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専門店は超前向き検討。

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 クラインに許可を貰ったハルカはパレードが回避できたため終始ご機嫌であった。
 今日は祈りの日で仕事も休み。
 丁度いいので早速、朝食の時にみんなに相談をする事にした。


 そう、専門店の件である。


「小型の店舗の確保はクラインが任せろって言ってるし、実際クロちゃんで移動してもらえば早いからまぁ数日以内に決まると思うのよ。内装もピーターさん繋がりで頼めば早いし。
 でね、専門店て言ってもやたら調理が面倒とかだと教えるの大変だし任せっきりも難しいから、マニュアルさえ作っておけば簡単なのを幾つか考えたんだけど、皆にもどこの町にどの店がいいか相談したいのよ」

 ハルカは、ノートを広げみんなに説明する。

「リンダーベルはね、商業ギルドのギルマスのチューナーさんが麺が好きだから、うどん屋を考えてるの。
 まあ主な活動拠点はリンダーベルだし、商業ギルドへ若干の感謝とこれからお世話になることによろしくの意味も込めてね。
 ………あーそうそう、バイトさんは、各町の孤児院の方から人手が要るときはいつでも雇ってほしい、って言われてるから心配ないよ。13歳以上からでお願いしてるけどね。火とか使うから怪我でもしたら大変だし。
 ただ絡まれたりトラブったりした時に責任者として大人はいないとまずいから、各店に一人か二人、商業ギルドから信頼出来る人を頼もうと思ってる」

「どうしたハルカ。珍しく色々考えてるじゃないか。すげーわ、マーミヤ商会の代表っぽいじゃん」

 プルが海苔にショーユをつけて器用に箸でご飯を巻いて食べながら感心したようにハルカを誉めた。

 しかし、いつの間にかみんな当たり前のように箸を使えるようになっているのを見ると、ああこの国に来て時が経ってるんだなあとどーでもいい事をハルカは思う。
 町の人達ですら結構上手に使う人もいるのだから。
 (勿論ラウールは人型になれないので無理だけど、シャイナや三つ子達、クロノスなんかは器用に前足でフォークやスプーンなんかは使えるのだ)


「いや、私は前から代表だから。一番エライ人だから。全然そういう扱いされてないけども。
 まーそれにさ、ある程度私が形を作っておかないと、今までなかったお店だから戸惑うだろうしね」

 ハルカはそれぞれの店について簡単に説明をする。
 うどん屋も海鮮丼屋も立ち食い形式で、回転率を上げられるようにする。後はテイクアウトのみにすること、などだ。

 正直飲食系の店はテーブル席とかある方が普通なので、受け入れられるか心配ではあるが、それには人手がいるしコストもかかる。
 低価格で提供するためにはなるべく抑えられるところは抑えたい。

 安くていい小麦粉も獲れる国なので、今回はイモ関係より粉ものを多めに入れてみた。
 コスト削減大事。安くて美味しいもっと大事。

 まぁ、本当はそろそろパン屋も考えていたのだけど、リンダーベルで自分が先ずはやりたかったので止めておいた。
 どうせなら、デニッシュとかも作りたいし。

 この国何故かパンがやけに固い上に菓子パンという概念がないのだ。
 香ばしいしスープとかには合うんだけど、やたら歯応えがある。パンに歯応えがあるってどうなんだろうか。お年寄りには優しくないだろう。

 デニッシュ、クロワッサン、惣菜パンなど、柔らかかったり、サクサクして美味しいパン達は、ご飯によしオヤツによし携帯食にもよしの逸品である。

 そう、ハルカはご飯党ではあるが、デニッシュや惣菜パンなども大好物であった。長く暮らして行こうと思ってる国でそれらが食べられないのは「ダメ、絶対」なのである。

 ハルカにはゲテモノ以外には嫌いな食べ物が殆んどないので、大抵の食材は自分が食べたいものである。

 そして、自分が美味しいと思うものを皆も美味しいと思ってほしいのである。

 全世界の美味しいものが大概揃っていた日本よありがとう!
 この世界でも日本の手が入った世界の料理を広めてみせようともさ!


 そんなハルカの熱い思いはともかくとして、ファミリーの面々もノリノリであーでもないこーでもない、と出店リストを練り上げてくれた。
 頼んでないのに店名まで考える熱の入れようである。

 リストをトラが書き留めてくれて渡してくれた。

 実はハルカも「イメージとして意味は分かるし会話もチートで可能だが書けなかった」この国の言語も、地道な努力で読み書き出来るようになっていた。商人としても大事なのはもちろんなのだが、メニューなど毎回トラや別のメンバーに頼ってばかりもいられなかったからだ。


 メモを見る。

 なんだか彼らの時代劇ブームはなかなか終わりを見せないため、明らかに店名にも影響が出ている。
 無駄な知識だけやけに蓄えてきたプルなどは、

「インスパイア、オマージュ。とてもいい表現だよな。
 いや大体だな、日本にハルカという名前は一人しかいない訳じゃないだろう?ハルカって誰かが子供につけたら訴えられるのか?そんなこたないだろう?
 同じ名前なんて腐るほどいるんだ。店だって同じ名前腐るほどあんだろうが。それも日本じゃないんだし、逆にオリジナリティ溢れてるじゃん。気にしない問題ない影響ない」

 などといいようにハルカは丸め込まれてしまった。

 そしてようやく決まった店舗だが。


・リンダーベル
 うどん屋『もんど』

・ブルーシャ
 たい焼き屋『えちごや』

・ピノ
 海鮮丼屋『はちべえ』

・パラッツォ
 ドーナツ屋『かざぐるま』

・バルゴ
 焼き鳥屋『とりたろう』

・ローリー
 クレープ屋『よしむね』


 「とりたろう」は確実に般若のお面を付けて悪を成敗している彼からだと思うが敢えて聞くまい。

 日本なら確実に物言いが入りそうだが、幸いな事にここは異世界。

 まあ「えちごや」なんて名前は酒屋でも和菓子屋でもスナック菓子屋でもいくらでもあったし、ここは開き直るしかない。

 大丈夫。多分、大丈夫。小心者なハルカのメンタルは若干痛んだが、内容は全く関係ないし、まあ好きなものの名前をつけたいという純粋な気持ちだから、ここは寛容に認めてあげよう。


「………えーと、店舗名は特につけるつもりはなかったんだけど、つけたいなら、うん別にいいと思う。じゃ、これで話を通すね。多分、商業ギルドはすぐOK出ると思うし、バイトさんも決まると思うからそれはいいんだけどね。
 それでね、ムルムルとフルフルには、うどん屋『もんど』の責任者として行って欲しいんだよね」

 黙って興味津々に話を聞いていたムルムルとフルフルは、いきなり話を振られてキョトンとした。

「………は?我々が、ですか?」

「うん。基本的な接客も出来てるし、骨惜しみしないでよく働いてくれるし、同じリンダーベル内だから家から通えるじゃない。
 それにムルムルは力ありそうだからコシのあるいいうどん作れそうなのよね。
 フルフルは子供にもお年寄りにも好かれる物腰の柔らかい所が特に接客に向いてるし」

「ああ、それはいいな。お前達なら任せても安心だ」

 クラインも頷く。

「そうね。うちのメニューも二日で覚える位勉強熱心だし、裏方の仕事も嫌がらずにするし。魔族って、テンちゃんもそうだけど、本当によく働くわよねぇ。アタシ感心してたのよ」

「いやっ、でも自分達は無理矢理雇って頂いたようなものですしっ、制服まで頂いて働かせて頂いてるので毎日楽しく過ごさせて頂いてますから!責任者とかとんでもないですっ!!」

 ムルムルもフルフルも怯えたように二人で寄り添っている。

「もしや、なんかでしゃばった事をしたとかで、迷惑になったとか、レストランに置いてはおけないとかでしょうか?
 それなら俺達もっと頑張りますから見捨てないで下さい!」

「お、お願いします!」

 なんだか土下座でもする勢いである。
 邪魔者扱いで追い出されるみたいな気持ちがするのだろうか。

 ハルカは、

「いや、むしろ頑張ってるから出世したと思って欲しいのだけど。ちょっと早いけど、うちは即戦力は使う職場なのよ。人手不足だしね。魔族でもなんでも真面目に働く人は大切よ。
 それに迷惑になってたら一緒に暮らしてないでしょうが。大事な店も任せないわよ」

 とぺしぺしと笑いながら二人の頭を叩いた。

「これからも頑張ってもらうよ。店を出すまでに納得出来るうどんとメンツユ修業してもらうから気合い入れなさいね」

『おめでとうムルムルさんフルフルさん。うどん、美味しいわよねぇ。沢山お客さん入ればいいわね』

「うどん好きなの。玉子がフワフワしてるやつ」
「僕も大好き。ちるちるする奴」
「がんばってねムルムル兄ちゃんとフルフル兄ちゃん」

[自分も人型になれるなら接客とかやりたかったッスよ。いいよなあ、店長と副店長さんてことっしょ?お嬢が出来るって言うんだからやればいいッスよ]

 涙目のムルムル、フルフルをみんなで応援した事で、本当に厄介払いとかではないのを理解したらしい。

「家は、出なくてもいいんですよね?」

「もちろん」

「……制服も、返さなくていいですか?」

「あー、それは使わないよレストランの制服だから。別の制服用意するからそっち着てね。全部の店は制服変えるつもりなの」

 ちょうど食事もみんな終わったようなのでささっと片付けて、みんなでシアタールームに移動する。


 時代劇のDVDをシアタースクリーンに写すことが出来るなら、トラの頭のパソコン画面も写せないかと思ってハルカはプルに相談した。「簡単だしお前でも出来る」と言われてやってみたら出来たのだ。
 魔法の構造はよく解らないけど、便利なもんだなーと思うハルカだった。

 みんなを席に座らせるとハルカはトラを呼んでパソコンを立ち上げた。
 ショップで飲食店、制服と入れ検索するとかなりの数が出てくる。
 スクリーンにみんなに見えるように映し出すと、「おお」とか「ふわぁ」とか


「ほら、飲食店でもかなりの制服があってさ、店のカラー、区別にもなるわけ。
 だから、レストランの制服を着て欲しくはないのよ。あくまで別物だからね。
 で、うどん屋の方はこんな感じにしたいの」

 ハルカは選択肢の中から、自分の狙っている制服をチョイスして拡大表示させた。

「このネイビーブルーのスタンドカラーの奴とかシンプルだし、袖が七分丈で洗い物とかするのに捲らなくていいし、普段着の上に羽織ればいいだけで楽チンでしょ?ほら、小さな店だと着替え室とかも作れないしバイトさんも入れ替わることもあるだろうから、S、M、Lとかで幾つかサイズ違い置いとくようにして。でも白いのも捨てがたいのよねぇ。
 あ、いっそのこと羽織るんならさ、日本風に半纏みたいにして、袷のところに店の名前入れちゃう?」

 半纏、と検索して出てきたのを見ると、ムルムルとフルフルの目の色が変わった。
 ………て言うかみんなの目の色が変わった。

「うわー火消しじゃん植木屋じゃん………」

「ヤバい格好いい!」

「アタシも着たい~♪」

「よし、全部の店をこれにしよう」

「いや、ドーナツ屋とかピザ屋とかちょっとテイストが違うような………」

「色違いで特色を出しましょうよ!これちなみに僕の個人的な私服として一着いや二着頼んでもいいですか?うおっ和服もある研究所で着るせいにしましょうそうしましょう」

 パソコンの操作方法もネット通販のやり方もDVD購入で熟知しているプル達が頬を染め上げキラキラした眼差しで操作をし出して、あれがいいこれがいいと騒ぎだしたのを暫く眺めていたハルカは、

 (当分終わらないなこりゃ………弥七たちにご飯上げてこよ)

 とそっと席を立ち、シアタールームを出て行くのだった。





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