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クラインの勇気
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【クライン視点】
「………ほんで、今日は告白もせずに手を繋いで長時間討伐デートしただけ、と」
プル達が集まった俺の部屋で、何故か俺は正座させられていた。
「男らしさを見せろ、押せ押せで行けとお前らが言ったじゃないか」
キリッと顔をあげた俺はどや顔である。
「ちょっとそれは押せ押せなの?!告白もしてないのに」
ミリアンが心底呆れたような顔をして食ってかかる。
何でだ。今までで一番長時間肌を触れあってたのに。
「成人した男女が手繋ぎデートとか………寒いを通り越して痛々しい」
ケルヴィンまで深い溜め息をつかれる。
「まあ、押し倒せとは嫁入り前の娘を持つ親の気分だしゴーサインは出せないが、せめて付き合うまで持ってってキス位はしろよ。幼児か」
プルが食後のデザートのきな粉餅を頬張りながら毒づいた。
「………いや、まあそれは僕もハードルが高いけど………」
テンが少し顔を赤らめた。
近ごろミリアンの妹、ニコルからかなり明確なアプローチをされているようで、
「テンちゃんは年上の女とかは嫌い?」
「どんな女性がタイプなの?」
「ご飯は何が好き?甘いのは何が好き?」
などと探られているようである。
テンも満更ではない様子だ。
まあ16のニコルから見ると年下に見えるんだろう。
確かに見た目は13、4位だが、こいつはニコルのひいひいひいひいひいジイサンよりもっと年上である。見た目考えなきゃ犯罪事案である。
「500才超えてんのに何がハードルが高いだ。年寄りの癖に純情ぶるな気色悪い。キス程度で子供は出来んぞ。お前も思い切って行け」
プルがバカにしたような顔をしてテンをつつく。
「………思い切ってって………無理無理無理無理………」
耳まで赤くしてうずくまって膝を抱えるテンは、何百年もほぼ森か人里離れたところに住んでいたので、女性どころか人間との接触が今まで殆どなく、ハルカと一緒に暮らすようになり店で働きだしてから、ここ1年程でようやく照れずに女性(ほぼお客さん)と会話が出来るようになったので、恋愛初心者の俺と似たり寄ったりだと思う。
「ちょっとプル。何アタシの可愛い妹にオオカミ化けしかけてんのよ。殴るわよ?」
プルの餅で膨らんだ頬を笑顔でぎゅううっとつねるミリアンに、
「あだだだっ!地味に痛いから止めろ!暴力反対!!バカめクラインもテンももう少し進歩させないと一生結婚なんか出来ないぞ?相手だっていつまでも待っててくれるとは限らないんだからな。ずっと手も出してくれない、とニコルが諦めてどうでもいい男と結婚してもいいのか?
少なくともテンは浮気するタイプじゃないし真面目で顔もいい超優良物件だ!」
プルの言葉にミリアンは一瞬考えこんだ。
「………テンちゃん、あんたニコルの事どう思ってるの?」
と呼び掛けた。
「………え?………いや、一生懸命仕事するし、よく気がつく可愛い子だな、と」
「付き合う気はあるの?」
「………!!いや、でも僕かなり長生きしてるし魔族だし………」
「それは理由にはならないわ。ニコルはあんたが魔族なの知ってるし」
「………ええ?な、なんで………」
「アタシが話したのよ。先に言っといた方がいいでしょ。後からあんたが傷つくのも嫌だし、妹も深入りする前に覚悟を知りたかったしね」
「………ニコルちゃんはな、何て?………」
「『テンちゃんがテンちゃんなら人でも魔族でも関係ない』ですって。あんたも嫌いじゃないなら応援してあげてもいいかなって。未来の義姉としてさ」
「………ニコルちゃん………」
テンが俯いていた顔を上げて、ミリアンを見た。
「………僕、ニコルちゃんとこ、こここ、恋人になりたい………」
「よしきた。じゃ、告白タイムよ。テンちゃん連れてくわねー。良かったわー妹の片思いにならないで」
え?え?今から?と動揺するテンを引きずり、部屋から笑顔で出ていったミリアンを見送りながら、ラウールがうっそりと笑った。
《青春ちっくじゃなぁ、若いっていいのう》
しかし、テンに恋人が出来るのは嬉しいが、初心者同盟としては辛い。
俺が溜め息をつくと、トラがコーヒーのお代わりを注ぎながらメモを出した。
『クライン様ももう少し積極的に動かないと、誰かに先を越されますよ。ああ見えて、ご主人様が気づいてないだけで、結構おモテになりますし』
知ってるさ。
「だから積極的に、したつもりなんだが」
手を繋ぐのだって結構大変だったんだぞ。
そもそも俺は好きな女性と手を繋いだ経験も初なのに!
「………………」
「………………」
「「………………」」
「プルもケルヴィンも、ムルムルもフルフルも残念な子を見るような目をするな」
なま温かい眼差しに居たたまれない。
分かってる。
テンすら告白に行ったのに(しかしあれは拉致られたとも言える)、お前は何をしてるんだ、という目である。
でも玉砕覚悟でも本当に玉砕したい訳じゃない。
一緒にもいられなくなるのは嫌なのだ。
「いや、まあクラインのやりたいようになればいいけどさ。まず恋人にならないとキスどころじゃないしねえ。友達にキスはしないでしょ?」
「………………」
そうか。まずは男として見て貰わないと手を繋ぐ以上の進展は出来ない。
辛い。でも怖い。
でも、いつまでも逃げてはいられないのだ。
俺は、心を決めて立ち上がった。
「………行ってくる」
「おう。がんば」
「行ってらっしゃい」
『ご武運を』
「「応援しております」」
《うまくいったらワシがオーガキング獲って来るからなぁ》
みんなの応援を背に、俺は緊張しながらもハルカの部屋に向かった。
「………ほんで、今日は告白もせずに手を繋いで長時間討伐デートしただけ、と」
プル達が集まった俺の部屋で、何故か俺は正座させられていた。
「男らしさを見せろ、押せ押せで行けとお前らが言ったじゃないか」
キリッと顔をあげた俺はどや顔である。
「ちょっとそれは押せ押せなの?!告白もしてないのに」
ミリアンが心底呆れたような顔をして食ってかかる。
何でだ。今までで一番長時間肌を触れあってたのに。
「成人した男女が手繋ぎデートとか………寒いを通り越して痛々しい」
ケルヴィンまで深い溜め息をつかれる。
「まあ、押し倒せとは嫁入り前の娘を持つ親の気分だしゴーサインは出せないが、せめて付き合うまで持ってってキス位はしろよ。幼児か」
プルが食後のデザートのきな粉餅を頬張りながら毒づいた。
「………いや、まあそれは僕もハードルが高いけど………」
テンが少し顔を赤らめた。
近ごろミリアンの妹、ニコルからかなり明確なアプローチをされているようで、
「テンちゃんは年上の女とかは嫌い?」
「どんな女性がタイプなの?」
「ご飯は何が好き?甘いのは何が好き?」
などと探られているようである。
テンも満更ではない様子だ。
まあ16のニコルから見ると年下に見えるんだろう。
確かに見た目は13、4位だが、こいつはニコルのひいひいひいひいひいジイサンよりもっと年上である。見た目考えなきゃ犯罪事案である。
「500才超えてんのに何がハードルが高いだ。年寄りの癖に純情ぶるな気色悪い。キス程度で子供は出来んぞ。お前も思い切って行け」
プルがバカにしたような顔をしてテンをつつく。
「………思い切ってって………無理無理無理無理………」
耳まで赤くしてうずくまって膝を抱えるテンは、何百年もほぼ森か人里離れたところに住んでいたので、女性どころか人間との接触が今まで殆どなく、ハルカと一緒に暮らすようになり店で働きだしてから、ここ1年程でようやく照れずに女性(ほぼお客さん)と会話が出来るようになったので、恋愛初心者の俺と似たり寄ったりだと思う。
「ちょっとプル。何アタシの可愛い妹にオオカミ化けしかけてんのよ。殴るわよ?」
プルの餅で膨らんだ頬を笑顔でぎゅううっとつねるミリアンに、
「あだだだっ!地味に痛いから止めろ!暴力反対!!バカめクラインもテンももう少し進歩させないと一生結婚なんか出来ないぞ?相手だっていつまでも待っててくれるとは限らないんだからな。ずっと手も出してくれない、とニコルが諦めてどうでもいい男と結婚してもいいのか?
少なくともテンは浮気するタイプじゃないし真面目で顔もいい超優良物件だ!」
プルの言葉にミリアンは一瞬考えこんだ。
「………テンちゃん、あんたニコルの事どう思ってるの?」
と呼び掛けた。
「………え?………いや、一生懸命仕事するし、よく気がつく可愛い子だな、と」
「付き合う気はあるの?」
「………!!いや、でも僕かなり長生きしてるし魔族だし………」
「それは理由にはならないわ。ニコルはあんたが魔族なの知ってるし」
「………ええ?な、なんで………」
「アタシが話したのよ。先に言っといた方がいいでしょ。後からあんたが傷つくのも嫌だし、妹も深入りする前に覚悟を知りたかったしね」
「………ニコルちゃんはな、何て?………」
「『テンちゃんがテンちゃんなら人でも魔族でも関係ない』ですって。あんたも嫌いじゃないなら応援してあげてもいいかなって。未来の義姉としてさ」
「………ニコルちゃん………」
テンが俯いていた顔を上げて、ミリアンを見た。
「………僕、ニコルちゃんとこ、こここ、恋人になりたい………」
「よしきた。じゃ、告白タイムよ。テンちゃん連れてくわねー。良かったわー妹の片思いにならないで」
え?え?今から?と動揺するテンを引きずり、部屋から笑顔で出ていったミリアンを見送りながら、ラウールがうっそりと笑った。
《青春ちっくじゃなぁ、若いっていいのう》
しかし、テンに恋人が出来るのは嬉しいが、初心者同盟としては辛い。
俺が溜め息をつくと、トラがコーヒーのお代わりを注ぎながらメモを出した。
『クライン様ももう少し積極的に動かないと、誰かに先を越されますよ。ああ見えて、ご主人様が気づいてないだけで、結構おモテになりますし』
知ってるさ。
「だから積極的に、したつもりなんだが」
手を繋ぐのだって結構大変だったんだぞ。
そもそも俺は好きな女性と手を繋いだ経験も初なのに!
「………………」
「………………」
「「………………」」
「プルもケルヴィンも、ムルムルもフルフルも残念な子を見るような目をするな」
なま温かい眼差しに居たたまれない。
分かってる。
テンすら告白に行ったのに(しかしあれは拉致られたとも言える)、お前は何をしてるんだ、という目である。
でも玉砕覚悟でも本当に玉砕したい訳じゃない。
一緒にもいられなくなるのは嫌なのだ。
「いや、まあクラインのやりたいようになればいいけどさ。まず恋人にならないとキスどころじゃないしねえ。友達にキスはしないでしょ?」
「………………」
そうか。まずは男として見て貰わないと手を繋ぐ以上の進展は出来ない。
辛い。でも怖い。
でも、いつまでも逃げてはいられないのだ。
俺は、心を決めて立ち上がった。
「………行ってくる」
「おう。がんば」
「行ってらっしゃい」
『ご武運を』
「「応援しております」」
《うまくいったらワシがオーガキング獲って来るからなぁ》
みんなの応援を背に、俺は緊張しながらもハルカの部屋に向かった。
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