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プルとハルカの受難。
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「………………おぇ~」
甲板の上で手すりにもたれて海に頼まれてもないエサを撒く私。
そう、私は三半規管が弱い。
前世からバスも弱かったが特に船には弱かった。
この揺れが足元の不安定さを煽り、どうにもこうにも吐き気が止まらない。ツラい。
「ハルカは魚介類が好きな癖に、ホント船に弱いよなぁ。別に荒波でもねえじゃんか」
プルちゃんが背中を擦りながら呆れる。
「それとこれとは、関係ないでしょうが………うぇ~」
凪いだ穏やかな船が進むなか、相変わらず私は船酔いに苦しんでいた。
「陸で待ってれば良かったんじゃないのか?狩りは俺達に任せて」
クラインはポットからアイスティーをカップに注いで渡してくれた。
あー、美味しい。生き返る………。
《しかし、結構網にもかかったようじゃし、そろそろ戻ってもいいんじゃないかのぅ?》
ラウールが言うように、確かに1メートル前後の前世から見ても結構な大きさのマダーイが網にワンサカとかかり、美味しそうなマダーイ達が二度ほど甲板の真ん中にある水槽に放り込まれた。
ジェイソンさんも「大漁大漁♪」と喜んでいたし、好きなだけにマーミヤ商会に経費だけで卸してくれると言う。多分結婚式の料理にも充分過ぎるほど間に合う量だと思う。
「でも、まだ大物が来ない………」
この事である。
大物はより味がいいと聞くし、その上ピノの町の漁師達にも迷惑な存在だそうだ。
私達が頂いて帰ったところで誰が困る訳でもない。むしろ感謝される位だ。
結婚式の後に我が家で当分マダーイめしとカルパッチョとマダーイ茶漬けとムニエルと塩焼きに困る事もない。
そう、WINWINの関係である。
「あのなぁハルカ………確かに俺らは困っちゃいるんだが、わざわざマーミヤ商会のトップにゲーゲーしながら戦って貰いたいとまでは思っちゃいねえよ。綺麗どころが台無しじゃねーか。
もう無理しないでいいから戻ろうぜ?」
操舵席からジェイソンさんが労るような声をかけてくれた。
「ジェイソンさん、大丈夫だ。こう見えてもハルカは諦めないし執念深い。ここで無理に帰ると後々まで『大物マダーイが食べられなかった……どんな味だったのかな…』と後悔で枕を濡らす羽目になる。もう少し付き合ってくれ」
クラインがまるで私の心を読んだかのような発言をしてるのに驚いた。
「っっ、………流石に私の性格を熟知してるわねクライン」
「残念なところも引っくるめて好きだからな」
しょうがないといったように微笑んで頭を撫でられた。………ヤバい。やっぱりコイツはイケメンだと私は目を逸らした。
「………お?なんだあの小島みたいなの」
プルちゃんが身を乗り出すような体勢で声を上げた。
私とクラインが視線をやると、明らかにゆっくり移動してる大きな存在が。
50メートルとまではいかないが、40メートルは越えているだろう巨大なソレ。
ほぼこの船と同じサイズである。
「ボスマダーイが出たぞ!!」
ジェイソンさんの声に少しの怯えが混じる。
「網に引っ掛からないよう転回しろ!」
クラインがジェイソンさんに叫ぶ。
やっぱりマダーイ様。
クジラか巨大ザメかと思わせる超ボリューミーな体、何千回食べられるかを想像しただけで吐き気も遠のくほどだ。
しかし、でかすぎる。
あれをどうやって仕留めればいいか悩む。
「俺様が火魔法で攻撃するか?」
プルちゃんが耳打ちする。
「火はダメ、絶対。生食不可になる。風魔法でカッター使うべきかしらね。でも頭は頭でカブト焼にしても………」
「迷ってる暇ねえぞハルカ!近くまで来て」
る、と言おうとしたプルちゃんが何かぶつかったような衝撃で宙に投げ出された。
「うおっっ!!」
「プルちゃん!」
手を伸ばすも届かず、下を見ると口を開けたボスマダーイが真っ赤な咥内を覗かせていた。
気がついたら私も甲板を乗り越えて飛んでいた。咄嗟にプルちゃんを捕まえ抱え込む。
「ばっ!ハルカーーッッ!!」
クラインが叫ぶ目の前で、私とプルちゃんを飲み込んだボスマダーイは、
ぱくり
と口を閉じて、またゆったりと移動を始めたのだった。
甲板の上で手すりにもたれて海に頼まれてもないエサを撒く私。
そう、私は三半規管が弱い。
前世からバスも弱かったが特に船には弱かった。
この揺れが足元の不安定さを煽り、どうにもこうにも吐き気が止まらない。ツラい。
「ハルカは魚介類が好きな癖に、ホント船に弱いよなぁ。別に荒波でもねえじゃんか」
プルちゃんが背中を擦りながら呆れる。
「それとこれとは、関係ないでしょうが………うぇ~」
凪いだ穏やかな船が進むなか、相変わらず私は船酔いに苦しんでいた。
「陸で待ってれば良かったんじゃないのか?狩りは俺達に任せて」
クラインはポットからアイスティーをカップに注いで渡してくれた。
あー、美味しい。生き返る………。
《しかし、結構網にもかかったようじゃし、そろそろ戻ってもいいんじゃないかのぅ?》
ラウールが言うように、確かに1メートル前後の前世から見ても結構な大きさのマダーイが網にワンサカとかかり、美味しそうなマダーイ達が二度ほど甲板の真ん中にある水槽に放り込まれた。
ジェイソンさんも「大漁大漁♪」と喜んでいたし、好きなだけにマーミヤ商会に経費だけで卸してくれると言う。多分結婚式の料理にも充分過ぎるほど間に合う量だと思う。
「でも、まだ大物が来ない………」
この事である。
大物はより味がいいと聞くし、その上ピノの町の漁師達にも迷惑な存在だそうだ。
私達が頂いて帰ったところで誰が困る訳でもない。むしろ感謝される位だ。
結婚式の後に我が家で当分マダーイめしとカルパッチョとマダーイ茶漬けとムニエルと塩焼きに困る事もない。
そう、WINWINの関係である。
「あのなぁハルカ………確かに俺らは困っちゃいるんだが、わざわざマーミヤ商会のトップにゲーゲーしながら戦って貰いたいとまでは思っちゃいねえよ。綺麗どころが台無しじゃねーか。
もう無理しないでいいから戻ろうぜ?」
操舵席からジェイソンさんが労るような声をかけてくれた。
「ジェイソンさん、大丈夫だ。こう見えてもハルカは諦めないし執念深い。ここで無理に帰ると後々まで『大物マダーイが食べられなかった……どんな味だったのかな…』と後悔で枕を濡らす羽目になる。もう少し付き合ってくれ」
クラインがまるで私の心を読んだかのような発言をしてるのに驚いた。
「っっ、………流石に私の性格を熟知してるわねクライン」
「残念なところも引っくるめて好きだからな」
しょうがないといったように微笑んで頭を撫でられた。………ヤバい。やっぱりコイツはイケメンだと私は目を逸らした。
「………お?なんだあの小島みたいなの」
プルちゃんが身を乗り出すような体勢で声を上げた。
私とクラインが視線をやると、明らかにゆっくり移動してる大きな存在が。
50メートルとまではいかないが、40メートルは越えているだろう巨大なソレ。
ほぼこの船と同じサイズである。
「ボスマダーイが出たぞ!!」
ジェイソンさんの声に少しの怯えが混じる。
「網に引っ掛からないよう転回しろ!」
クラインがジェイソンさんに叫ぶ。
やっぱりマダーイ様。
クジラか巨大ザメかと思わせる超ボリューミーな体、何千回食べられるかを想像しただけで吐き気も遠のくほどだ。
しかし、でかすぎる。
あれをどうやって仕留めればいいか悩む。
「俺様が火魔法で攻撃するか?」
プルちゃんが耳打ちする。
「火はダメ、絶対。生食不可になる。風魔法でカッター使うべきかしらね。でも頭は頭でカブト焼にしても………」
「迷ってる暇ねえぞハルカ!近くまで来て」
る、と言おうとしたプルちゃんが何かぶつかったような衝撃で宙に投げ出された。
「うおっっ!!」
「プルちゃん!」
手を伸ばすも届かず、下を見ると口を開けたボスマダーイが真っ赤な咥内を覗かせていた。
気がついたら私も甲板を乗り越えて飛んでいた。咄嗟にプルちゃんを捕まえ抱え込む。
「ばっ!ハルカーーッッ!!」
クラインが叫ぶ目の前で、私とプルちゃんを飲み込んだボスマダーイは、
ぱくり
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追記(2021/10/7)
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更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
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