異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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結婚式【2】

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 リンダーベルはハルカとクラインの結婚式の前から、商店街や市場の人たちは総出で広場の周辺をトンカントンカンやっていた。

 広場の中央にはやぐらが組み上がって行き、周囲を囲むようにズラリと屋台の出店の枠組みが出来ていく。

 そう。ハルカが望んだのは『縁日の広がる祭』である。


※   ※   ※


「この国ではキチンとした教育を与える場が少ないです。一般家庭の子供だって孤児だって、読み書きも計算も覚束ない子が多い。これでは将来仕事を見つけるにしても大変だし選択肢は減るし、そのせいで変な契約書掴まされたり給料ちょろまかされたりと騙される事も多くなります」

 商店街の人間と市場の人間を集めて、集会所でハルカは熱弁した。

「なので、この機会に各町で学校を作りたいのです。基本的な読み書き、計算が出来たり、運動やモノ作りなど自分の特技を伸ばす。
 学ぶ場所が増えれば、特に仕事が見つかりにくい孤児でも正当な報酬を貰えるようなチャンスが増えると思います」

「でもよハルカちゃん。そういうのは大切だけど、お金がかかるだろ?」

 魚屋のおじさんが腕組みをしてハルカを見た。

「例え一時的に寄付とかで賄えたとしてもよ、何年も続けていくと、運営費ってのがかかるだろうよ。マーミヤ商会がまさか全部持つわけにもいかないだろうが」

「だよなぁ。それに主に親がいない孤児の為だろ?うちらはあまり関係ないって言うか、なあ」

 町の人間がザワザワ話し出す。

「勿論、マーミヤ商会でも将来のうちの従業員になるかも知れませんし、援助はします。でも、孤児だからうちとは関係ないって、どうして言えます?
 おじさんだっておばさんだって、病気でポックリ逝くかも知れないし、明日馬車に引かれて死ぬかも知れない。冒険者で戦って死ぬ人もいれば、怪我をして仕事が出来なくなるかも知れないじゃないですか」

「そっ、そりゃそーだけどよ」

「私も親を同時に事故で亡くしました。誰にだって孤児になる可能性はあるんですよ。いつまでもあると思うな親と金、と言うでしょう?………ん?こっちでは言わないのかな」

 ハルカは少し首を傾げたが、また続けた。

「ですから、他人事ではなく自分達の子供が万が一孤児になる事も想定して下さい。だから町からも定期的に『労働力』という援助が欲しいんです」

「労働力?」

「はい。まあ結婚を機にするのもアレですけど、毎年定期的に『祭』をして、屋台の出店を沢山出して貰います。あ、必要経費はうちで出しますし、どんな店がいいかも指示します。
 その際に、屋台でボランティアで働いて頂きたいんです。で、その売り上げを学校の運営費に寄付すると。
 だから頑張って売って頂ければ御の字です。………でも子供が買えるように一律10ドランで行きましょう。それでも出店の売り上げをまとめれば結構な金額になるはずですし」

 パン屋のおばさんが、呆れたような顔をした。

「ハルカちゃん、それじゃマーミヤ商会の利益出ないじゃないか。けっこうな持ち出しだよ」

「俺たちは労働力だけでいいのか?そんなに沢山は無理だが、少しぐらいなら寄付も………」

「はい労働力だけで充分です。
 あと利益はマーミヤ商会の方で出てますので別にいいんです。子供たちの未来に投資すると思って下さい。
 それに祭って楽しいじゃないですか。子供たちも喜ぶでしょうし、大人の私も大好きです。
 やっぱり人生たまには楽しい事もないとつまんないでしょう?
 おじさん達だって、働いて売り上げた分が沢山の子供たちの為に使われるなら良いことじゃないですか?この国の発展も子供たちにかかってますから」

「………いいんじゃねえか?俺たちはちっと働くだけで子供たちの為になるしよ。商売や仕事してるヤツは休みを使うかずらすかすればいいだろ」

 黙って聞いていた居酒屋のおっちゃん(よく見たらミリアンのお父さんだった!)が、ハルカに笑顔を向けた。

「うちはハルカちゃんとこの調味料のお陰で美味いツマミも作れるようになったし、売り上げも増えた。正直マーミヤ商会様様だから、労働力の1つや2つ、屁でもないな」

「………うちもハルカちゃんとこに野菜を沢山卸せてるし、生活は楽になったもんなあ。飯も美味くなったし、時々買うパティスリーハルカのシュークリームが楽しみなんだよねあたしゃ」

「よし、ハルカちゃんの計画に賛同するヤツは挙手してくれ」

 全員の人から手が上がり、ハルカは感動で目が潤む。

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」

 ぺこぺこと頭を下げるハルカに、

「金を出す側が頭を下げてどうすんだよハルカちゃん」

 と洋服屋のおはちゃんにペシッと頭を叩かれた。

「それでー、あの、ついでなんですが………」

「なんだい?」

「普通の学校とは別に、料理人を育てる学校を作りたいなと思ってるんですが、いいですかね?
 うちの調味料を使って、美味しく調理できる人が増えるといいなーって。
 私も前みたいに料理教室とか出来る時間がなかなか取れないですし、学校として教える方がまとめて出来て楽かな~なんて」

「おい、ちょっと待て。それは年齢制限はないのか?」

 何人かが身を乗り出した。

「えーと、いや別に考えてませんが」

「「「そっちも是非頼む。俺(私)たちも勉強したい」」」

 やはりこの国の人は食いしん坊ばかりだとハルカは実感するのだった。


※   ※   ※


「ハルカ、支度は出来たのか?」

 クラインが呼び掛けると、

「大丈夫ーー」

 とハルカが大きな打楽器を抱えてリビングに置いた。


 ちなみに祭が終わるまでは今までの家にいる事になったので、内心ちょっぴり残念なクラインではあったが、ハルカが楽しそうなのを見ていると、そんな事はどうでもいい気持ちになる。

『ハルカ、何なのそれ』

 シャイナさんが自分の身体より大きな打楽器を見て驚いた。

「これはね、私が住んでいた国では祭に欠かせないタイコって言うのよ。
 私もトラちゃんのネット通販でこんなもの売ってるとは思わなかったから思わずポチっとしたんだけど、中学校でやったきりだからねー」

 あ、ちょっと離れててね、と言うと、木の棒を二本取り出し両手で掴む。


 カンカンカン、タカタッタ、タタンダタン。ドンドンドン ドドドン ドーンドン!


「おお、振動が来るが、なんかこう気分が盛り上がるな」

 プルがハチマキにハッピ姿でソファーに座り、お茶を飲みながら声をかけた。
 朝食を終えたばかりなのに、草餅がテーブルに置いてある。
 ハルカが冷蔵庫の横に常備してあるオヤツボックスから出してきたらしい。

「プルちゃん、縁日で買い食いするんだから、食べ過ぎたらダメだよ」

 と叱ると、

「お前は俺様の本当の食欲を知らない。祭のために3キロのダイエットを敢行したのだ。ぷりちーな身体がスレンダーになってるだろうが。
 それもこれも、祭で美味しいものをたらふく食べるためなのだ」

「プルちゃんはスレンダーで維持しようとする意思はないのね」

 ミリアンが髪をまとめた浴衣姿で現れた。

「ガリガリの妖精など可愛さのかけらもないだろうが。ベスト体重で維持するのも俺様の務めよ。スリーサイズの落差をなるべく排除することで丸みのあるシルエットを保つのも大変なのだ」

『プル様はこのすとーんすとーんすとーんと潔いボディーが素晴らしいのです』

 メモを渡して来たトラに、

「まあ腰にくびれがあるプルちゃんとかむしろキモいからいいけどさ。あれ、ハルカは浴衣じゃないの?」

 ハチマキとハッピ姿のハルカに意外そうな目を向けたが、タイコを見て納得した。

「あー、それ叩くなら浴衣姿はやりづらいわよね」

「そうなのよー」

 祭のために、人や人の姿になれるムルムルやフルフル達には浴衣をプレゼントし、シャイナさんや三つ子、クロノスやラウールにはカラフルなハチマキを首に巻いた。

「これは迷子になっても探知機能とケガしないように防御結界張ってあるからね。外さないでね」

『分かったわ』

《ワシが食った事がないものが沢山あるとエエのう》

「あ、思い出した!ちょっと待ってて」

 ハルカはダッシュで二階に上がると、袋を持って降りてきた。

「はーい、皆さんにお小遣いを渡しまーす」

 小さな巾着にジャラジャラと小銭が入ったものを各々に手渡す。

「このコイン1枚が10ドランね。これ1つで1個品物が買えるから、自分達で考えて使ってね。3日分のお小遣いで1人500ドランずつ入ってるからねー」

「え?でも俺たちは給料貰ってますからいいですよ」

「そうですそうです!」

 慌ててムルムルとフルフルが断ると、

「ファミリーなんだから気にしない気にしない。親代わりだからたまにはね」

 感激して受け取る二人を眺めながら、ケルヴィンが、

「親代わりって、自分より何倍も何百倍も年上ですけどねぇ、彼らもラウールも」

 とクラインに笑いかけた。

「まあそういう抜けたところもハルカは可愛いんだ」

「ところで、サウザーリン公爵と公爵夫人て呼んだ方がいいんですかねこれからは」

「止めろ気持ち悪い。クラインでいい」

「公爵って気品あるツラじゃねーだろクラインは。今までのまんまでいいじゃんか」

「偉そうな事を言うのはこのしもぶくれかええおい?」

 プルの頬っぺたをぶにーんと引っ張るクラインに「あだだだっやめほっへ」と抵抗したプルは、

「誰がしもぶくれじゃ天上の美貌つかまえて。やるのかコラ外へ出ろ」

 とヲラヲラ顔でクラインに詰め寄った。

「ふん。一発でプル太郎侍に変身できたら相手になってやろうじゃないか」

「言ったな?俺様のツキの良さを思い知れ~」

 プルがポチっとペンダントを押すと、そこには腰元姿のプルが膝から崩れ落ちていた。

「ほれほれ」

「あ~れ~」

 帯をクルクル解かれて転がっていくプルを見つけたハルカは、

「クライン、何ふざけてるのもう。出掛ける前の忙しい時に」

 と呆れ顔になった。

「いや、プルがなっ」

「小さい子のちょっかいに本気になってどうするの大人げない。プルちゃんが目を回してるじゃないのよ。大丈夫?プルちゃん」

「お~、頭ぐらぐらする~」

「そいつ子供じゃないだろうがハルカ、おいっ」
 
 プルがハルカに見えないようにニヤリと笑ってるのを見て、やられたとクラインは唇を噛んだ。


 そんなこんなバタバタしつつも、ファミリーは祭りへ出発するのだった。





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