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ヴォルテン王国訪問【1】

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 サウザーリン王国の西側。

 緑豊かなヴォルテン王国は、木が育ちやすい気候なのか、木材資源が豊富で、船や馬車、家具その他木造の製品の輸出、原木の輸出にかなり力を入れている。

 華麗で繊細な作りで知られるガルバン帝国の陶器とは違い、武骨で飾り気のないモノではあるが、とにかく頑丈で長く使えると人気が高いそうだ。



 

「………おー、あれがヴォルテン王国ですかー。いやぁしかし軽ガラス入れて良かったわ。景色が堪能出来るのはいいよねぇ」

 ハルカがアーモンドクッキーをつまみながら外を見ている。

 プルは外を見るのも飽きたのか、トラに腰のマッサージをしてもらっているし、ミリアンとテンは荷物を枕がわりにしてうとうとしている。ケルヴィンは何かメモをしている。何か研究についての閃きでもあったのかも知れない。


 隅には手足を縛られたイアンが器用に黙々とシュークリームを食べていた。


 ハルカが、

「一応王子だし、拉致されて食べ物もろくに与えなかったとか言われても」

と、移動中に何か食べたいものあるか聞いたら即答でシュークリームだったので、皿にいくつも盛って渡したのだ。
 カスタードクリームがお気に入りらしい。さすがに10個近く食べてるのを見ると、ハルカはこの人糖尿とかになるんじゃなかろうかと心配になり、

「あんまり食べると太りますよー健康にも気を付けないとー」

 とだけこそっと伝えたが、

「大丈夫だ、もう太ってるし、妻は私のぷにぷにした肉をつまむのが趣味だ」

 と親指を立てられたので、あーそうですか、と放置することにした。のろけか。
 それなら本人の自由である。勝手に病に倒れるがよい。リア充め。
 なんとなく返り討ちに合った気分のハルカは、クッキーをポリポリかじる。


「ハルカ」

 クラインが隣に立って一緒に外を眺めながら、

「なんでいきなり助ける気になったんだ?」

 と小声で聞いてきた。

「あの兄弟ろくでもないぞ、言っちゃなんだが」

「んー、いや、あの人達はどうでもいいんだけどね、国王様が………」

「国王?ヴォルテンの国王か?………病気だと言う話だが………周りの評判は悪くない」

 サウザーリン王国のザック国王と同様に国民的な人気も高く、安定して国を治めている賢王という評判である。

「………父さんに似てるのよね。まあ外国人顔だから違うと思うけど、もしかして、というのもあるじゃない?」

「まあ………ただ、同時期に転生者が被ることはほぼないと思うから、余り期待はするなよ」

「分かってますって。大丈夫大丈夫」

 ハルカは笑みを浮かべるが、クラインは不安げに呟く。

(万が一、………万が一ハルカの父親が転生してて、それがシュテルファン国王だった場合は………)

 ………俺たちと別れてヴォルテン王国で暮らすのか。

 喉元まで出かかった問いは、もし肯定されたときにどうしていいか解らなくなるので、どうしても言葉に出すことは出来なかった。


[お嬢たち~そろそろどこら辺に降りるのか中の王子様に聞いて欲しいんすけど~]


 クロノスの念話が響き、クラインは11個目のシュークリームをつかんだイアンに

「いつまでも食うな人質なんだからな一応。着陸位置を教えろ」

 と眉間にシワを寄せて立たせるのだった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 直接、問題の山へ向かうには魔物の情報も少ないため、いったんヴォルテン王城の騎士団の訓練場に降りる。

 ドラゴンが舞い降りて来るため、蜘蛛の子を散らすように騎士達が散ったが、移動籠からイアンが出てきたのを見て、敵ではないのか、と動揺が収まる。

 変に騎士団に騒がれても面倒なので、縄はほどいてある。イアンも協力してくれるなら逆らう理由もないので意味がないこともある。

「イアン様っ、そちらの方々は?」

 隊長クラスの年配の男が一歩前に出て頭を下げた。

「ああ、彼らはサウザーリン王国の第3王子と魔導師と従者一行だ。父上の体調不良の原因確認と森の魔物の処置について協力をしてもらえるとの事で来て頂いた。失礼のないように」

「ははっ」

「それとボリスは船で後から護衛と戻る。………父上の様子は?」

「それが………食も進まないようで気力の衰えが激しいご様子でございます」

「………そうか………」

 話を聞いていたハルカがそっと前に出た。

「イアン様、一先ず国王様のご様子だけ確認したいのですが、お目通り願えますでしょうか?手持ちの薬もいくつかございますし、使えるものもあるかも知れません」

「そうだな。ハルカ殿、是非お願いしたい」

 人が沢山いっても病人には悪いだろうと、クラインとハルカ以外はそのまま留守番になった。移動籠の中は広々して意外と快適なので特に問題ない。
 クロノスもミニサイズに戻って食糧の補給をしたいようで、いそいそと籠の中に入って行った。



ーーーーーーーーーーーーーー

「父上、ただいま戻りました」

 王宮の奥まった一角に、シュテルファン国王の寝室があった。扉の前で声をかけると、起きていたのか中から声が返った。

「………イアンか………入れ」

 入り口の衛兵に扉を開けてもらい、ハルカとクラインも中に入る。

 大きなベッドに横たわるシュテルファン国王は、ロケットの写真より一回りも二回りも小さくなったように見えるほど肉が落ちやつれていた。

(………それでも、似てるなあ父さんに雰囲気が………)

「………イアン、そちらの方々はどなたかな?」

 イアンに手助けしてもらい、ベッドの上に座った状態になったシュテルファン国王は、珍しげにハルカ達を眺めた。



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