105 / 144
連載
ヴォルテン王国訪問【1】
しおりを挟む
サウザーリン王国の西側。
緑豊かなヴォルテン王国は、木が育ちやすい気候なのか、木材資源が豊富で、船や馬車、家具その他木造の製品の輸出、原木の輸出にかなり力を入れている。
華麗で繊細な作りで知られるガルバン帝国の陶器とは違い、武骨で飾り気のないモノではあるが、とにかく頑丈で長く使えると人気が高いそうだ。
「………おー、あれがヴォルテン王国ですかー。いやぁしかし軽ガラス入れて良かったわ。景色が堪能出来るのはいいよねぇ」
ハルカがアーモンドクッキーをつまみながら外を見ている。
プルは外を見るのも飽きたのか、トラに腰のマッサージをしてもらっているし、ミリアンとテンは荷物を枕がわりにしてうとうとしている。ケルヴィンは何かメモをしている。何か研究についての閃きでもあったのかも知れない。
隅には手足を縛られたイアンが器用に黙々とシュークリームを食べていた。
ハルカが、
「一応王子だし、拉致されて食べ物もろくに与えなかったとか言われても」
と、移動中に何か食べたいものあるか聞いたら即答でシュークリームだったので、皿にいくつも盛って渡したのだ。
カスタードクリームがお気に入りらしい。さすがに10個近く食べてるのを見ると、ハルカはこの人糖尿とかになるんじゃなかろうかと心配になり、
「あんまり食べると太りますよー健康にも気を付けないとー」
とだけこそっと伝えたが、
「大丈夫だ、もう太ってるし、妻は私のぷにぷにした肉をつまむのが趣味だ」
と親指を立てられたので、あーそうですか、と放置することにした。のろけか。
それなら本人の自由である。勝手に病に倒れるがよい。リア充め。
なんとなく返り討ちに合った気分のハルカは、クッキーをポリポリかじる。
「ハルカ」
クラインが隣に立って一緒に外を眺めながら、
「なんでいきなり助ける気になったんだ?」
と小声で聞いてきた。
「あの兄弟ろくでもないぞ、言っちゃなんだが」
「んー、いや、あの人達はどうでもいいんだけどね、国王様が………」
「国王?ヴォルテンの国王か?………病気だと言う話だが………周りの評判は悪くない」
サウザーリン王国のザック国王と同様に国民的な人気も高く、安定して国を治めている賢王という評判である。
「………父さんに似てるのよね。まあ外国人顔だから違うと思うけど、もしかして、というのもあるじゃない?」
「まあ………ただ、同時期に転生者が被ることはほぼないと思うから、余り期待はするなよ」
「分かってますって。大丈夫大丈夫」
ハルカは笑みを浮かべるが、クラインは不安げに呟く。
(万が一、………万が一ハルカの父親が転生してて、それがシュテルファン国王だった場合は………)
………俺たちと別れてヴォルテン王国で暮らすのか。
喉元まで出かかった問いは、もし肯定されたときにどうしていいか解らなくなるので、どうしても言葉に出すことは出来なかった。
[お嬢たち~そろそろどこら辺に降りるのか中の王子様に聞いて欲しいんすけど~]
クロノスの念話が響き、クラインは11個目のシュークリームをつかんだイアンに
「いつまでも食うな人質なんだからな一応。着陸位置を教えろ」
と眉間にシワを寄せて立たせるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
直接、問題の山へ向かうには魔物の情報も少ないため、いったんヴォルテン王城の騎士団の訓練場に降りる。
ドラゴンが舞い降りて来るため、蜘蛛の子を散らすように騎士達が散ったが、移動籠からイアンが出てきたのを見て、敵ではないのか、と動揺が収まる。
変に騎士団に騒がれても面倒なので、縄はほどいてある。イアンも協力してくれるなら逆らう理由もないので意味がないこともある。
「イアン様っ、そちらの方々は?」
隊長クラスの年配の男が一歩前に出て頭を下げた。
「ああ、彼らはサウザーリン王国の第3王子と魔導師と従者一行だ。父上の体調不良の原因確認と森の魔物の処置について協力をしてもらえるとの事で来て頂いた。失礼のないように」
「ははっ」
「それとボリスは船で後から護衛と戻る。………父上の様子は?」
「それが………食も進まないようで気力の衰えが激しいご様子でございます」
「………そうか………」
話を聞いていたハルカがそっと前に出た。
「イアン様、一先ず国王様のご様子だけ確認したいのですが、お目通り願えますでしょうか?手持ちの薬もいくつかございますし、使えるものもあるかも知れません」
「そうだな。ハルカ殿、是非お願いしたい」
人が沢山いっても病人には悪いだろうと、クラインとハルカ以外はそのまま留守番になった。移動籠の中は広々して意外と快適なので特に問題ない。
クロノスもミニサイズに戻って食糧の補給をしたいようで、いそいそと籠の中に入って行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
「父上、ただいま戻りました」
王宮の奥まった一角に、シュテルファン国王の寝室があった。扉の前で声をかけると、起きていたのか中から声が返った。
「………イアンか………入れ」
入り口の衛兵に扉を開けてもらい、ハルカとクラインも中に入る。
大きなベッドに横たわるシュテルファン国王は、ロケットの写真より一回りも二回りも小さくなったように見えるほど肉が落ちやつれていた。
(………それでも、似てるなあ父さんに雰囲気が………)
「………イアン、そちらの方々はどなたかな?」
イアンに手助けしてもらい、ベッドの上に座った状態になったシュテルファン国王は、珍しげにハルカ達を眺めた。
緑豊かなヴォルテン王国は、木が育ちやすい気候なのか、木材資源が豊富で、船や馬車、家具その他木造の製品の輸出、原木の輸出にかなり力を入れている。
華麗で繊細な作りで知られるガルバン帝国の陶器とは違い、武骨で飾り気のないモノではあるが、とにかく頑丈で長く使えると人気が高いそうだ。
「………おー、あれがヴォルテン王国ですかー。いやぁしかし軽ガラス入れて良かったわ。景色が堪能出来るのはいいよねぇ」
ハルカがアーモンドクッキーをつまみながら外を見ている。
プルは外を見るのも飽きたのか、トラに腰のマッサージをしてもらっているし、ミリアンとテンは荷物を枕がわりにしてうとうとしている。ケルヴィンは何かメモをしている。何か研究についての閃きでもあったのかも知れない。
隅には手足を縛られたイアンが器用に黙々とシュークリームを食べていた。
ハルカが、
「一応王子だし、拉致されて食べ物もろくに与えなかったとか言われても」
と、移動中に何か食べたいものあるか聞いたら即答でシュークリームだったので、皿にいくつも盛って渡したのだ。
カスタードクリームがお気に入りらしい。さすがに10個近く食べてるのを見ると、ハルカはこの人糖尿とかになるんじゃなかろうかと心配になり、
「あんまり食べると太りますよー健康にも気を付けないとー」
とだけこそっと伝えたが、
「大丈夫だ、もう太ってるし、妻は私のぷにぷにした肉をつまむのが趣味だ」
と親指を立てられたので、あーそうですか、と放置することにした。のろけか。
それなら本人の自由である。勝手に病に倒れるがよい。リア充め。
なんとなく返り討ちに合った気分のハルカは、クッキーをポリポリかじる。
「ハルカ」
クラインが隣に立って一緒に外を眺めながら、
「なんでいきなり助ける気になったんだ?」
と小声で聞いてきた。
「あの兄弟ろくでもないぞ、言っちゃなんだが」
「んー、いや、あの人達はどうでもいいんだけどね、国王様が………」
「国王?ヴォルテンの国王か?………病気だと言う話だが………周りの評判は悪くない」
サウザーリン王国のザック国王と同様に国民的な人気も高く、安定して国を治めている賢王という評判である。
「………父さんに似てるのよね。まあ外国人顔だから違うと思うけど、もしかして、というのもあるじゃない?」
「まあ………ただ、同時期に転生者が被ることはほぼないと思うから、余り期待はするなよ」
「分かってますって。大丈夫大丈夫」
ハルカは笑みを浮かべるが、クラインは不安げに呟く。
(万が一、………万が一ハルカの父親が転生してて、それがシュテルファン国王だった場合は………)
………俺たちと別れてヴォルテン王国で暮らすのか。
喉元まで出かかった問いは、もし肯定されたときにどうしていいか解らなくなるので、どうしても言葉に出すことは出来なかった。
[お嬢たち~そろそろどこら辺に降りるのか中の王子様に聞いて欲しいんすけど~]
クロノスの念話が響き、クラインは11個目のシュークリームをつかんだイアンに
「いつまでも食うな人質なんだからな一応。着陸位置を教えろ」
と眉間にシワを寄せて立たせるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
直接、問題の山へ向かうには魔物の情報も少ないため、いったんヴォルテン王城の騎士団の訓練場に降りる。
ドラゴンが舞い降りて来るため、蜘蛛の子を散らすように騎士達が散ったが、移動籠からイアンが出てきたのを見て、敵ではないのか、と動揺が収まる。
変に騎士団に騒がれても面倒なので、縄はほどいてある。イアンも協力してくれるなら逆らう理由もないので意味がないこともある。
「イアン様っ、そちらの方々は?」
隊長クラスの年配の男が一歩前に出て頭を下げた。
「ああ、彼らはサウザーリン王国の第3王子と魔導師と従者一行だ。父上の体調不良の原因確認と森の魔物の処置について協力をしてもらえるとの事で来て頂いた。失礼のないように」
「ははっ」
「それとボリスは船で後から護衛と戻る。………父上の様子は?」
「それが………食も進まないようで気力の衰えが激しいご様子でございます」
「………そうか………」
話を聞いていたハルカがそっと前に出た。
「イアン様、一先ず国王様のご様子だけ確認したいのですが、お目通り願えますでしょうか?手持ちの薬もいくつかございますし、使えるものもあるかも知れません」
「そうだな。ハルカ殿、是非お願いしたい」
人が沢山いっても病人には悪いだろうと、クラインとハルカ以外はそのまま留守番になった。移動籠の中は広々して意外と快適なので特に問題ない。
クロノスもミニサイズに戻って食糧の補給をしたいようで、いそいそと籠の中に入って行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
「父上、ただいま戻りました」
王宮の奥まった一角に、シュテルファン国王の寝室があった。扉の前で声をかけると、起きていたのか中から声が返った。
「………イアンか………入れ」
入り口の衛兵に扉を開けてもらい、ハルカとクラインも中に入る。
大きなベッドに横たわるシュテルファン国王は、ロケットの写真より一回りも二回りも小さくなったように見えるほど肉が落ちやつれていた。
(………それでも、似てるなあ父さんに雰囲気が………)
「………イアン、そちらの方々はどなたかな?」
イアンに手助けしてもらい、ベッドの上に座った状態になったシュテルファン国王は、珍しげにハルカ達を眺めた。
13
お気に入りに追加
6,102
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
詰んでレラ。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
私はシンデレラ=バルファン。18才の父親とお菓子とパンの店を営むごく普通の子なんだけど、水汲みでスッ転んで頭を打ってでありきたりだけど前世の記憶が甦った。
前世の彼女は逆ハーでイケメン王子様とのハッピーエンドに憧れてた。
止めてよ私は年上のオッサンが好きなんだから。
でも童話『シンデレラ』をふっと思い出すと、何やら若干かぶった環境。
いやいやあれ作り話だよね?あんなおっかない話、私と関係ないよね?
全6話完結。なろう、エブリスタで掲載。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。