異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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マダーイマダーイ。

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 その日の夜。


 みんなが仕事から戻ってきて、夕食の時間。ちなみに今夜の晩ごはんは、バルバロスの肉が沢山入ったカレーライス。

 ルーの辛さは甘口と中辛の間といったところか。甘めが好きな子達が多いから。ハルカも辛いよりは甘めが好きだった。

 ジャガーモとマッシュルームと玉ねぎと人参も沢山入れて、具だくさんにするのがハルカ流のカレーである。

 そして千切りのキャベツとキューリにバルバロスの皮をカリカリに焼いたのを砕いて放り込み、塩ダレで和える。

 福神漬けも出して、セット完了だ。


 みんなは帰りの馬車の中で、既に匂いが漂ってたのでソワソワしていたらしい。カレーの匂いというのは、何故か広範囲に広がる。そして、カレー食べたい病が発症しやすくなるのだ。未だハルカにはこのミステリーは解明出来ていない。



「「「「「「いただきまーす」」」」」」

 ワイワイガツガツと美味しく食べつつも、ハルカは仕事のトラブルが起きてないかなど問題点がないかも確認をする。


 どうやらどちらの店も問題なく、うどん屋『もんど』のバイトの子も、私とミリアンが拐われた時に居合わせたウイリー君と同じ孤児院のマリーちゃんに決まった。
 もう16なので、ちゃんと仕事を探して孤児院を出る頃合いだったらしく、本当に喜んでいたそうだ。

 ムルムルとフルフルも、

「物覚えがとても早いし、素直で明るくて良い子達です」

「うどんも結構いいコシが出るようになりましたし、つゆも濃すぎず薄すぎず、いい出汁の取り方もコツを掴めて来ました。
 来週には試食お願いできると思います」

 とヤル気満々である。

「そっか。それは楽しみにしてるね」

 ハルカは笑顔になった。

 そして、食事もあらかた終わったところで発言する。


「さて、うまいこと店も営業には問題無さそうなので、明日から2日ほど、クロちゃんに乗せてもらって、ピノに食材を仕入れに行ってきます。クラインも一緒にね。
 結婚式の時の料理に魚介類が全然足りないから、仕入れがてらメニューも考えてくるわ。留守をお願いします」

 シャイナさんや三つ子達、そしてテンペスト達からも了承と手が上がる。

「ハルカはどん臭いとこあるから海に落ちないように気をつけてね」

 ミリアンが心配そうに声をかけた。

「ミリアン、割りと酷いな。けどどん臭いのは間違ってない」

 クラインが笑みを浮かべた。
 ハルカも悔しげな顔にはなってしまったが、概ね間違ってはいないと思うので反論はしなかった。



「それについてハルカさん、耳よりなお話が」

 ケルヴィンがちょいちょいと手招きする。

「なんですかケルヴィンさん?」

「今位の季節に獲れる変わった色の魚がいるんです。産卵前で脂が乗っててそりゃもう刺身でも塩焼きでも美味しいという白身の魚が」

「何それもっと詳しく」

 ハルカが身を乗り出すと、ケルヴィンは笑った。

「マダーイですよ」

 真鯛ですか。相変わらずこの国は日本人に分りやすい名称で助かるわ、とハルカは思った。

「春の間だけは身体が花のような綺麗なピンク色に染まっていて、見た目も華やか結婚式にバッチリじゃないですか」

「おおお、高級食材ですねえ!」

 桜鯛と呼ばれるアレですね。
 カルパッチョ、塩焼き、いや、刺し身がやはり一番かも。
 炙った切り身をご飯に乗せて鯛茶漬けとか最高ではございませんか。

「その上、ピノの辺りは岩についた藻なんかに栄養があるのか、巨大化したマダーイがゴロゴロ獲れるらしいですよ」

 前世のテレビで見た釣り番組でも、一メートルを超えるバカでかい鯛が釣られていたのをハルカは思い出した。


「おいハルカ………ヨダレを拭け」

 プルが紙ナプキンをハルカに渡した。
 慌てて口元を拭うハルカに、

「マダーイか。食べてみたいな。狙うかハルカ」

 とクラインが微笑んだ。

「賛成賛成、全面的に賛成!みんなにも食べて貰えるよう大物か数を狙いましょう」

 基本、最初は色気より食い気で繋がった二人である。美味しいモノと聞くとテンションが上がるのだ。

「ハルカー、俺様も行きたいなー。チュートロというのが食べたいぞ久しぶりに」

 プルがねだる。

《ワシも留守番ばかりじゃったから、たまにはお出掛けというのをしたいのう》


 言われてハルカは気づいた。
 そうだ。ラウールはいつも留守番になってしまっていた。

 いくらジー様とは言え聖獣。こんな狭い敷地内をウロチョロするだけでは気分が滅入ってしまうのかも知れない。
 最近やけに仲良しだしプルちゃんも一緒なら寂しくもないだろう。

「じゃ、一緒に行く?ラウール、今回は肉がメインじゃないけどいいの?」

《構わんぞ。生臭い魚も料理されると美味いもんだと分かったしの》

「あー思い出しましたよ。確か、ピノの近くの森ではイチーゴとかオレンジ、キングメローンとかの果物も今が旬かと」

 ぽむ、とケルヴィンが手を叩いた。

「なんという事ですか!そんなお宝の山をなぜもっと早く言わないんですか!
 クライン、絶対に行かないとダメよこれはっ」

 高級食材の波状攻撃にハルカは目眩を起こし、クラインに思わず寄りかかっていた。

 クラインはハルカの頭を撫でながら、

(なんか寄り添う恋人っぽくていいなー)

 などと思っていたのだが、ハルカはというと、美味しいであろう高級食材を早く食べたい、持ち帰りたい、果物があるならおニューなケーキも作りたいとしか考えておらず、プルはそんな二人を眺めながら、少しだけクラインに同情をしてしまうのであった。



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