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ハルカとミリアンの誘拐【8】
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「馬車にいる人間に告ぐ。5秒以内にハルカとミリアンを解放、降伏しないと敵対者と見なし、全面攻撃を行う。5ぉ~………0。敵対者だな」
「………イアン兄さん、大変だ!!俺、5秒間の記憶がねえ。タイムスリップしたのかもっ………まさか時空間魔法の使い手が………」
ボリスがイアンを見て叫ぶ。
「私だって覚えはないよ!奴等が勝手に数えるの省略しただけだっ落ち着けボリス!」
イアンはボリスの肩をガクガクと揺さぶった。脳筋の弟は、身体だけはデカいし剣術の訓練などで鍛えられて惚れ惚れするほど筋骨隆々で逞しいのだが、頭の作りは病弱な美少女並みにか弱く儚く切ない。
その上、子供の頃にオークに踏まれかけたトラウマか、やたらバカでかい生き物が苦手である。
ボリスはフレイムドラゴンが馬車近くに舞い降りただけで、パニック症状が出ている。
イアンは溜め息をついたが、今はのんびり考える時間もないので、
「馬車を攻撃したら中にいるハルカもミリアンも無事では済まないぞー!バカめが!」
と怒鳴り返した。
すると、先程の男とは違う子供のような声で、
「そいつらはなー、自動的に防御結界張られてるから怪我1つせんぞー♪怪我すんのお前らだけさー♪試してやろうか~?」
とウキウキした反応が返ってきた。
「イアン様っマジで死にますって!早く降伏しましょうよ!俺まだ可愛い妻と幼い子供残して死にたくないですっ!」
「バカ野郎、お前は結婚してるからいいけどな、俺はまだ恋人も結婚の予定もないんだぞ!孤独死はやだーーーっ!せめて恋人が出来てからにしてくれぇっ!!!」
「アホかぁぁ、年食ったら死んでいい訳じゃないだろうが!!より大切なもんが年々増えるんだよ妻や子供達や趣味や色々と!
俺だってまだまだやりたいことは腐るほどあるんだよおぉぉっ!!降伏しまーーーす、心から降伏しまーーーす!」
騎士兼ボディーガードが我先に馬車を飛び降りていく。
「ばっ、お前らっ何処行くんだっ!」
怒りで顔を真っ赤にしたイアンが叫ぶも騎士達は立ち止まる事はなかった。
どうももう一台の馬車からも騎士達が全員出てきたようで、
「………お前達、驚くほど人望ねえのな。少し同情したぞ俺様は」
と情け容赦ない追い討ちがかかった。
「分かった!今から出ていくからなにもするな!」
イアンはボリスを連れ表へ出た。
フレイムドラゴンが運んでいたと思われる移動籠から、背の高い獣人の若い男二人とくりくりした金髪の子供と猫もどきと尋常でない禍々しいオーラを放つ美少年が降りて来た。
「トラ、ハルカとミリアンを頼む」
『了解しました』
猫もどきが馬車に乗り込んでくのを確認していた若い獣人の方が、
「そんなに簡単に逃げられるとでも思ったのか。ハルカは国一番の規模のマーミヤ商会の代表なだけじゃなく、武道会準優勝で料理コンテストの初代チャンプ、この国のVIPなのに」
とイアンとボリスを呆れたように眺めた。
[なんすかなんすか、ブレスやるんじゃないんすか?俺もう準備万端っすよ?折角だからやっちゃいましょうよついでだし]
フレイムドラゴンが語りかけた男にワキワキと手を動かした。
「こらこら、やらないで済むならそれに越したことないだろが。何のついでだよ。今の状況でやったら一方的な加害者扱いだからな。個人的にはもう少し粘ってくれりゃと思ったがな。
それにもし森とかに被害が出たらパラッツォもローリーも困るだろうが。お前が賠償金でも払うのかクロノス?」
逆にたしなめられてしょんぼりしていた。ちびっこい奴までがコソッとイアンに耳打ちしてきた。
「かなり抵抗してくんないと殴る蹴るも正当防衛にしづらいしさ、どうだろうここはパーっと剣とか攻撃魔法とかで暴れてくんないかな?このままだと俺様達、働いた感が0なんだよ。ハルカ達にいいとこ見せないとさあ、ご褒美的ご飯とかスイーツとか出して貰いにくいじゃん?」
じゃん? って言われても………何だろう、この緊張感のない会話は。
ただ、確実に手を出したら擦り傷1つでも何倍ものレベルで返ってくると言うことだけは解る。
ハルカ達の仲間もやっぱり只者じゃなかった。
ふうっ、と空を見上げ、イアンはボリスの頭をつかんで一緒に額を地面に押し付けた。
「済まなかった本当に出来心だ勘弁してくれ!」
「えー、謝っちゃうの? せっかく色んな麻痺毒とか自白剤とか武器とか食い物も持ってきたのに張り合いないなぁ………もっと悪党なら悪党らしく振り切れないと。プル太郎侍にもなれないじゃんか」
クルクル金髪の子供が残念そうに呟いた。なんだプル太郎侍って。
麻痺毒とか自白剤とか商人が持ち歩いてていいのか。
「あ、みんな来てくれたんだね。ありがとう~」
「あらケルヴィンまで。珍しいわね」
猫もどきに縄をほどかれて馬車から出てきたのは拐ったハルカとミリアンである。
と言ってもミリアンは、クラインの声が聞こえた時点で自分で縄を切ってたので、トラの仕事はなかったのだが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まだ昼の1時過ぎであるが、クライン達は食事をしてなかったので、ハルカがクロロニアンの肉を使ってローストビーフならぬローストクロロを作り、マヨネーズを使ったソースとマスタードの効いたサンドイッチを山のように作り、コーンスープをマグカップに入れそれぞれに渡していく。
ものすごい勢いで無くなっていくサンドイッチの山を眺めながら、
「どうでもいいけど、私は今の今まで誘拐されてたのに、何で解放された途端こんなに働いてるんだろうか」
ハルカが呟くと、ミリアンが
「あら、アンタは馬車の中でもご飯出したりしてたじゃない。言うほど嫌じゃないでしょう?ハルカは基本的に働いてるのが好きなんじゃない?何もしてない方がソワソワしてるし」
とサンドイッチを1つつまんだ。
「………言われてみるとそうかも知れない。貧乏性なんだね多分」
ふと見ると、クラインは既に尋問を始めていた。
「………イアンとボリス、と言ったか。確かヴォルテン王国の王子の名前と同じだが」
「………」
「別人か?王子なら少しは気を遣おうと思ったが、ただの貴族ならどうでもいいな。おいトラ、自白剤くれ」
「「その通りです!!」」
イアンとボリスが揃って声を上げる。
「………で?」
「………で?とは?」
「だからなんでハルカ達を拐ったんだ?」
「て、転生者は国に幸運をもたらす救いの神だから当然だろ?」
イアンがキッ、とクラインを睨み付ける。
「それだけか?」
「………?」
「いや、まあ確かに転生者は国に利益をもたらすことも多いが、協力を断固拒否されたらそれまでだ。逆に特殊な力を持ってたりすることも多いから、無理強いすると国に被害をもたらすレベルで暴れかねない。それも国賓待遇で呼び寄せる訳でもなく、縄で縛って拐うとか、脅されでもしない限りまずやらな………あー、だからミリアンも一緒に拐ったのか。ミリアンや家族に危害を加えられたくなきゃ言うこと聞け、みたいな?」
「………………」
「………王族のやることとは思えんが、まあそれはいい。しかし、ヴォルテン王国は木材の輸出や造船などでかなり豊かな国だし、他国との戦争の気配もない。ハルカを連れてって何をさせたかったんだ?
………まさかさっき言ってたハルカに自分の子供産ませて能力者を、みたいなホラ話を本気で言ってる訳じゃないんだろう?
転生者の能力は一代限りだし、子供には受け継がれん」
「え、そうなのか?」
ボリスが驚いた顔をした。イアンは薄々知っていたようで、口を強く結んでいる。
「当然だろ。何十年に1度来る転生者の子孫が能力持ちだったら、アチコチに転生者以外の強力な能力者がゴロゴロしてなきゃおかしいし、女神が定期的に呼ぶ必要もない。少し考えりゃ解るだろう」
「そう言われれば………」
「お前の兄貴は理解してたみたいだがな。
だから解ってて拐う理由は別の所だろう?」
少し離れた所から聞いていたハルカは、
(おー、クラインさすがに策士と呼ばれるだけあって、理解が早いね。あのむちむちさんも解ってて言ってたのは単なる脅しだったのかしら)
などと考えつつ、少し冷えてきたのでトラちゃんに紅茶を入れて貰う。
クラインから渡されたショールがスルッと落ちてしまったので拾おうとしたら、何か光るものが落ちていた。
拾って見ると、大きめのロケット型のペンダントで、中に写真が入るヤツだった。
何気なしに蓋を開けると、中年の身分の高そうな男性が子供と写っていた。
子供はこの丸々した身体からイアンだろう。国王かな。
「………!!!!!!」
似てる。てかクリソツ。
うちの父さんと顔のパーツが同じだわ。
流石に髪色は父さん黒でこの人茶色いけど、人の良さそうな笑顔といい、あのバカ息子達のパパとは思えないほどハルカの父親に瓜二つだった。
(父さんも転生したとか………いや五十年に一度とか言うレベルだし、まさかそれはないよね国王だし?………でも女神さまって長い間生きてるだろうから勘違いとかで短期間に何度かというケースもないとは言えないんじゃない?)
ハルカは居てもたってもいられず、イアンの方に向かう。
「落とし物………この人、国王様?」
「あ、済まない。………そうだ、父上だが」
「何か国で困った事があるの?場合によったら力になってもいいけど、嘘はなしね」
「………おい、ハルカ、何言ってるんだ」
クラインが止めようとするが、ハルカは黙っててと言う眼を向けた。
「………父上が急に具合を悪くして倒れたのだが、同じタイミングでうちの国の山にバカでかいカラスみたいな鳥が二匹現れてな。冒険者や商人が山越えするのを邪魔するんだ。
見た者の話だと、何か山道の真ん中で一匹だけが暴れててそれをもう一匹が宥めてるみたいな感じらしいのだが、とにかく危なくて近づけないらしい。騎士団にも向かわせたのだが、攻撃しようとすると風魔法で煽られて弓も当たらないし、近くにも寄れないのでどうにも出来んそうだ。ただ向こうから襲っては来ないので死傷者は出ないのだか、商売や仕事での行き来も出来ず、ここ1週間ばかり山向こうの町が寸断されてるような状況なのだ」
「………私にそのカラスっぽいのを退治させようと?」
「………いや、退治というか別に暴れるならもっと他所のとこでやってくれるなら、殺さなくていいんだが。人の行かない山奥とかな。
それと………父上の病気が原因不明でどんどんやつれていくのだ。宮廷医師にも原因が掴めないらしいし、このままだと父上が死ぬんじゃないかと不安で………転生者ならもしかしたら原因が解るか治せるかも、と………」
「分かりました。引き受けましょう!」
ハルカのきっぱりした発言に、迎えに来た皆は呆然。
「「「「ちょ、えええええ?」」」」
「おい、ハルカ、お人好しも大概にせんと………」
プルがハルカの近くまでやって来て囁いたが、
「お人好しじゃなくて今回は私の意思だから。皆は無理しないでいいよ。一人でもちょっと行ってくる。あ、でもクロちゃんだけは移動するのに助けて欲しいけど」
[俺はいいっすけど?むしろ少ししか飛んでないしブレスも出来ないしストレス溜まるからヴォルテン王国まで飛ぶのは全然いいっすよ。お嬢は船ダメだしねえ]
「おい行かないとは言ってないだろ?行くよ俺様も」
「………僕も行く………」
「二、三日は留守にするって言ってますから、せっかくだしヴォルテン王国の魔物でも狩りますか」
『主様が行くならワタクシもお供します』
「アタシはハルカと一緒に行くわよ、ほっとけないし」
クラインが溜め息をつきながら、
「………なんで誘拐犯の手助けせにゃならんのやら………ハルカがこれ以上無謀な真似に走らないよう俺も行く」
と、イアン達を睨んだ。
クロノスの話だとヴォルテン王国まで飛ぶのは二時間程度で行けるらしい。
騎士団の人たちはそのまま縄を解いて、ボリスを連れて船でヴォルテンに向かってもらう。
ボリスはクロノスに運んでもらうのは頑なに拒否したので、イアンだけ移動籠に乗って貰う事にして、ハルカ達はヴォルテン王国へ向けて出発したのだった。
「………イアン兄さん、大変だ!!俺、5秒間の記憶がねえ。タイムスリップしたのかもっ………まさか時空間魔法の使い手が………」
ボリスがイアンを見て叫ぶ。
「私だって覚えはないよ!奴等が勝手に数えるの省略しただけだっ落ち着けボリス!」
イアンはボリスの肩をガクガクと揺さぶった。脳筋の弟は、身体だけはデカいし剣術の訓練などで鍛えられて惚れ惚れするほど筋骨隆々で逞しいのだが、頭の作りは病弱な美少女並みにか弱く儚く切ない。
その上、子供の頃にオークに踏まれかけたトラウマか、やたらバカでかい生き物が苦手である。
ボリスはフレイムドラゴンが馬車近くに舞い降りただけで、パニック症状が出ている。
イアンは溜め息をついたが、今はのんびり考える時間もないので、
「馬車を攻撃したら中にいるハルカもミリアンも無事では済まないぞー!バカめが!」
と怒鳴り返した。
すると、先程の男とは違う子供のような声で、
「そいつらはなー、自動的に防御結界張られてるから怪我1つせんぞー♪怪我すんのお前らだけさー♪試してやろうか~?」
とウキウキした反応が返ってきた。
「イアン様っマジで死にますって!早く降伏しましょうよ!俺まだ可愛い妻と幼い子供残して死にたくないですっ!」
「バカ野郎、お前は結婚してるからいいけどな、俺はまだ恋人も結婚の予定もないんだぞ!孤独死はやだーーーっ!せめて恋人が出来てからにしてくれぇっ!!!」
「アホかぁぁ、年食ったら死んでいい訳じゃないだろうが!!より大切なもんが年々増えるんだよ妻や子供達や趣味や色々と!
俺だってまだまだやりたいことは腐るほどあるんだよおぉぉっ!!降伏しまーーーす、心から降伏しまーーーす!」
騎士兼ボディーガードが我先に馬車を飛び降りていく。
「ばっ、お前らっ何処行くんだっ!」
怒りで顔を真っ赤にしたイアンが叫ぶも騎士達は立ち止まる事はなかった。
どうももう一台の馬車からも騎士達が全員出てきたようで、
「………お前達、驚くほど人望ねえのな。少し同情したぞ俺様は」
と情け容赦ない追い討ちがかかった。
「分かった!今から出ていくからなにもするな!」
イアンはボリスを連れ表へ出た。
フレイムドラゴンが運んでいたと思われる移動籠から、背の高い獣人の若い男二人とくりくりした金髪の子供と猫もどきと尋常でない禍々しいオーラを放つ美少年が降りて来た。
「トラ、ハルカとミリアンを頼む」
『了解しました』
猫もどきが馬車に乗り込んでくのを確認していた若い獣人の方が、
「そんなに簡単に逃げられるとでも思ったのか。ハルカは国一番の規模のマーミヤ商会の代表なだけじゃなく、武道会準優勝で料理コンテストの初代チャンプ、この国のVIPなのに」
とイアンとボリスを呆れたように眺めた。
[なんすかなんすか、ブレスやるんじゃないんすか?俺もう準備万端っすよ?折角だからやっちゃいましょうよついでだし]
フレイムドラゴンが語りかけた男にワキワキと手を動かした。
「こらこら、やらないで済むならそれに越したことないだろが。何のついでだよ。今の状況でやったら一方的な加害者扱いだからな。個人的にはもう少し粘ってくれりゃと思ったがな。
それにもし森とかに被害が出たらパラッツォもローリーも困るだろうが。お前が賠償金でも払うのかクロノス?」
逆にたしなめられてしょんぼりしていた。ちびっこい奴までがコソッとイアンに耳打ちしてきた。
「かなり抵抗してくんないと殴る蹴るも正当防衛にしづらいしさ、どうだろうここはパーっと剣とか攻撃魔法とかで暴れてくんないかな?このままだと俺様達、働いた感が0なんだよ。ハルカ達にいいとこ見せないとさあ、ご褒美的ご飯とかスイーツとか出して貰いにくいじゃん?」
じゃん? って言われても………何だろう、この緊張感のない会話は。
ただ、確実に手を出したら擦り傷1つでも何倍ものレベルで返ってくると言うことだけは解る。
ハルカ達の仲間もやっぱり只者じゃなかった。
ふうっ、と空を見上げ、イアンはボリスの頭をつかんで一緒に額を地面に押し付けた。
「済まなかった本当に出来心だ勘弁してくれ!」
「えー、謝っちゃうの? せっかく色んな麻痺毒とか自白剤とか武器とか食い物も持ってきたのに張り合いないなぁ………もっと悪党なら悪党らしく振り切れないと。プル太郎侍にもなれないじゃんか」
クルクル金髪の子供が残念そうに呟いた。なんだプル太郎侍って。
麻痺毒とか自白剤とか商人が持ち歩いてていいのか。
「あ、みんな来てくれたんだね。ありがとう~」
「あらケルヴィンまで。珍しいわね」
猫もどきに縄をほどかれて馬車から出てきたのは拐ったハルカとミリアンである。
と言ってもミリアンは、クラインの声が聞こえた時点で自分で縄を切ってたので、トラの仕事はなかったのだが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
まだ昼の1時過ぎであるが、クライン達は食事をしてなかったので、ハルカがクロロニアンの肉を使ってローストビーフならぬローストクロロを作り、マヨネーズを使ったソースとマスタードの効いたサンドイッチを山のように作り、コーンスープをマグカップに入れそれぞれに渡していく。
ものすごい勢いで無くなっていくサンドイッチの山を眺めながら、
「どうでもいいけど、私は今の今まで誘拐されてたのに、何で解放された途端こんなに働いてるんだろうか」
ハルカが呟くと、ミリアンが
「あら、アンタは馬車の中でもご飯出したりしてたじゃない。言うほど嫌じゃないでしょう?ハルカは基本的に働いてるのが好きなんじゃない?何もしてない方がソワソワしてるし」
とサンドイッチを1つつまんだ。
「………言われてみるとそうかも知れない。貧乏性なんだね多分」
ふと見ると、クラインは既に尋問を始めていた。
「………イアンとボリス、と言ったか。確かヴォルテン王国の王子の名前と同じだが」
「………」
「別人か?王子なら少しは気を遣おうと思ったが、ただの貴族ならどうでもいいな。おいトラ、自白剤くれ」
「「その通りです!!」」
イアンとボリスが揃って声を上げる。
「………で?」
「………で?とは?」
「だからなんでハルカ達を拐ったんだ?」
「て、転生者は国に幸運をもたらす救いの神だから当然だろ?」
イアンがキッ、とクラインを睨み付ける。
「それだけか?」
「………?」
「いや、まあ確かに転生者は国に利益をもたらすことも多いが、協力を断固拒否されたらそれまでだ。逆に特殊な力を持ってたりすることも多いから、無理強いすると国に被害をもたらすレベルで暴れかねない。それも国賓待遇で呼び寄せる訳でもなく、縄で縛って拐うとか、脅されでもしない限りまずやらな………あー、だからミリアンも一緒に拐ったのか。ミリアンや家族に危害を加えられたくなきゃ言うこと聞け、みたいな?」
「………………」
「………王族のやることとは思えんが、まあそれはいい。しかし、ヴォルテン王国は木材の輸出や造船などでかなり豊かな国だし、他国との戦争の気配もない。ハルカを連れてって何をさせたかったんだ?
………まさかさっき言ってたハルカに自分の子供産ませて能力者を、みたいなホラ話を本気で言ってる訳じゃないんだろう?
転生者の能力は一代限りだし、子供には受け継がれん」
「え、そうなのか?」
ボリスが驚いた顔をした。イアンは薄々知っていたようで、口を強く結んでいる。
「当然だろ。何十年に1度来る転生者の子孫が能力持ちだったら、アチコチに転生者以外の強力な能力者がゴロゴロしてなきゃおかしいし、女神が定期的に呼ぶ必要もない。少し考えりゃ解るだろう」
「そう言われれば………」
「お前の兄貴は理解してたみたいだがな。
だから解ってて拐う理由は別の所だろう?」
少し離れた所から聞いていたハルカは、
(おー、クラインさすがに策士と呼ばれるだけあって、理解が早いね。あのむちむちさんも解ってて言ってたのは単なる脅しだったのかしら)
などと考えつつ、少し冷えてきたのでトラちゃんに紅茶を入れて貰う。
クラインから渡されたショールがスルッと落ちてしまったので拾おうとしたら、何か光るものが落ちていた。
拾って見ると、大きめのロケット型のペンダントで、中に写真が入るヤツだった。
何気なしに蓋を開けると、中年の身分の高そうな男性が子供と写っていた。
子供はこの丸々した身体からイアンだろう。国王かな。
「………!!!!!!」
似てる。てかクリソツ。
うちの父さんと顔のパーツが同じだわ。
流石に髪色は父さん黒でこの人茶色いけど、人の良さそうな笑顔といい、あのバカ息子達のパパとは思えないほどハルカの父親に瓜二つだった。
(父さんも転生したとか………いや五十年に一度とか言うレベルだし、まさかそれはないよね国王だし?………でも女神さまって長い間生きてるだろうから勘違いとかで短期間に何度かというケースもないとは言えないんじゃない?)
ハルカは居てもたってもいられず、イアンの方に向かう。
「落とし物………この人、国王様?」
「あ、済まない。………そうだ、父上だが」
「何か国で困った事があるの?場合によったら力になってもいいけど、嘘はなしね」
「………おい、ハルカ、何言ってるんだ」
クラインが止めようとするが、ハルカは黙っててと言う眼を向けた。
「………父上が急に具合を悪くして倒れたのだが、同じタイミングでうちの国の山にバカでかいカラスみたいな鳥が二匹現れてな。冒険者や商人が山越えするのを邪魔するんだ。
見た者の話だと、何か山道の真ん中で一匹だけが暴れててそれをもう一匹が宥めてるみたいな感じらしいのだが、とにかく危なくて近づけないらしい。騎士団にも向かわせたのだが、攻撃しようとすると風魔法で煽られて弓も当たらないし、近くにも寄れないのでどうにも出来んそうだ。ただ向こうから襲っては来ないので死傷者は出ないのだか、商売や仕事での行き来も出来ず、ここ1週間ばかり山向こうの町が寸断されてるような状況なのだ」
「………私にそのカラスっぽいのを退治させようと?」
「………いや、退治というか別に暴れるならもっと他所のとこでやってくれるなら、殺さなくていいんだが。人の行かない山奥とかな。
それと………父上の病気が原因不明でどんどんやつれていくのだ。宮廷医師にも原因が掴めないらしいし、このままだと父上が死ぬんじゃないかと不安で………転生者ならもしかしたら原因が解るか治せるかも、と………」
「分かりました。引き受けましょう!」
ハルカのきっぱりした発言に、迎えに来た皆は呆然。
「「「「ちょ、えええええ?」」」」
「おい、ハルカ、お人好しも大概にせんと………」
プルがハルカの近くまでやって来て囁いたが、
「お人好しじゃなくて今回は私の意思だから。皆は無理しないでいいよ。一人でもちょっと行ってくる。あ、でもクロちゃんだけは移動するのに助けて欲しいけど」
[俺はいいっすけど?むしろ少ししか飛んでないしブレスも出来ないしストレス溜まるからヴォルテン王国まで飛ぶのは全然いいっすよ。お嬢は船ダメだしねえ]
「おい行かないとは言ってないだろ?行くよ俺様も」
「………僕も行く………」
「二、三日は留守にするって言ってますから、せっかくだしヴォルテン王国の魔物でも狩りますか」
『主様が行くならワタクシもお供します』
「アタシはハルカと一緒に行くわよ、ほっとけないし」
クラインが溜め息をつきながら、
「………なんで誘拐犯の手助けせにゃならんのやら………ハルカがこれ以上無謀な真似に走らないよう俺も行く」
と、イアン達を睨んだ。
クロノスの話だとヴォルテン王国まで飛ぶのは二時間程度で行けるらしい。
騎士団の人たちはそのまま縄を解いて、ボリスを連れて船でヴォルテンに向かってもらう。
ボリスはクロノスに運んでもらうのは頑なに拒否したので、イアンだけ移動籠に乗って貰う事にして、ハルカ達はヴォルテン王国へ向けて出発したのだった。
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