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バレンタイン商戦【2】
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舐めていた。
何を舐めていたのか。
このサウザーリンの国民の『お祭りには乗っかる気質』と『食いしん坊万歳根性』を、である。
ハルカが三日ほど作業場にこもっていた間に撒かれたポスターやチラシは評判になっていたようで、パティスリーハルカの店内のバレンタインデーコーナーには人が群がっていた。
それも乙女だけではなく、お子様からジジババまで全年齢層がである。
きっとこれはラブではなく、自家用とお土産物購入の意味合いである。
「いやぁ、このアーモンド入ったの買ってったら娘が美味しい美味しいって喜んじゃってさぁ。俺一つも食べられなかったから今回は絶対食べるぞっ、てね」
などというオッサンや、
「トリュフとかいうチョコが柔らかくてんまくてさあ。ダンナがもう年だから固いのダメで本当に食べやすくて有り難いよ」
などというバー様。
「母ちゃん、これ。この4つ入ったのバレンタインデーのプレゼントにして!!お酒の入ってんのでも甘いから平気!」
「バカ言ってんじゃないよ。ワイン入りなんて10年早い!………でもパパは好きかも知れないねぇ………」
などという親子連れなど、まさかこのラブイベントを自家用目的の人間が多量に含まれているという事に思い至らなかったため、どんどんと在庫は目減りしていったのだ。
それもラブな感じの購入者が1つなのに対し自家用の方が買い方が5個10個単位の人がいてもう比率がおかしい。
ついでに仕事場に持っていくというお客さんも、サンキューチョコとしてアーモンドチョコレートやトリュフのセットなどを思ったより買って行くのも予想以上の数であった。
(…まぁ、本命がそんなにいる訳はないから正しいと言えば正しいけど……ヤバい。足りなくなる)
売り場の様子を窺いながら数日。
申し訳なく思いながらも再度精霊さんズとフレンズを作業場に召喚した。
「ハルカの仕事を手伝うと美味しいオヤツを貰える」というのが精霊さんズの世界で大分浸透したようで、前回の倍以上のフレンズがやってきた。
お陰様で夜の数時間作業を2日やっただけで、1000個ほどの増量が出来たため、めちゃくちゃ楽であった。
ありがとう精霊さんズ達。
王妃も第1王子の奥様とお忍びでこそこそと買いに来ていたが、国王と第1王子にあげるであろう一番高い16個入り(まあそれでも120ドラン=1200円ほどなので、労力考えるとそれほど高過ぎる事はないと思うが)を2つと、アーモンドチョコを十袋ずつ、ワインのボンボン4個入りやトリュフセットなどを買い、ついでにケーキを幾つも買っていった。近衛などの周囲に配るのと家族用のようである。
貴族のきらびやかなマッダーム達にも、お茶会でいかに素敵なイベントかを力説してくれたらしく、普段見掛けない富裕層の奥様とお嬢様達が沢山いらっしゃって、更にはクッキーやパウンドケーキなども複数購入して頂いたので、売り上げがかなり上がった。
王妃様には割引させて欲しいとお願いしたが、「好きでやったことに対価を求める訳には行かない」と断固拒否された。
「ハルカにはクラインもお世話になってるし、何だか自分の娘みたいな気持ちでほっとけないのよ。だから出来ることならいつでも声をかけてね」
と勿体ない優しい言葉までかけていただいて、ハルカは嬉しかった。
「………本当に娘になってくれてもいいのよ?ふふっ」
などと帰りに笑顔で言われた時は、流石に真意が分からず、ハルカはこそこそとクラインに、
「………この国は王子しかいないから、養女にして他国との政略結婚をさせたいとかかしらね?それともまさかスパイ的なアレ?
国王様達には色々感謝してるし出来ることなら協力したいけど、転生者とは言え、スパイをするには、ほら私どんくさい所もあるし、潜入ミッションとか正直お薦めは出来ないよ。間違いなくしくじりそうな気がする。
それに政略結婚にしても、もっと見映えのいい子とかを養女にしないと他国に喜ばれないんじゃない?お色気戦術とかも使えないし。貴族でもなく庶民だし。
私、深読みとか出来ないんだけど、ねえどっちだと思う?」
などと勢い込んで相談をしてみたが、クラインは暫く絶句したあと、深いため息をついてから、
「………どちらも違うと思うから気にするな。予想はつくから母上は後で叱っておく」
と言われ、何で叱るのか分からず頭を捻ったが、
(………王妃様には悪いけど、高い身分の人の社交辞令とか政治的な駆け引きとかはやっぱ、私には難しくてよく分かんないんだよなぁ。大学の単位とかは落としたことないんだけど)
などと気疲れし、精神的な疲労に襲われるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明日はバレンタインデーという夜のこと。
食事を済ませたハルカは作業場にいた。
(さて、と)
我が家のファミリーにもバレンタインデーのチョコレートを作るのである。
精霊さんズ達は今夜はお願いしていない。家族とも思う人達………いや一部人ではないが………にあげるのに市販品では日頃の感謝を伝えられないし、自分一人で作りたかったと言うのもある。
「プルちゃんは、サクサクしたの好きだから、ビスケットとアーモンド砕いたのとチョコ混ぜてクランチ風にしようかな。スイートチョコでいいよね。テンちゃんは甘い方がいいからミルクチョコにして、と。シャイナさんはプリン好きだから柔らかい方がいいのかな。生チョコレート風にして外側コーティングするか………」
ぶつぶつ独り言を言いながらハルカはボウルでチョコを溶かしていく。
三つ子達には星や花の形の型を湯煎にかけ、トレイで固めていたミルクチョコから型抜きしていく。
ケルヴィンさんはお酒もイケる口なので、トラちゃんのネット通販から買っておいたラム酒やブランデーを混ぜたボンボン、ミリアンは太るのを気にしてるからビターなチョコにして、オレンジピールとか混ぜたオランジェットにしよう。
ラウールもそんなに甘いのは食べない方だから、パフとか入れてチョコ自体を少な目にして、食感を楽しめるものにした方がいいよね。
それぞれに違うチョコレートを作って、ラッピングしていく。
「あとは、クラインか。………うーん」
ハルカは、少し頭を悩ませる。
クラインは、何でも美味しいと食べてしまうので、特にどんなのが一番好きか解らない。多分、甘すぎるのはそんなに好きじゃないだろうな、という位しか想像出来ない。
それなら本人に聞けば良かったのであるが、何となく聞きづらかったのである。
何となく、の原因はハルカにもよく解らない。
「困ったなぁ………」
と湯煎にかけたチョコレートを練り練りしながら悩んでいたら、思ったより多量のチョコレートを溶かしてしまっていた。
何とはなしに調理台に目をやると、今回一度も使っていなかったハート型の型が目に入る。
この国ではハート型というのが日本でいうラブ的な使い方をされている事がなく、そもそも認識もされていないので使い道がなかったのだ。プルちゃんにも意味を教えたが、
「え?心臓?全く形似てないじゃんか。むしろ葉っぱとか尻と言われた方がよっぽど分かブフォッ」
とんでもない事を言い出したので慌てて口を押さえた。ロマンの解らない子である。
ビターチョコレートを型に流し固めながら、ふと勿体ないし、せっかくだから使おうとハルカは決めた。
湯煎にかけたハート型でかっぱんかっぱんチョコレートから型を抜いていく。
しばらく無心にかっぱんかっぱんやっていたら、徳用チョコレート並みの大量なハート型のチョコレートが出来上がった。
「………むむむ」
みんなと比べると多い。いやかなり多い。
無論、今までの感謝とお世話になっている恩を思えばこの程度では済まないのだが、これではクラインが特別みたいではないだろうか。
………………特別?
特別って、好きかどうかという事?
ちょっと待て自分。
………私を森から助けてくれたし、住むところも仕事の世話も面倒みてくれた。
今も仕事のサポートを常にしてくれている。拐われた時には助けにまで来てくれた。
だが、一緒にみんなで住んでる位だから嫌われてはないと思うが、ハルカには日本で作っていた料理を作れる位しか利点がないし、顔もよく言って日本人的な彫りの浅い凡人。4つも歳上である。ミリアンのようなボンキュッボンなスタイルもない。その上、クラインはこの国の第3王子である。冒険者にひけを取らないほど剣術も強い。背も高い。頭もいいし親切である。
さらには獣人でケモミミと尻尾があるが目に眩しいイケメンなのである。
日本で言えば「身分、身長、顔面偏差値、財力、知性、性格」全てが高い。6高という奴である。
冷静に考えてもこんな人がいたら好意を持たない方が難しいと思う。
「………まあ、でも王子様だからねー」
ハルカは思う。
いずれは城に戻って国の為に働く人である。政略結婚も当然あるだろう。第3王子だし他国に婿入りする可能性もある。
こんな平凡なド庶民が好きになっていいような人ではないのである。転生者でもなきゃ一生会う事もなかったであろう。
自分でもわからないうちに好きになってたのでこれは致し方ない。
封印するので許してもらおう。
それならば、気苦労も多いであろう城に戻る日までは、変に気を遣わせずにのびのびと過ごして貰いたい。
「………でもまあ、チョコレート位はね。どうせハートの形の意味解らないだろうし」
余り多すぎるのはアレなので、みんなと同じ位の量にして、ラッピングする。
残りは自分用である。
あれ。同じチョコを持つってちょっとドキドキしますよ。って何を考えてんだ。
ビークールビークール、自分。
「よし、と」
みんなの分を作り終えたらもう日付は変わっていた。
しかし、みんなに渡さないといけないのだが、若干ヨコシマな気持ちが入っているチョコもあるわけで、結構渡しにくい。
みんなが寝ている間に部屋にこっそり置きに行くか。
でもチビッ子達や女性陣はともかく、複数の男性の部屋に深夜忍び込むとか夜這いかと思われる。いや夜這いだ。サンタクロース気取りの変態である。その上好きな人の寝姿覗くとか恥ずかしくて死ねる。
見たくないかといったら嘘になるが、変態の烙印は代償として払うには大きすぎる。
(………仕方ない。朝ごはんの時にテーブルに事前に置くか………)
余計なこと気づかなきゃ良かった。
今からこんな動揺するようでは先が思いやられる、とごんごんと頭を調理台にぶつけていたら大分落ち着いてきたので、ハルカは片付けをして風呂場に少しふらつきながら向かうのだった。
何を舐めていたのか。
このサウザーリンの国民の『お祭りには乗っかる気質』と『食いしん坊万歳根性』を、である。
ハルカが三日ほど作業場にこもっていた間に撒かれたポスターやチラシは評判になっていたようで、パティスリーハルカの店内のバレンタインデーコーナーには人が群がっていた。
それも乙女だけではなく、お子様からジジババまで全年齢層がである。
きっとこれはラブではなく、自家用とお土産物購入の意味合いである。
「いやぁ、このアーモンド入ったの買ってったら娘が美味しい美味しいって喜んじゃってさぁ。俺一つも食べられなかったから今回は絶対食べるぞっ、てね」
などというオッサンや、
「トリュフとかいうチョコが柔らかくてんまくてさあ。ダンナがもう年だから固いのダメで本当に食べやすくて有り難いよ」
などというバー様。
「母ちゃん、これ。この4つ入ったのバレンタインデーのプレゼントにして!!お酒の入ってんのでも甘いから平気!」
「バカ言ってんじゃないよ。ワイン入りなんて10年早い!………でもパパは好きかも知れないねぇ………」
などという親子連れなど、まさかこのラブイベントを自家用目的の人間が多量に含まれているという事に思い至らなかったため、どんどんと在庫は目減りしていったのだ。
それもラブな感じの購入者が1つなのに対し自家用の方が買い方が5個10個単位の人がいてもう比率がおかしい。
ついでに仕事場に持っていくというお客さんも、サンキューチョコとしてアーモンドチョコレートやトリュフのセットなどを思ったより買って行くのも予想以上の数であった。
(…まぁ、本命がそんなにいる訳はないから正しいと言えば正しいけど……ヤバい。足りなくなる)
売り場の様子を窺いながら数日。
申し訳なく思いながらも再度精霊さんズとフレンズを作業場に召喚した。
「ハルカの仕事を手伝うと美味しいオヤツを貰える」というのが精霊さんズの世界で大分浸透したようで、前回の倍以上のフレンズがやってきた。
お陰様で夜の数時間作業を2日やっただけで、1000個ほどの増量が出来たため、めちゃくちゃ楽であった。
ありがとう精霊さんズ達。
王妃も第1王子の奥様とお忍びでこそこそと買いに来ていたが、国王と第1王子にあげるであろう一番高い16個入り(まあそれでも120ドラン=1200円ほどなので、労力考えるとそれほど高過ぎる事はないと思うが)を2つと、アーモンドチョコを十袋ずつ、ワインのボンボン4個入りやトリュフセットなどを買い、ついでにケーキを幾つも買っていった。近衛などの周囲に配るのと家族用のようである。
貴族のきらびやかなマッダーム達にも、お茶会でいかに素敵なイベントかを力説してくれたらしく、普段見掛けない富裕層の奥様とお嬢様達が沢山いらっしゃって、更にはクッキーやパウンドケーキなども複数購入して頂いたので、売り上げがかなり上がった。
王妃様には割引させて欲しいとお願いしたが、「好きでやったことに対価を求める訳には行かない」と断固拒否された。
「ハルカにはクラインもお世話になってるし、何だか自分の娘みたいな気持ちでほっとけないのよ。だから出来ることならいつでも声をかけてね」
と勿体ない優しい言葉までかけていただいて、ハルカは嬉しかった。
「………本当に娘になってくれてもいいのよ?ふふっ」
などと帰りに笑顔で言われた時は、流石に真意が分からず、ハルカはこそこそとクラインに、
「………この国は王子しかいないから、養女にして他国との政略結婚をさせたいとかかしらね?それともまさかスパイ的なアレ?
国王様達には色々感謝してるし出来ることなら協力したいけど、転生者とは言え、スパイをするには、ほら私どんくさい所もあるし、潜入ミッションとか正直お薦めは出来ないよ。間違いなくしくじりそうな気がする。
それに政略結婚にしても、もっと見映えのいい子とかを養女にしないと他国に喜ばれないんじゃない?お色気戦術とかも使えないし。貴族でもなく庶民だし。
私、深読みとか出来ないんだけど、ねえどっちだと思う?」
などと勢い込んで相談をしてみたが、クラインは暫く絶句したあと、深いため息をついてから、
「………どちらも違うと思うから気にするな。予想はつくから母上は後で叱っておく」
と言われ、何で叱るのか分からず頭を捻ったが、
(………王妃様には悪いけど、高い身分の人の社交辞令とか政治的な駆け引きとかはやっぱ、私には難しくてよく分かんないんだよなぁ。大学の単位とかは落としたことないんだけど)
などと気疲れし、精神的な疲労に襲われるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
明日はバレンタインデーという夜のこと。
食事を済ませたハルカは作業場にいた。
(さて、と)
我が家のファミリーにもバレンタインデーのチョコレートを作るのである。
精霊さんズ達は今夜はお願いしていない。家族とも思う人達………いや一部人ではないが………にあげるのに市販品では日頃の感謝を伝えられないし、自分一人で作りたかったと言うのもある。
「プルちゃんは、サクサクしたの好きだから、ビスケットとアーモンド砕いたのとチョコ混ぜてクランチ風にしようかな。スイートチョコでいいよね。テンちゃんは甘い方がいいからミルクチョコにして、と。シャイナさんはプリン好きだから柔らかい方がいいのかな。生チョコレート風にして外側コーティングするか………」
ぶつぶつ独り言を言いながらハルカはボウルでチョコを溶かしていく。
三つ子達には星や花の形の型を湯煎にかけ、トレイで固めていたミルクチョコから型抜きしていく。
ケルヴィンさんはお酒もイケる口なので、トラちゃんのネット通販から買っておいたラム酒やブランデーを混ぜたボンボン、ミリアンは太るのを気にしてるからビターなチョコにして、オレンジピールとか混ぜたオランジェットにしよう。
ラウールもそんなに甘いのは食べない方だから、パフとか入れてチョコ自体を少な目にして、食感を楽しめるものにした方がいいよね。
それぞれに違うチョコレートを作って、ラッピングしていく。
「あとは、クラインか。………うーん」
ハルカは、少し頭を悩ませる。
クラインは、何でも美味しいと食べてしまうので、特にどんなのが一番好きか解らない。多分、甘すぎるのはそんなに好きじゃないだろうな、という位しか想像出来ない。
それなら本人に聞けば良かったのであるが、何となく聞きづらかったのである。
何となく、の原因はハルカにもよく解らない。
「困ったなぁ………」
と湯煎にかけたチョコレートを練り練りしながら悩んでいたら、思ったより多量のチョコレートを溶かしてしまっていた。
何とはなしに調理台に目をやると、今回一度も使っていなかったハート型の型が目に入る。
この国ではハート型というのが日本でいうラブ的な使い方をされている事がなく、そもそも認識もされていないので使い道がなかったのだ。プルちゃんにも意味を教えたが、
「え?心臓?全く形似てないじゃんか。むしろ葉っぱとか尻と言われた方がよっぽど分かブフォッ」
とんでもない事を言い出したので慌てて口を押さえた。ロマンの解らない子である。
ビターチョコレートを型に流し固めながら、ふと勿体ないし、せっかくだから使おうとハルカは決めた。
湯煎にかけたハート型でかっぱんかっぱんチョコレートから型を抜いていく。
しばらく無心にかっぱんかっぱんやっていたら、徳用チョコレート並みの大量なハート型のチョコレートが出来上がった。
「………むむむ」
みんなと比べると多い。いやかなり多い。
無論、今までの感謝とお世話になっている恩を思えばこの程度では済まないのだが、これではクラインが特別みたいではないだろうか。
………………特別?
特別って、好きかどうかという事?
ちょっと待て自分。
………私を森から助けてくれたし、住むところも仕事の世話も面倒みてくれた。
今も仕事のサポートを常にしてくれている。拐われた時には助けにまで来てくれた。
だが、一緒にみんなで住んでる位だから嫌われてはないと思うが、ハルカには日本で作っていた料理を作れる位しか利点がないし、顔もよく言って日本人的な彫りの浅い凡人。4つも歳上である。ミリアンのようなボンキュッボンなスタイルもない。その上、クラインはこの国の第3王子である。冒険者にひけを取らないほど剣術も強い。背も高い。頭もいいし親切である。
さらには獣人でケモミミと尻尾があるが目に眩しいイケメンなのである。
日本で言えば「身分、身長、顔面偏差値、財力、知性、性格」全てが高い。6高という奴である。
冷静に考えてもこんな人がいたら好意を持たない方が難しいと思う。
「………まあ、でも王子様だからねー」
ハルカは思う。
いずれは城に戻って国の為に働く人である。政略結婚も当然あるだろう。第3王子だし他国に婿入りする可能性もある。
こんな平凡なド庶民が好きになっていいような人ではないのである。転生者でもなきゃ一生会う事もなかったであろう。
自分でもわからないうちに好きになってたのでこれは致し方ない。
封印するので許してもらおう。
それならば、気苦労も多いであろう城に戻る日までは、変に気を遣わせずにのびのびと過ごして貰いたい。
「………でもまあ、チョコレート位はね。どうせハートの形の意味解らないだろうし」
余り多すぎるのはアレなので、みんなと同じ位の量にして、ラッピングする。
残りは自分用である。
あれ。同じチョコを持つってちょっとドキドキしますよ。って何を考えてんだ。
ビークールビークール、自分。
「よし、と」
みんなの分を作り終えたらもう日付は変わっていた。
しかし、みんなに渡さないといけないのだが、若干ヨコシマな気持ちが入っているチョコもあるわけで、結構渡しにくい。
みんなが寝ている間に部屋にこっそり置きに行くか。
でもチビッ子達や女性陣はともかく、複数の男性の部屋に深夜忍び込むとか夜這いかと思われる。いや夜這いだ。サンタクロース気取りの変態である。その上好きな人の寝姿覗くとか恥ずかしくて死ねる。
見たくないかといったら嘘になるが、変態の烙印は代償として払うには大きすぎる。
(………仕方ない。朝ごはんの時にテーブルに事前に置くか………)
余計なこと気づかなきゃ良かった。
今からこんな動揺するようでは先が思いやられる、とごんごんと頭を調理台にぶつけていたら大分落ち着いてきたので、ハルカは片付けをして風呂場に少しふらつきながら向かうのだった。
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