115 / 144
連載
バレンタイン商戦【1】
しおりを挟む
ハルカは次の日から、店のことは皆にほぼお任せすることにし、バレンタイン商戦のために作業場にこもった。
自宅横のケルヴィンの研究所と加工場と倉庫の横から少し離れてハルカ専用の作業場を建てていたのだが、今まで家のキッチンで間に合ってたので、初めて作る料理の試作品などを作る位で、あまり使うチャンスがなかったのだ。
ただチョコレートは、加工の過程で甘い独特の香りが広がってしまい、匂いが暫く残ってしまうので、家で作業すると食事の時にご飯の美味しさが半減する。
匂いは大切である。
カレーを作ると、周囲を歩いている人にまで「あらあの家今夜はカレーね」と思われるし、夏場で窓を開けていたら自宅の中も隣の家から漂うカレーの匂いがして、折角のちょっとお高かったショートケーキがかなり残念な味わいになった事をハルカは思い出した。
香りに味が引っ張られる事も多々あるのである。
昔バイト先の同僚なんかにトリュフ作って配っていた程度の量でも半日は匂いが消えなかったのだが、今回はその比ではないだろう大量のチョコレートである。
作業場には既に板チョコ状態に加工した物がところ狭しとでかい冷蔵庫に隙間なく詰め込まれている。
掌大の大きな魔石を8個も嵌め込んだもので、日本では精肉工場とかにありそうな巨大な冷蔵庫は、魔石に充填出来る魔力量が多いため、一度充填すると半年以上は機能する優れものである。
ハルカの魔力量と発動速度だと10分もかからなかったが、転生者のギフトなので他の人はもっとかかるであろうと思われる。女神様には感謝である。
ちなみに魔石は、Sランクの魔物からのドロップ品である。
本来なら冒険者はギルドに持ち込みお金に変える事が殆んどだが、幸いな事にお金には現在困ってないし、こういう使い方が出来ると分かってからは全部売らないで溜め込んでいるので結構な量があるのだ。
今まではハルカやクライン達が討伐で、最近はもっぱら魔物の肉担当のラウールが肉のついでに運んで来てくれるので、ジリジリと大小の魔石が増えている。
動力源としての使い道ももっとこれから出てきそうなので、時間が出来たら考えようとハルカは思っていた。
レストランの方は、だいぶ料理人のスキルが上がったので任せても安心である。向上心があるのでバイトさんも覚えが早い。
ありがたい事である。
しかしクッキーはともかくケーキについては任せられる人間がまだいないので、大量に作りおきしては冷蔵庫に詰め込み、残った分はアイテムボックスの時間経過なしのところにまとめて放り込んだ。
しかし、支店支店とうるさく言ってくるよその町の商業ギルドの事も考えると、いい加減パティシエも養成しないと手が足りなくなってきているのだけは確かだ。
ただ、スイーツならではの細やかな作業とセンスも必要となるので、こればっかりは向き不向きがある。
バイトの雇用と育成を担当しているクラインに、向いていそうな子を何人か探して貰う事と、人手が足りなくなりそうなら新しく信頼出来そうな子を雇ってくれるようにお願いした。
クラインは元々この繁盛ぶりだと、作るのがハルカだけだといずれ立ち行かなくなると予想していたようで、
「目星は何人かつけているので、任せとけ」
と頼もしい返事をくれた。
バレンタインデーのチラシやポスターなども大量に作り、あちこちでばらまく事にしたとも聞いた。
昨夜遅く一度王宮に戻ったクラインは、両親にバレンタインデーの事を説明したそうで、お茶会や仕事の会合などでウワサ話を広めてくれるようだ。
貴族に広めて頂けるのはありがたい事である。
むしろ母上である王妃がノリノリだったようで、
「女性の為のイベントよねぇ~。やだ、ちょっと頑張るわぁ私♪
あ、私も勿論買うから確保しておいてとハルカに伝えておいて頂戴ね!!」
と言われたそうだ。
女性は幾つになってもココロは乙女な部分が存在するのである。
恐れ多い事だが、王妃様可愛い。
まあ、初年度なので、それほど盛り上がりもしないかも知れないし、実際にどう転ぶかは分からないが、最終的に定着すればいい。「バレンタインデーだから思い切って」、という頑張る乙女が増えればそれに越した事はない。最初の一歩を踏み出す事が肝心なのだ。
「よし!チョコだ、チョコを作るんだ私。死ぬほど頑張れ私。そして可愛いラッピングでこの国の乙女のハートをわしづかみにするぞ~!やれば出来る子。私はやれば出来る子」
冷蔵庫を眺めてちょっとやる前から気が遠くなったので、マインドコントロールを済ませたハルカは精霊さんズを呼び出し、いつものようにお願いをしたところ、
「今回はチョコレートが欲しいわ。あと、いつも私達の持ち帰ったオヤツを食べてた子達も協力してくれるって」
「本当に?うわ~、助かるわぁ」
数十人の精霊さんズとフレンズがほわほわと現れて、口々に挨拶をしてくる。
「貴女がハルカね。いつも美味しいオヤツありがとう!」
「本当はずっとお手伝いしたかったのだけど、私達だけで大丈夫だから!と中々いい返事をこの子達がくれなくて。でも今回は感謝の意味でも頑張るわね!」
精霊さんズはオヤツが減るとでも思ったのだろうか。人手がある方が助かるのだが。いや、人ではないから精霊手か。
精霊さんズを見ると、然り気無く目を逸らされた。後ろめたい事はあるわけだね君たち。
まあいい。
そんな事より仕事である。
ハルカはキッチンの隣の作業部屋に案内した。
「これから私が各種のチョコレートを作りますので、箱入れと包装をお願いします。あと終わった後にリボンのついたシールを貼るのもお願いしていいですか?」
真剣に見つめる精霊さんズとフレンズにやり方を説明する。
トラちゃんのネット通販からあらかじめ業務用のラッピングペーパーや、赤の細かいチェックの包装紙や落ち着いた黒系の包装紙、小さなリボン付きの金色のシール、トリュフ用の4個、9個、16個の三種の区切りのついた菓子箱など必要なものと、ついでにハート型が含まれた様々な型抜きも大小含めて購入した。
ハート型のチョコレートは基本だしね。
大量購入で割引になったので、思っていたよりかなり金額は安く済んだ。
この国でも専門に食品系の業務用商品を扱っているところがあればと思ったが、見当たらないので仕方がない。
ただ、可愛い包装などが少しずつ世間に出てくれば、「こういうのを売る商売をすれば儲かりそうだ!」と思ってくれる商売人が増えるといいな、と思う。
正直、ハルカには包装関連までは手を広げる時間的ゆとりがない。
ネット通販が死ぬまで使えるのかも分からないし、この国が発展してより過ごしやすくなれば御の字である。
サウザーリンは農作物の輸出などでそこそこ豊かな国とは言え、天候に生産量が左右されるので、ガルバン帝国のような陶器やヴォルテン王国の船の建造や家具作成など、天候に影響を受けにくい技術力のようなものを持てば、もっと国力基盤が安定し磐石になるんじゃないかとハルカは思っている。
ハルカは食文化の底上げ、向上で手一杯なので、他の事は他の商売人や職人に努力して頂きたいのである。
ーーーーーーーーーーーーーー
「アーモンドチョコ出来たので包装お願いします!」
「分かったわ!確かキャンディ包みよねハルカ?」
「中に入ってるのはそうです!でも飾りで上に乗ってる奴は箱に詰めるヤツだから!」
「了解!!」
「あとトリュフももう少しで終わるから、ココアパウダー振ってくれる子とシュガーパウダー振ってくれる子二人ずつお願い!」
「はいなー!」
「包装紙を止めるテープが無くなったわハルカっ!」
「作業台の下の扉開けたら在庫あるのでそこから出して下さい!」
「ハルカ、型にチョコレート流し終わったわよ!このワインの混ざったチョコ入れるのよね?」
「はい!今そっちいって説明します!」
「アーモンドチョコは袋に10個入りで良かった?」
「そうです!同じ代金を頂くので数だけは間違えないで下さいね!!」
作業場はチョコレートの甘い香りが漂い、愛らしい精霊が飛び交う、言葉で聞いてるだけなら大変メルヘンチックな空間だったが、実質は戦場であった。
疲れを癒すために各種のチョコレートを大皿に山盛りにして、精霊さんズとフレンズのために置いていたが、みるみる減っていく。体力仕事は数時間が限界のようで、フレンズが入れ替わりに別のフレンズを呼び出し、休憩を挟んでまた交代する、と言う形に落ち着いてから生産力が格段に上がった。
それなりに日持ちするので、1週間前から売りに出す予定で、一日の目標値を500個とした。1週間で3500。
そんなにイベントが広まってないだろうから多すぎるかも知れないが、少な過ぎて後で慌てるよりはいい。
袋入りのアーモンドチョコレート、箱入りのワイン入りのボンボンやトリュフなど複数入ったものだけで、今回は個別売りは扱わないので、数万単位のチョコを黙々と作る訳である。
食事時だけ家に戻って皆に食事を作り、食べ、また作業場に戻る。
倒れると困るので夜遅く戻って数時間だけ仮眠を取り、また作業場へ。
「ハルカ、あまり無理するなよ」
クラインが心配して声をかけたが、
「大丈夫大丈夫。沢山作って後で楽をする作戦だから。早く店にも出ないといけないしね」
とお気楽に見える風情で作業場へ向かっていった。
そして三日後の朝。
俗世間と離れた生活をしていたハルカが、
「終わったわ………」
と作業場の椅子に座り込んで突っ伏した。
無事、と言うか思ったより早く目標値の3500個(袋、箱入り)のチョコレートが出来上がった。精霊さんズとフレンズのお陰である。
「良かったわねハルカ!」
「よく頑張ったわ、エライエライ」
「私達も頑張ったけどね」
「そーよねそーよね」
頭をなでなでしてくれる精霊さんズ達に、
「本当にありがとうございました。チョコレートだけじゃお礼にもならないから、何か他に食べたいものあったら言って下さい」
初めて逢う面々のフレンズ達が好きなものはよく分からないので、聞いてみた。
「別にいいのに」
「チョコ美味しかったしねぇ」
「あ、でも出来たら甘くないお菓子も食べてみたい」
「甘くないお菓子?ポテチとかですかね?」
「あー、そうね。ちょっと甘いものばかり食べてたから私も欲しいかも♪」
「そーよね。たまにはいいわよね」
「なるほど。少々お待ちを」
アイテムボックスから作りおきしていたポテチと、市販でお気に入りの薄焼きせんべい(チーズ味)を取り出して勧めた。
「………あら、塩味のオヤツも美味しいのね!」
「これはチーズの味がするわ!面白い」
「美味しい美味しい」
パリパリと小さな音をさせて食べている大人数のフレンズ達は喜んでくれたようだ。
「またいつでも呼んでね!」
とご機嫌で消えていった。
精霊さんズもポテチとせんべいを一枚ずつ抱えてウキウキと戻ろうとしていたのを捕まえて、オヤツはちゃんとあげるからお友だちが手助けしてくれると言うのを邪魔しちゃいけないよ、とたしなめた。
「ごめんなさい。みんなに美味しいもの持っていけるの自分達だけにしたかったの………みんな楽しみにしてくれてたし」
「でもみんなに助けてもらった方がハルカも楽出来るし、私達も助かったわ。今度からは手伝える子はちゃんと呼ぶからね」
「ごめんねハルカ」
「別に怒ってはないよ。私もお世話になりっぱなしだから。これからもよろしくお願いします」
「ありがとう!こちらこそよろしくね」
「またねハルカ」
帰って行く精霊さんズを見送り時計を見た。
まだ7時過ぎたばかりだ。
朝ご飯作って仕事行けそうだわ。
今日の朝ごはんは白いご飯と味噌汁にしよう。厚焼き玉子もつけるか。やはりメインは鮭にすべきか、しかし銀ダラの西京焼きも捨てがたい。
でも、その前にシャワーに入らなくてはご飯が台無しになる。
身体中からチョコレートの匂いを漂わせながら、早足で家に戻るハルカであった。
自宅横のケルヴィンの研究所と加工場と倉庫の横から少し離れてハルカ専用の作業場を建てていたのだが、今まで家のキッチンで間に合ってたので、初めて作る料理の試作品などを作る位で、あまり使うチャンスがなかったのだ。
ただチョコレートは、加工の過程で甘い独特の香りが広がってしまい、匂いが暫く残ってしまうので、家で作業すると食事の時にご飯の美味しさが半減する。
匂いは大切である。
カレーを作ると、周囲を歩いている人にまで「あらあの家今夜はカレーね」と思われるし、夏場で窓を開けていたら自宅の中も隣の家から漂うカレーの匂いがして、折角のちょっとお高かったショートケーキがかなり残念な味わいになった事をハルカは思い出した。
香りに味が引っ張られる事も多々あるのである。
昔バイト先の同僚なんかにトリュフ作って配っていた程度の量でも半日は匂いが消えなかったのだが、今回はその比ではないだろう大量のチョコレートである。
作業場には既に板チョコ状態に加工した物がところ狭しとでかい冷蔵庫に隙間なく詰め込まれている。
掌大の大きな魔石を8個も嵌め込んだもので、日本では精肉工場とかにありそうな巨大な冷蔵庫は、魔石に充填出来る魔力量が多いため、一度充填すると半年以上は機能する優れものである。
ハルカの魔力量と発動速度だと10分もかからなかったが、転生者のギフトなので他の人はもっとかかるであろうと思われる。女神様には感謝である。
ちなみに魔石は、Sランクの魔物からのドロップ品である。
本来なら冒険者はギルドに持ち込みお金に変える事が殆んどだが、幸いな事にお金には現在困ってないし、こういう使い方が出来ると分かってからは全部売らないで溜め込んでいるので結構な量があるのだ。
今まではハルカやクライン達が討伐で、最近はもっぱら魔物の肉担当のラウールが肉のついでに運んで来てくれるので、ジリジリと大小の魔石が増えている。
動力源としての使い道ももっとこれから出てきそうなので、時間が出来たら考えようとハルカは思っていた。
レストランの方は、だいぶ料理人のスキルが上がったので任せても安心である。向上心があるのでバイトさんも覚えが早い。
ありがたい事である。
しかしクッキーはともかくケーキについては任せられる人間がまだいないので、大量に作りおきしては冷蔵庫に詰め込み、残った分はアイテムボックスの時間経過なしのところにまとめて放り込んだ。
しかし、支店支店とうるさく言ってくるよその町の商業ギルドの事も考えると、いい加減パティシエも養成しないと手が足りなくなってきているのだけは確かだ。
ただ、スイーツならではの細やかな作業とセンスも必要となるので、こればっかりは向き不向きがある。
バイトの雇用と育成を担当しているクラインに、向いていそうな子を何人か探して貰う事と、人手が足りなくなりそうなら新しく信頼出来そうな子を雇ってくれるようにお願いした。
クラインは元々この繁盛ぶりだと、作るのがハルカだけだといずれ立ち行かなくなると予想していたようで、
「目星は何人かつけているので、任せとけ」
と頼もしい返事をくれた。
バレンタインデーのチラシやポスターなども大量に作り、あちこちでばらまく事にしたとも聞いた。
昨夜遅く一度王宮に戻ったクラインは、両親にバレンタインデーの事を説明したそうで、お茶会や仕事の会合などでウワサ話を広めてくれるようだ。
貴族に広めて頂けるのはありがたい事である。
むしろ母上である王妃がノリノリだったようで、
「女性の為のイベントよねぇ~。やだ、ちょっと頑張るわぁ私♪
あ、私も勿論買うから確保しておいてとハルカに伝えておいて頂戴ね!!」
と言われたそうだ。
女性は幾つになってもココロは乙女な部分が存在するのである。
恐れ多い事だが、王妃様可愛い。
まあ、初年度なので、それほど盛り上がりもしないかも知れないし、実際にどう転ぶかは分からないが、最終的に定着すればいい。「バレンタインデーだから思い切って」、という頑張る乙女が増えればそれに越した事はない。最初の一歩を踏み出す事が肝心なのだ。
「よし!チョコだ、チョコを作るんだ私。死ぬほど頑張れ私。そして可愛いラッピングでこの国の乙女のハートをわしづかみにするぞ~!やれば出来る子。私はやれば出来る子」
冷蔵庫を眺めてちょっとやる前から気が遠くなったので、マインドコントロールを済ませたハルカは精霊さんズを呼び出し、いつものようにお願いをしたところ、
「今回はチョコレートが欲しいわ。あと、いつも私達の持ち帰ったオヤツを食べてた子達も協力してくれるって」
「本当に?うわ~、助かるわぁ」
数十人の精霊さんズとフレンズがほわほわと現れて、口々に挨拶をしてくる。
「貴女がハルカね。いつも美味しいオヤツありがとう!」
「本当はずっとお手伝いしたかったのだけど、私達だけで大丈夫だから!と中々いい返事をこの子達がくれなくて。でも今回は感謝の意味でも頑張るわね!」
精霊さんズはオヤツが減るとでも思ったのだろうか。人手がある方が助かるのだが。いや、人ではないから精霊手か。
精霊さんズを見ると、然り気無く目を逸らされた。後ろめたい事はあるわけだね君たち。
まあいい。
そんな事より仕事である。
ハルカはキッチンの隣の作業部屋に案内した。
「これから私が各種のチョコレートを作りますので、箱入れと包装をお願いします。あと終わった後にリボンのついたシールを貼るのもお願いしていいですか?」
真剣に見つめる精霊さんズとフレンズにやり方を説明する。
トラちゃんのネット通販からあらかじめ業務用のラッピングペーパーや、赤の細かいチェックの包装紙や落ち着いた黒系の包装紙、小さなリボン付きの金色のシール、トリュフ用の4個、9個、16個の三種の区切りのついた菓子箱など必要なものと、ついでにハート型が含まれた様々な型抜きも大小含めて購入した。
ハート型のチョコレートは基本だしね。
大量購入で割引になったので、思っていたよりかなり金額は安く済んだ。
この国でも専門に食品系の業務用商品を扱っているところがあればと思ったが、見当たらないので仕方がない。
ただ、可愛い包装などが少しずつ世間に出てくれば、「こういうのを売る商売をすれば儲かりそうだ!」と思ってくれる商売人が増えるといいな、と思う。
正直、ハルカには包装関連までは手を広げる時間的ゆとりがない。
ネット通販が死ぬまで使えるのかも分からないし、この国が発展してより過ごしやすくなれば御の字である。
サウザーリンは農作物の輸出などでそこそこ豊かな国とは言え、天候に生産量が左右されるので、ガルバン帝国のような陶器やヴォルテン王国の船の建造や家具作成など、天候に影響を受けにくい技術力のようなものを持てば、もっと国力基盤が安定し磐石になるんじゃないかとハルカは思っている。
ハルカは食文化の底上げ、向上で手一杯なので、他の事は他の商売人や職人に努力して頂きたいのである。
ーーーーーーーーーーーーーー
「アーモンドチョコ出来たので包装お願いします!」
「分かったわ!確かキャンディ包みよねハルカ?」
「中に入ってるのはそうです!でも飾りで上に乗ってる奴は箱に詰めるヤツだから!」
「了解!!」
「あとトリュフももう少しで終わるから、ココアパウダー振ってくれる子とシュガーパウダー振ってくれる子二人ずつお願い!」
「はいなー!」
「包装紙を止めるテープが無くなったわハルカっ!」
「作業台の下の扉開けたら在庫あるのでそこから出して下さい!」
「ハルカ、型にチョコレート流し終わったわよ!このワインの混ざったチョコ入れるのよね?」
「はい!今そっちいって説明します!」
「アーモンドチョコは袋に10個入りで良かった?」
「そうです!同じ代金を頂くので数だけは間違えないで下さいね!!」
作業場はチョコレートの甘い香りが漂い、愛らしい精霊が飛び交う、言葉で聞いてるだけなら大変メルヘンチックな空間だったが、実質は戦場であった。
疲れを癒すために各種のチョコレートを大皿に山盛りにして、精霊さんズとフレンズのために置いていたが、みるみる減っていく。体力仕事は数時間が限界のようで、フレンズが入れ替わりに別のフレンズを呼び出し、休憩を挟んでまた交代する、と言う形に落ち着いてから生産力が格段に上がった。
それなりに日持ちするので、1週間前から売りに出す予定で、一日の目標値を500個とした。1週間で3500。
そんなにイベントが広まってないだろうから多すぎるかも知れないが、少な過ぎて後で慌てるよりはいい。
袋入りのアーモンドチョコレート、箱入りのワイン入りのボンボンやトリュフなど複数入ったものだけで、今回は個別売りは扱わないので、数万単位のチョコを黙々と作る訳である。
食事時だけ家に戻って皆に食事を作り、食べ、また作業場に戻る。
倒れると困るので夜遅く戻って数時間だけ仮眠を取り、また作業場へ。
「ハルカ、あまり無理するなよ」
クラインが心配して声をかけたが、
「大丈夫大丈夫。沢山作って後で楽をする作戦だから。早く店にも出ないといけないしね」
とお気楽に見える風情で作業場へ向かっていった。
そして三日後の朝。
俗世間と離れた生活をしていたハルカが、
「終わったわ………」
と作業場の椅子に座り込んで突っ伏した。
無事、と言うか思ったより早く目標値の3500個(袋、箱入り)のチョコレートが出来上がった。精霊さんズとフレンズのお陰である。
「良かったわねハルカ!」
「よく頑張ったわ、エライエライ」
「私達も頑張ったけどね」
「そーよねそーよね」
頭をなでなでしてくれる精霊さんズ達に、
「本当にありがとうございました。チョコレートだけじゃお礼にもならないから、何か他に食べたいものあったら言って下さい」
初めて逢う面々のフレンズ達が好きなものはよく分からないので、聞いてみた。
「別にいいのに」
「チョコ美味しかったしねぇ」
「あ、でも出来たら甘くないお菓子も食べてみたい」
「甘くないお菓子?ポテチとかですかね?」
「あー、そうね。ちょっと甘いものばかり食べてたから私も欲しいかも♪」
「そーよね。たまにはいいわよね」
「なるほど。少々お待ちを」
アイテムボックスから作りおきしていたポテチと、市販でお気に入りの薄焼きせんべい(チーズ味)を取り出して勧めた。
「………あら、塩味のオヤツも美味しいのね!」
「これはチーズの味がするわ!面白い」
「美味しい美味しい」
パリパリと小さな音をさせて食べている大人数のフレンズ達は喜んでくれたようだ。
「またいつでも呼んでね!」
とご機嫌で消えていった。
精霊さんズもポテチとせんべいを一枚ずつ抱えてウキウキと戻ろうとしていたのを捕まえて、オヤツはちゃんとあげるからお友だちが手助けしてくれると言うのを邪魔しちゃいけないよ、とたしなめた。
「ごめんなさい。みんなに美味しいもの持っていけるの自分達だけにしたかったの………みんな楽しみにしてくれてたし」
「でもみんなに助けてもらった方がハルカも楽出来るし、私達も助かったわ。今度からは手伝える子はちゃんと呼ぶからね」
「ごめんねハルカ」
「別に怒ってはないよ。私もお世話になりっぱなしだから。これからもよろしくお願いします」
「ありがとう!こちらこそよろしくね」
「またねハルカ」
帰って行く精霊さんズを見送り時計を見た。
まだ7時過ぎたばかりだ。
朝ご飯作って仕事行けそうだわ。
今日の朝ごはんは白いご飯と味噌汁にしよう。厚焼き玉子もつけるか。やはりメインは鮭にすべきか、しかし銀ダラの西京焼きも捨てがたい。
でも、その前にシャワーに入らなくてはご飯が台無しになる。
身体中からチョコレートの匂いを漂わせながら、早足で家に戻るハルカであった。
14
お気に入りに追加
6,095
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。