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ヴォルテン王国訪問【7】
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例えるならば、『ゴジラVSなんちゃら』『アイアンマンVSなんちゃら』みたいな、お前ら戦うのは勝手だが街中で戦うと近隣住民も無傷じゃないんだからな忘れんなよ、といった気配の漂う、重苦しい一触即発の空間。
(王族に マジで手を出す5秒前)
などとセンスのかけらもない、どっかからパクったような辞世の句に自分でダメ出ししていたハルカの脳内逃亡をぶったぎってくれた救世主は、意外な事にイアンであった。
「………ボリス、今の発言はどう言い訳したところで救いようもなくお前が悪い」
「イアン兄さん、だがっーーー」
ボリスの隣に座っていたイアンはすっ、と立ち上がると、弟の頬にフルスイングで拳を放った。
椅子も道連れに吹っ飛び、高そうな絨毯の上で鼻血を流したまま、茫然自失のボリスに対し、
「ボリス、前にも言ったが忘れてるようなので、3歳児にも分かるようにもう一度説明してやろう。我が国で誘拐、殺人などの犯罪行為を行った場合、貴族などが加担していた場合は当然ながら爵位剥奪、領地没収の上で軽くても20年、重いと死刑だな?」
「………そんなこと言われなくても分かってるさ。そこまでバカじゃない」
「王族も変わらんぞ?俺はお前にそれでも父上を救うために、国民の暮らしを守るために後で捕まろうともハルカ=マーミヤを誘拐出来るのか聞いた。お前は出来る、と答えた」
「………」
「まあ、どうせ自分が王位につくために俺の足を引っ張る画策でもしてたんだろうが、俺だって王位について、立派に国を治めたい気持ちはあったからな。どっちもどっちだ、別にだから恨んでいるとかはないぞ」
「兄さん………」
「だが嘘偽りのない気持ちを言えば、俺たちはどちらも経験が致命的に足りない。
どちらが王位につくにしろ、父上に長く元気でいて頂いて、治世についてじっくり学ばせて貰ってからの話だ。今回、父上が万が一亡くなっていたら、ヴォルテン王国なんか数年もしないうちに他国に侵略されて終わりだ。
これでもこの国や民への俺なりの愛情はあるのだ。だからこそ俺は、最悪牢獄へ入ろうが死刑になろうが僅かの可能性にかけた。転………評判の高い魔導師のハルカ嬢に頼ってでも、父上だけは助けたかった。父上を助けることでこの国の未来も救いたかったんだ」
「イアン………お前はそんなことを……」
シュテルファン国王が呟いた。
転生者とかいいかけたなお前、というハルカの鋭い視線に気づいたのか、うまいこと誤魔化してた。
「……だから、平民がどうのと言ってるが、お前は俺と同じく爵位剥奪でいつ死刑になっても文句は言えない訳だ。罪人なんだよ」
「………!!」
「それをハルカ嬢が穏便に謝罪で赦すと言って下さったのに罵倒するとはな。もう呆れてものも言えん。土下座しろ。いやむしろ死んで詫びろ。ほら腰の剣は飾りなのか?最期に男を見せろ」
え。そんな大事(おおごと)だったの?
爵位剥奪だの死刑だの初めて聞きましたけどあてくし。
大体この国の法律なんて知らんがな。
まあ、確かに誘拐は悪いことではある。
いや、でもなあ。うーん、別に死んでほしいとまでは思ってないんだよなぁ。ほぼ実害もなかったし。
困って周りを見ると、同じような顔をしていたミリアンと目があった。
「あのー、イアン、様?その、身分が違いすぎて差し出がましいとは思うのですが、当事者である私からの話も聞いて頂きたいのです」
ミリアンが挙手をして発言を求めた。
「………ミリアン嬢?ああ勿論お話し下さい」
イアンが驚いたのか、軽く目を見張って促した。
「今回の件は、確かに手段としては悪手だと思いますし、私達に治るかどうかも分からない国王の診察、治療をさせた事も、山の魔ぞ……魔物の話も、個人的には一般人に理不尽な重責押しつけやがって、クロちゃんに王宮をブレスで黒こげにして貰って更地に返してやろうか、ぐらいは思いましたけど」
俯くイアン。
下手に出ながらも言うことはアグレッシブなミリアンに、ハルカは内心ハラハラしていた。なんでうちの住人はみんな血の気が多いのだろうか。
「………ですが、運良く調合した薬も御体にあって王様も見違えるほどお元気になられましたし、魔物も居なくなりましたし、結果オーライと言うことでまるっと円満に終わらせたいです。血なまぐさい事は不要です。
ただし、」
「ただし………?」
「謝罪とは別に、拐われてる間に大量に食べ散らかした食事とお菓子の方は、私共商人ですので、別途お支払いをお願いいたします。
それと国王様は御二人の王子のよりいっそうの調きょ………教育を希望致します。将来王位を継がれた際に民からの多くの支えが得られるような立派な王となられるべくビシビシと」
シュテルファン国王は、深く溜め息をつき頷いた。
「勿論だ。早くに片親になったせいで寂しかろうと私は少し子供達を甘やかし過ぎていた。こんな出来の悪いままでは死ぬに死ねん。一から鍛え直すつもりだ。本当に迷惑をかけた。申し訳なかった」
国王は立ち上がると深々と頭を下げた。
イアンもボリスも同様に頭を下げた。
「心から謝罪する。本当に悪かった」
「………すみませんでした!!」
クライン達も気が抜けたようで、ピリピリした空気がようやく穏やかなものに変わった。
なんとか穏便に事は収まったようで、ようやくハルカは胸を撫で下ろした。
とりあえず、ただただ早く家に帰りたかった。
(王族に マジで手を出す5秒前)
などとセンスのかけらもない、どっかからパクったような辞世の句に自分でダメ出ししていたハルカの脳内逃亡をぶったぎってくれた救世主は、意外な事にイアンであった。
「………ボリス、今の発言はどう言い訳したところで救いようもなくお前が悪い」
「イアン兄さん、だがっーーー」
ボリスの隣に座っていたイアンはすっ、と立ち上がると、弟の頬にフルスイングで拳を放った。
椅子も道連れに吹っ飛び、高そうな絨毯の上で鼻血を流したまま、茫然自失のボリスに対し、
「ボリス、前にも言ったが忘れてるようなので、3歳児にも分かるようにもう一度説明してやろう。我が国で誘拐、殺人などの犯罪行為を行った場合、貴族などが加担していた場合は当然ながら爵位剥奪、領地没収の上で軽くても20年、重いと死刑だな?」
「………そんなこと言われなくても分かってるさ。そこまでバカじゃない」
「王族も変わらんぞ?俺はお前にそれでも父上を救うために、国民の暮らしを守るために後で捕まろうともハルカ=マーミヤを誘拐出来るのか聞いた。お前は出来る、と答えた」
「………」
「まあ、どうせ自分が王位につくために俺の足を引っ張る画策でもしてたんだろうが、俺だって王位について、立派に国を治めたい気持ちはあったからな。どっちもどっちだ、別にだから恨んでいるとかはないぞ」
「兄さん………」
「だが嘘偽りのない気持ちを言えば、俺たちはどちらも経験が致命的に足りない。
どちらが王位につくにしろ、父上に長く元気でいて頂いて、治世についてじっくり学ばせて貰ってからの話だ。今回、父上が万が一亡くなっていたら、ヴォルテン王国なんか数年もしないうちに他国に侵略されて終わりだ。
これでもこの国や民への俺なりの愛情はあるのだ。だからこそ俺は、最悪牢獄へ入ろうが死刑になろうが僅かの可能性にかけた。転………評判の高い魔導師のハルカ嬢に頼ってでも、父上だけは助けたかった。父上を助けることでこの国の未来も救いたかったんだ」
「イアン………お前はそんなことを……」
シュテルファン国王が呟いた。
転生者とかいいかけたなお前、というハルカの鋭い視線に気づいたのか、うまいこと誤魔化してた。
「……だから、平民がどうのと言ってるが、お前は俺と同じく爵位剥奪でいつ死刑になっても文句は言えない訳だ。罪人なんだよ」
「………!!」
「それをハルカ嬢が穏便に謝罪で赦すと言って下さったのに罵倒するとはな。もう呆れてものも言えん。土下座しろ。いやむしろ死んで詫びろ。ほら腰の剣は飾りなのか?最期に男を見せろ」
え。そんな大事(おおごと)だったの?
爵位剥奪だの死刑だの初めて聞きましたけどあてくし。
大体この国の法律なんて知らんがな。
まあ、確かに誘拐は悪いことではある。
いや、でもなあ。うーん、別に死んでほしいとまでは思ってないんだよなぁ。ほぼ実害もなかったし。
困って周りを見ると、同じような顔をしていたミリアンと目があった。
「あのー、イアン、様?その、身分が違いすぎて差し出がましいとは思うのですが、当事者である私からの話も聞いて頂きたいのです」
ミリアンが挙手をして発言を求めた。
「………ミリアン嬢?ああ勿論お話し下さい」
イアンが驚いたのか、軽く目を見張って促した。
「今回の件は、確かに手段としては悪手だと思いますし、私達に治るかどうかも分からない国王の診察、治療をさせた事も、山の魔ぞ……魔物の話も、個人的には一般人に理不尽な重責押しつけやがって、クロちゃんに王宮をブレスで黒こげにして貰って更地に返してやろうか、ぐらいは思いましたけど」
俯くイアン。
下手に出ながらも言うことはアグレッシブなミリアンに、ハルカは内心ハラハラしていた。なんでうちの住人はみんな血の気が多いのだろうか。
「………ですが、運良く調合した薬も御体にあって王様も見違えるほどお元気になられましたし、魔物も居なくなりましたし、結果オーライと言うことでまるっと円満に終わらせたいです。血なまぐさい事は不要です。
ただし、」
「ただし………?」
「謝罪とは別に、拐われてる間に大量に食べ散らかした食事とお菓子の方は、私共商人ですので、別途お支払いをお願いいたします。
それと国王様は御二人の王子のよりいっそうの調きょ………教育を希望致します。将来王位を継がれた際に民からの多くの支えが得られるような立派な王となられるべくビシビシと」
シュテルファン国王は、深く溜め息をつき頷いた。
「勿論だ。早くに片親になったせいで寂しかろうと私は少し子供達を甘やかし過ぎていた。こんな出来の悪いままでは死ぬに死ねん。一から鍛え直すつもりだ。本当に迷惑をかけた。申し訳なかった」
国王は立ち上がると深々と頭を下げた。
イアンもボリスも同様に頭を下げた。
「心から謝罪する。本当に悪かった」
「………すみませんでした!!」
クライン達も気が抜けたようで、ピリピリした空気がようやく穏やかなものに変わった。
なんとか穏便に事は収まったようで、ようやくハルカは胸を撫で下ろした。
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