上 下
96 / 144
連載

そいつぁ一大事でい。

しおりを挟む
 片っ端から王国内の各孤児院を周り、マニュアル片手にスパルタ式にびしびし鍛えさせて頂いた子供達(怪我したら大変ですからね)ですが、やはり苦労人な子達のためか粘りが違います。よう頑張ります。

 お陰様で予想よりスムーズに全ての孤児院が屋台の開店にこぎ着けました。
 ぱちぱちぱちぱちぱちぱち。


 2週間経った現在。


「そこのカップルさん、フライドポテトどうっすかー?
 彼女から『あーん』とかされてみたくないお兄さん?」

「うちのコロッケは子供にも大人にも大人気ですよ奥さん!夜ご飯のおかずに困ったらどうですか?またマーミヤ商会のソースかけて食べるともう激ウマですよ。ご飯が何杯でもいけちゃうからホント」

「ダンナさんダンナさん、奥さまに芋羊羮お土産にいかがですか?
 マーミヤ商会直伝の上品な甘味で美味しいですよ~♪こんな紳士なダンナさんなら奥さまも上品な淑女でしょうから、ぴったりじゃないですか、是非一度召し上がって頂きたいです!」


 ………うん、子供達は私より売るのが上手です。わんさか売れてます。
 ハルカは糸目になり頷いた。


 お姉さん何も言うことないです。


 リンダーベルの屋台車の様子を見に行ったら、スライサーの使用や揚げ物もちゃんと小さな子がいない状態でやってるし、近くの井戸水くんでマメに手洗いしたり、食材洗ったりと衛生的にも問題なし。

 他のとこも抜き打ちで視察(かな?)したけど、特に問題なかった。

 料金も全て10ドラン(100円)と安く統一してますからね、売れて貰わないと困るところだったけど、予想通りみんなイモ系好きな人は多かった。

 安くて美味い、これはハルカの前世からの基本ポリシーである。高くて美味しいのは当然なんだもの。

 それに、高くしたら如何に美味しいモノであろうが頻繁に買いには来られない。

 孤児院の収入アップのために、そして子供達のモチベーションアップのために、商品は回転率を上げた方がいいのだ。

 原価は、ぶっちゃけ袋とか食材、調味料の経費併せても1つ平均10円位なんで、売れれば売れるだけボロ儲けなんだけど、一応アイデア商品なんであまり安くしてもね。
 周りとの兼ね合いもございますし。


 市場や商店街の皆さんは、孤児院の子達が売るのに元々好意的だったので、受け入れ体制も万全である。

 特に八百屋はイモがやたら売れるので大喜びだし、雑貨屋も袋や紙ナプキンなどが大量に卸せて御の字、と地域の店にも貢献が少しは出来ているのも大きい。

 そして、やはり地域ごとに限定品を置いたのも良かったようだ。

 冒険者や商売で出歩く人たちが、

「あれ?これは地元では売ってないぞ」

 とお土産と話題づくりもあるのか結構多めに購入してくれるようだ。1人が5個10個とまとめて買ってくれるのは、単価が安いので尚更ありがたい話である。


「評判もいいようだし、順調な滑り出しだな」

 少し店の様子を一緒に見ていたクラインがハルカに話しかけてきた。

「毎日のように買いにくる常連さんも結構いるみたいよ」

「アタシも買ってきたわ~♪」

 ミリアンがポテトチップスを手に戻ってきた。

「このパリパリ感がたまらないわよねえ。毎日食べてたら太りそうだけど」

「油使ってるしね。でも仕事忙しいからむしろミリアンが痩せてきて心配だよ私。もっとバイトさん達に任せて指示出す方に回っても………」

 ハルカが不安げにミリアンを見るが、

「止めてよ、デスクワークメインの時はむしろ見えないところにお肉がついてたから今は身軽に動きやすいし丁度いいのよ。
 それに、お客さんが美味しそうな顔してご飯を食べてるの見ると嬉しいのよー。アタシからこんな楽しい仕事取り上げないでぇ~」

「そ、そうなの?疲れたら遠慮なく言ってね?チチまで痩せたら申し訳ないし」

「あんたはチチの心配しかしてないでしょ」

「そんなことないって。ただ、いいチチは魅力的だし維持したい訳でね……」

「こらそこの二人、若い女がチッ、チチとか男の前で連呼するな」

 クラインが顔を赤らめてたしなめた。


「……あらご免なさい。ついガールズトークに熱が入ったわ。
 まあ、チチ云々じゃなく、確かに少し痩せたせいか、普段着のスカートがゆるゆるで困ってるのよね。洋服屋で新しいの何着か上着も含めて買いたいな、とは思ってるんだけど」

「あー、それなら私も行く。ちょっと傷みが来てる服が増えたし。少ないのぐるぐる使い回してたからしょうがないけど」

「あら珍しい。じゃクライン、今日は二人とも、もう店に戻らないから皆に言っといてくれる?賄いは………適当に冷蔵庫の使っていいって」

「分かった。だが二人で平気か?もうすぐ夕方になるから、女性だけだと無用心だろ?」

 ミリアンがハルカと腕を組み歩き出したところで振り返り、

「忘れてる?アタシ達は元S級と元A級冒険者よ?酔っ払いとかに絡まれても、むしろ相手がボコボコになるわよ」

 笑いながら手をヒラヒラ振った。

「………まあ、そう言われればそうか。
 じゃ、また後でな」

 クラインは頼まれていた食材を調達しに市場に戻っていった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「なあクライン」

「なんだプル」

「ハルカ達は何時ごろ戻るって言ってた?」

「聞いてない。ただ洋服見て、気に入ったのがあれば買ってくると言ってただけだから、そんなに長時間かかるような話はしてなかったぞ」


 店で働いていた面々も戻ってきて、風呂も済ませた夜8時過ぎ。
 普段なら晩ごはんを食べてる頃合いである。
 キッチンの保管庫にも食材や調味料はあるし、冷蔵庫にも生鮮食品はあるので、何か作るのは簡単だが、ハルカが作った方が美味しいので、みんな空腹だが手を出さなかった。

 それに、食事の支度はハルカ、後片付けはクライン達、という暗黙のルールが出来上がっていたせいもある。

 もう帰ってくるであろう、そろそろ戻るであろう、と思っていたからでもある。


「………乗り合い馬車が見つからないのかな」

 テンが呟いた。普段ハルカがこんな遅くまで外に出掛けてる事がないので不安を覚えているようだ。

「店のそばに置いてたうちの馬車、俺達が帰るとき使っちゃったしな」


「………ちょっと心配だ。元冒険者とはいえやはり女性だしな。………俺が少し町の方に戻りながら様子を見てくる」

「あ、クライン、僕も行くよ。夜道は一人は危険だからね」

 ケルヴィンも立ち上がり、さて馬車の方へ歩き出そうとした時、物凄い勢いで扉をドンドン叩く音が聞こえた。

 トラが扉を開けると、リンダーベル孤児院のトラを最初タヌキ呼ばわりした少年が立っていた。


「ハッ、ハルカさんが、ハルカさんが何か変な集団に襲われて、ミリアンさんも、い、一緒に連れてかれるとこ、を、見まし た………!!」


 孤児院の馬を必死に走らせてきたのだろう、疲れで息の上がった少年は、とんでもない爆弾発言を投げつけてきた。




しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。