異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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スキルは上がるのではない、上げるのだ。【2】

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「いや、黙ってみんなを呼んだのは悪かったよ。謝る。でもな、みーんな分かってたぞ?お前がハルカの事大好きなの」

 コーヒーを一口含み、酸味の中にもふっと心安らぐ煎った豆の香ばしい匂いで息をついたクラインは、プルの言葉に俯いていた顔を上げた。

「………何、だ………と?」

 呆れたような顔をしてミリアンが、

「いやぁね、ビックリする位分かりやすかったわよ?」

 と言うと、各々が頷いた。

「ハルカに男が近づいただけで目付きが鋭くなるし」

[何か用事を作ってはお嬢の側にいるっスし]

『かといって、求愛する訳でもないんですものねぇ』

《どうせ『振られたら生きていけない』とか情けない事を考えてるんじゃろなーと思っていたがのぅ》

「………ヘタレにも程がある………」

「まぁ、僕は気持ちは解らなくもないですし、温かく進展を見守ろうかと思ってましたけどね」

 ミリアンやケルヴィンらの言葉がクラインにエアーボウガンとなり突き刺さる。

 だが。

 キュッキュッ、とエアーボウガンを心で抜きながら、テンを見た。

「でも俺は、テンもずっとハルカの事が好きなんだと思っていたんだが………」

 だから、抜け駆けするような行動は差し控えていた、と言う思いもクラインにはあって、穏やかな顔のテンに意外な気持ちで問いかけた。

「………んん?好きだよハルカは。
 ただ大好きだけどね、どちらかと言うと、家族的な好き。前は人の女性に耐性がなくて、ハルカが近くにいるのもなんか恥ずかしくて照れ臭くて仕方がなかったけど、お店に沢山来るからもう慣れたし。
 一緒にいて飽きないし、仕事も楽しくて、ご飯も美味しくて、今が一番幸せ。このまま居られたらそれだけで大満足だし」

 本当だろうか。俺を気遣って嘘をついているのかも知れない。
 テンは優しい奴だから。
 クラインが真意を図るようにテンを見ていると、背後から

「………恐れながらクライン様」

 仲間としては新入りのムルムルがそっと語りかけた。

「私のような新参者でも、クライン様がハルカ様を慕われておられるのは明らかですし、もしテンペスト様もハルカ様に恋愛感情を抱いていたなら、なんの手だても練らずに放置するとは考えにくいでしょう。ただでさハルカ様は人の好意に殊更と言うか呆れるほど疎くておられますし」

「良く言えばピュア、悪く言えば恋愛シナプスがぶちきれているとも言えますよねハルカ様の場合。お店で男性客から明らかに熱い視線を受けている時も、水が欲しいのかスイーツメニューを求めているのかしか考えてませんしね。まあクライン様がさっさと用事作ってハルカ様を視界から外させてますけど」

 フルフルも呟く。

「………そうだよな。周囲にここまでバレるほど俺のこ、好意が駄々もれでも、何のリアクションもない訳だし」

 クラインが溜め息をついた。

「いや、俺様が思うにハルカは相手からの好意はよく分かってないが、自分の好意は割りと分かりやすく出てるぞ?」


「………え?まさかハルカは既に好きな人がいるのか?!」


 プルの聞き捨てならない台詞にクラインの顔色が変わった。


「うーん、まあいるな」


「………ちょっと。クラインの耳から魂が抜けかけてるからプルちゃん意地悪はほどほどにしないとダメよ」

 虚ろな目をするクラインの肩を掴んでガクガクと揺らしながらミリアンがプルを睨んだ。

「落ち着けクライン。ハルカが好きなのはお前だ」

「………オマエダという奴か。客か?商人か?俺が見たことある奴か?まさか王宮の中にいるとか?
 もう死ぬしかない。
 あああ、俺がヘタレなばかりにハルカが奪われてしまう。ダメだ死のう。いやそいつを殺るか。しかしハルカに知られたらお仕舞いだしハルカは悲しむだろうし戦争でもないのに殺すのは………それなら悪さが出来ないようにナニをちょん切……いや待てよ相手に誰か別の女を好きになってもらえばいいのか。そうだそうだよむしろ俺が王宮から綺麗なメイドに土下座して頼んで誘惑してもらってハルカの前から消えてもらゴフォォッッ」

 呪いのようにブツブツと恐ろしい言葉を呟き続けるクラインの腹にプルの痛烈な飛び蹴りがヒットした。

「ノーモアヤンデレ!ノーモアスプラッタ!ノーモアツツモタセ!!
 オマエダじゃねえ!お前の事だよクライン!!」

 プルの言葉に、クラインの目の焦点が段々と戻ってくる。

「………何を言っている?」

「だからな、ハルカもお前の事が多分好きなんだよ!糸目になる率が上がってるだろ?目や顔に出やすいから平常心を保つためにやってんだあれは。
 まー他にも色々とあるがな。お前が特に美味しいと気に入ったご飯が食卓に上がる率が高いとか」

「………いやいやいや、ないだろ。確かに糸目率は上がってるが、一度たりともそんな思わせ振りな態度も言葉もなかった。ないないない。
 ………ダメだ自分で傷を思いっきり抉ってしまった。死のう」

「ハルカがそんな分かりやすいアピールするタイプかよ?あのチョコレートすら気づかれないと思ってるからやってんだぞ?」

「チョコレート?」

 クラインの部屋にはハルカから貰ったチョコレートが引き出しにしまってある。1日一粒と決めて大切に食べている宝物。

「チョコレートはみんなだって貰っているだろう?」

「あの形はお前だけだよ」

「………クローバーの葉っぱがか?」

「違う。あれはハルカのいた国ではハート型と言ってな、心臓、つまり心の形だ。大概は一番好きな人に贈る形なんだよ」

「………!!!!!!」

 クラインは呆然とした。


(ハルカが俺の事を好き?可愛いハルカが?)


(嬉しい。もう死んでもいい。死のう)


(いや死んでどうする。ハルカを幸せにせねば)


(むしろ俺ばかりが幸せになる気がする。どうしよう。どうすればいい)



「………それならホワイトデーはやっぱり婚約指輪で良くないだろうか?いや結婚指輪でも」

 いろんな感情が渦巻きながらプルに目を向けた。

「だから、何度も言ってるが色々すっ飛ばしてる!
 それにな、知られたくないって思ってる人間に『実はバレてました』とかになったらハルカはどうすると思う?ヤツは恋の駆け引きとかもろくに知らない上に、小心者で臆病だ」

「………逃げる、かな」

「分かってるじゃないか。それにな、多分まだ今のままじゃ結婚どころか付き合う事すら無理だろう。お前忘れてるかも知れないが、王族だからな一応。病んでるけど王族だから。
 ハルカは転生者だが別に貴族じゃない」

「母上も父上も反対などしない!!」

「分かってるさ、そのぐらい。だが、万が一結婚まで行けたとしても、ハルカが作ったマーミヤ商会はどうなる?レストランやパティスリーは?王族と結婚しても商人のままでいられるのか?国王や王妃、王太子たちが認めたところで、他の貴族の連中はどうだ?」

「………そ、れは………」

「ハルカは、この世界の食文化の底上げをして、調味料も沢山作って美味しいものをみんなが食べられるようにしたいと言う願いがある。だがお前を好きになって報われたとして最終的に結婚となった場合、王宮に入ることになる。やっている仕事を途中で投げ出す事になる可能性が高い。
 子供が働ける選択肢を増やせるように学べる学校も作りたい、料理人を養成する専門の学校も作って、世界中で美味しいものが作れる環境を増やしたいという希望も話していただろう?
 ハルカは恋愛に関しては疎いが馬鹿じゃない。色々と考えて、知られないようにする選択が最適だと思ったから現在のようになっているんだと俺様は思う」

「………それじゃあ、俺とハルカは一生………?」

「クラインてさぁ、本当に頭良いくせにバカよね」

 ミリアンがやれやれといった眼差しをした。

「『今は』と言う意味よ?アタシはハルカに幸せになって欲しいし、クラインにも幸せになって貰いたいのよ。だからこそ自分で模索しなさいよ、ハルカの夢も壊さず、クラインの願いも叶える形を!
 そういう意味でみんな応援するって言ってるんだから」

「ミリアン………」

《そうじゃな。頑張れ。
 うーん、だがしかしそれにはもっと密接に、じゃな………こう、なんと言うかのぅ》

「ラウールの言う通りだ。
 クラインとハルカとの関係を『仕事仲間であり友人』、と言う今のカテゴリーから『友人以上』にステップアップしないと応援するもクソもない」

「うっっ」

「………現状、クラインはただの奥手の変態だから」

『まあクライン様の場合、奥手がイケイケになると真性束縛系ストーカーになるのでほどほどでお願いします』

「………みんな応援すると言う割りに俺の扱いがゴミだな」

 クラインが周りを見回す。

「ハルカがお前に好意があると気づかなければ、ただの危険人物だから全面的に阻止をしていたぞ俺様は」

 プルの言葉にみんなが同意するように頷いた。

「酷いが否定できない自分が辛い………」

[まぁまぁ、とりあえずもっと仲良くなるっスよ。まずはお嬢がクラインさんと二人っきりでも緊張して糸目にならないようにフワッと当たり前にいる感じを目標にするッス]

「………フワッとした感じとはどうすればいいんだ?存在感をなくせばいいのか?
 だが存在感を無くすといてもいなくても同じような感じになるし………」

 頭を抱えて悩み出すクラインを眺める複数の目は、



(………面倒くせぇ男だなあ………真面目なだけにタチが悪い………)



 と言う意思を如実に現していた。

 ただ、ハルカに対して一途で誠実な事だけは間違いないので、ハルカさえ良きゃこのハルカ限定の束縛系変態ストーカー傾向ありのヤンデレにも春が来て欲しいし、手助けするのは吝かではないのだ。


(それが、ファミリーってものだし)


 クラインに注ぐ眼差しは次第に生温いものになり、これからのステップアップに向けての話し合いに移ってゆくのだった。

 




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