数勝負なのよ? それにもし彼が襲われたらどうするのよ」
私が頼んでいるのは、私が陰ながらサポートしたいので一緒に山に行ってくれないか、と言う話である。
「ほら、ゾアは弓が得意だし、何かあれば頼りになるじゃない」
「止めてよ。エヴリンがしょっちゅう山に遊びに連れて行くから自衛のために覚えただけだし、レディーになるためにはもう不要な技術だわ」
「でももう婚約者もいる訳だし、自衛のためだけとは思えないほど熱心に練習していたじゃないの。協力して獲物を仕留めた時には一緒にハイタッチもして喜んでいたのに、完全封印してしまうのは勿体ない腕じゃない? 才能あるんだもの」
ゾアは自分が小柄で筋力が弱く、重たい剣さばきには向いてないと判断したためか、早くから弓の鍛錬をしていた。彼女はかなり目が良いので遠くの獲物を見つけるのも早かった。私がとにかくアウトドアなタイプだったので、気がつけばゾアも流されてという感じではあったが、少なくとも弓の腕は一級なのである。
「あのねえ、キアルのためならまだしも、何故グレンのために私が動かないといけないのよ?」
「とりあえずね、私はゾアのところでお泊り会をしたいと父様に言うから、ゾアの家でも何とか口裏を合わせて欲しいのよ。二日ぐらいなら何とかなると思うの」
「だから人の話を聞きなさいよエヴリン」
「心配でいてもたってもいられないのよ。……それに、ちょっと格好良いじゃないの。隠れて人助けして、人知れず姿を消すとか正義のヒーローみたいで」
「…………」
「ゾア、今ちょっと気持ち揺らいだでしょ?」
「……そんなことないわよ」
「子供の頃、川原で小さい子が溺れそうになっていたのを見つけて二人で助けに行ったの、覚えてる?」
「……そうね」
「そしたら私たちもびしょ濡れになって、一緒に溺れそうになったのをグレンが助けてくれたわよね? ああ格好良かったわ本当に」
「そんなことも……あったかしらね」
「彼は『困っている友だちを助けるのは当然だから気にするな』ってお礼も言わせてくれなかったけど、今こそ困っている友だちを助ける時じゃない? まあ私は友だちではなく未来の旦那様希望なのだけど」
「……隠れて人助け、ねえ……」
「それに、ゾアだってレディーがどうとか言ってるけれど、実は野山を駆け回るの案外好きでしょう? 私と縁を切らなかったぐらいだもの」
ゾアはぴくりと眉を上げる。
「結婚したらそんなことも出来なくなるでしょうし、独身の間だけよ? 好き勝手に動けるのも。もちろんゾアが危険になるようなことはしないし、その時には私が命に代えても守るわ。私は後先考えないタイプでしょう? 絶対に彼の邪魔にならないようにしたいの。だから冷静に客観視出来る、司令塔としてのゾアが必要なの」
「司令塔……ふふ、いい響きじゃないの」
ようやくその気になってくれたのか、ゾアが笑みを浮かべた。
「──分かった。ひっそりとグレンの護衛と手助けをすること、協力するわ。私の愛弓スペシャルゾアの引退仕事ね」
「ありがとう! 愛してるわゾア!」
ゾアにがばっと抱きついた。だけどネーミングセンスはイマイチなのよねえこの子、と思いながらも味方が出来た安堵に胸を撫で下ろした。
幼馴染みのゾアのことをいたく気に入っている父は、お泊り会については快諾してくれた。
「ゾアもそろそろ結婚するし、そうそう気軽には出歩けないだろうからな」
「そうなのです。ですから親友のエヴリンと心ゆくまで語り合いたいのですわ陛下」
「公の場でなければ前みたいに気軽にローゼンおじ様で構わないよ。娘もゾアも、どんどん大人になってしまうようで私も悲しいからね」
「ありがとうございますローゼンおじ様!」
父にキラキラした眼差しでお礼を言うゾアに頷きながら、
「エヴリンもゾアを見習って素敵な淑女になるように頑張りなさい」
と私に説教をして来た。
彼女、さっきまで自室であぐらをかいた状態で弓の手入れしてましたけれども、そういった辺りを見習えば良いでしょうか? それとも矢じりに塗る毒と眠り薬に使う薬草を、満面の笑みでゴリゴリと器で砕いていた手際の良さ辺りも見習った方が良いでしょうか?
ともあれゾアの父への受けの良さは大変ありがたい。
私とゾアは、明日の待ち合わせ場所を決め、誰かに見られても参加者の一人と誤解されるよう動きやすい男性の格好をすること、食料と治療薬などの分担を決めて別れた。
……グレン、私たちが万全のサポートをするから、どうにか試練を乗り越えて突破してちょうだいね。
私は祈るような気持ちで早めにベッドに潜り込んだ。
10
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」
「恩? 私と君は初対面だったはず」
「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」
「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」
奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。
彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
はぐれ妖精姫は番の竜とお友達から始めることになりました
Mikura
恋愛
「妖精姫」――侯爵令嬢オフィリア=ジファールは社交界でそのような二つ名をつけられている。始めは美しい容姿から賞賛の意味を込めての名だった。しかしいつまで経っても大人の証が訪れないことから次第に侮蔑の意味を込めて「はぐれ妖精姫」と呼ばれるようになっていた。
第二王子との婚約は破談になり、その後もまともな縁談などくるはずもなく、結婚を望めない。今後は社交の場に出ることもやめようと決断した夜、彼女の前に大きな翼と尾を持った人外の男性が現れた。
彼曰く、自分は竜でありオフィリアはその魂の番である。唐突にそんなことを言い出した彼は真剣な目でとある頼み事をしてきた。
「俺を貴女の友にしてほしい」
結婚を前提としたお付き合いをするにもまずは友人から親しくなっていくべきである。と心底真面目に主張する竜の提案についおかしな気分になりながら、オフィリアはそれを受け入れることにした。
とにもかくにもまずは、お友達から。
これは堅物の竜とはぐれ者の妖精姫が友人関係から始める物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる