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でかい話はゆるやかに。

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 さて。

 よく分からないヤラセじみた料理コンテストも終わり。

 優勝して無駄に私の知名度も上がったことで、良かった事が1つだけあった。

【お願い事が通りやすくなった】

 この事である。




 私には、生活が落ち着いてからずっと考えていた、

『自分と同じように親がいない子たちに何かしら出来ないか』

 という願いがあった。

 自分がそうだったので、何かせずにはいられないのだ。
 色々大変なんだよ、天涯孤独になると。
 少しでもいい事があれば、その先の人生ちょっとは頑張れると思うし。


 クラインに聞いたら各町に1つは孤児院があるとのこと。国営である。お世話は教会のシスター達が協力してくれているようだ。

 私立というか個人で小規模にやっている人もいるようだが、流石に把握仕切れないとのこと。でしょうねぇ。

 なんだ、国王様やるときはやるのね。

 ただ、冒険者や旅の商人の不慮の事故や、親の病気など、ここ10年ばかりは
身寄りのない子供たちが増える一方で、父上の溜め息が辛いとクラインが頭を悩ませていた。

 当然ながら、国庫も無尽蔵ではないからだ。

 サウザーリンは農業国なので魔石とか高級感溢れる陶器を扱う国と比べると、収入も莫大と言うこともなく。
 増えてゆく支出に、なかなか増えない収入。

 騎士団の装備もなかなか新品を揃えられないそうで、意外と貧乏国家であることが判明した。有事の際は大丈夫なんだろうか。


 孤児院にいる子供たちは、12、3才になったら下働きなどをして孤児院にお金を入れるようになるそうだが、シスター達は18になると独り立ちをして自分で食べていかねばならない子供たちの為に、せっせと全額貯金して、旅立ちの日に渡してしまうので、孤児院の副収入とはなり得ない。

 せいぜい定期的にバザーを開いて町の人にハンドメイドの枕カバーだのハンカチだのを売ったり、子供たちの作った籠を売ったりが収入とは言えるが、微々たるものである。食べ盛りの子供たちを山ほど抱えてるのに、足りる訳がない。

 赤字の穴埋めでシスター達が別途繕い物だの内職をしないと、たまのお菓子も用意できないのでは、子供も大人も切なすぎるよねえ。


「うーん、いま最も重要なのは雇用の創出による孤児院の収益増加と、国庫の増大化ですか………いやはやこれはまた22の乙女には無理難題を仰いますのぅ………」


 自宅の庭に設置されたセレブゾーンで、糸目になりながら、トラちゃんの入れたブレンド茶葉の美味しい紅茶を飲みながら、私は首をひねっていた。


 ちなみにセレブゾーンというのは、貴族様が「おほほほほイヤだわ奥さま」とティータイムを楽しんでそうな、白木の椅子とテーブルが置かれた私のくつろぎエリアである。日差しを避けるでかいパラソルまでついている。

 のどかな景色と八兵衛や弥七たち(馬)が草を食んでいるとこを眺めていると、ささいなことはどうでもよくなるほど穏やかな気持ちになる。

 最初は、「そんな金持ちがやるような贅沢三昧を私ごときがするなど、神をも恐れぬ所業ではないですかっ!」と怯えていたのだが、『オメエは金持ちだろうが!!』の総突っ込みで「あ、なるほど」と思い設置に至った訳であるが、作って本当に良かったと今では思う。


「………いや、別にハルカがどうにかしなきゃならない問題ではないだろう?」

 いつの間にか、隣の椅子に腰かけてトラにココアを頼んでいたプルちゃんが呆れた顔をしていた。
 ラウールも足元に伏せてアクビをしていた。

 近頃プルちゃんはラウールを足変わりにして移動しているが、あまり年寄りをこきつかうのは良くない気がする。後でこっそり注意しておこう。

「………おや、盗み聞きはいけないなプルちゃん」

「いや、むしろあのでかい独り言を盗み聞きと言い切るハルカの方が怖いわ」



 テーブルの上に載っていたスイートポテトを摘まむとぽろんぽろんと下のラウールに落とす。
 いつの間にかラウールが仰向けになって口を開けてるので、ダイレクトにスイートポテトがダイブしている。
 ずぼらにも程がある。

 むしろ、ラウールをこきつかっていると言うより、プルちゃんがラウールの面倒を見ている。
 聖獣のクセに楽をすんなジー様。
 済まないねプルちゃん誤解して。


「いやぁ、そうは言ってもよ?なんだかんだこの国にはお世話になってるし、儲けさせて戴いてるし、これからも追い出されない限りは死ぬまでここに住む予定だから、少しは役立つ事を考えたいじゃない」

「いや、美味いもの作ってたり調味料開発して売ってるじゃんか」

「それはほれ、スタートが己の願望だから。美味いもの食べたい、みんなも美味しいもの食べたいよね、調味料あると便利だよね、って言う自分勝手な欲であって、別に国のためにどうこうとか一切考えてなかったから。結果的に仕事になっただけだし」

「そう言われりゃそうか。
 ………だったらどうすんだ?」

「うーん、今考えてるのもやっぱり食べ物なんだけどね」

 日本では、『××さん家の特製ソース』だの『修道院の手作りクッキー』『スーさんのパリパリ漬物』など、普通の大手メーカーの名前を冠さない個性派の食品が人気があった。
 孤児院でもそこでしか買えない食べ物を売るのはどうだろう。

 美味しければ、町の人もバザーなど関係なく定期的に買ってくれる筈である。
 1種類だと難しいかも知れないが、何品かあれば、それだけ売り上げも上がって運営の足しになると思うんですよねえ。

 だって、この国で安く入手出来るのは、野菜や果物、いわゆる国の根幹事業だし、食べ物が一番手っ取り早いんだもん。

 ………食べ物の事以外は全然思いつかないという事じゃないんですよ。本当ですよ。

「ふーん。メニューはどうすんだ?」

「イモ三昧にしようかと。原価安いし」

 ジャガーモ、サトーモ、サツマーモ。
 芋系は市場でもとても安い。
 家庭でも普通に使われているので馴染みもいい。
 安い素材で美味しく作って売るのが基本だ。

「イモか、………悪くないな。あまりイモが嫌いだ、って人も少ないしな」

「でしょ?でね、幾つか売り物としていけそうなのを作って試食をしてもらうのよ、孤児院の子たちとシスターに。
 なんなら、今の知名度なら【マーミヤ商会オススメ!】とか【ハルカのイチオシ!】とか適当に使ってくれればいいし。
 割りと売れると思うのよね、最近町の人も舌が肥えてきたから」

「………ああなるほど!!そんで子供たちにも作成と売り子をさせる訳か。他で仕事探さなくてもいいように」

「ピンポーン。市場とかで売るための移動屋台みたいなのは、大した金額でもないし私が用意すればいいし。
 今クロちゃんもいるから移動も時間かからないしね」

 馬車だと3日かかる町とかでもそんなスピード上げなくても数十分とかで行けるだろうし。
 
「よし、そうと決まればメニューと孤児院に連絡して都合聞かないと。クラインにも働いて貰おうかな」

 おっしごとおっしごと楽しいな~♪

 鼻歌まじりにいそいそと家に戻るハルカにラウールに乗ってついて来たプルちゃんだったが、ラウールとひそひそと

「……なんか俺様もまた働かされる感がぱないんだが」

《うむ。頑張るがよいぞ。ワシは飯の魔物取る位しか出来ぬでな》

「俺様、女神に仕えてる神聖な妖精って忘れてねえかハルカ」

《………まあ神聖な妖精は腹出して寝たりとかどんぶり飯食ったりとか聖獣を足がわりにはせんと思うがの》

「………腹出して寝てたか俺様?うわー恥ずかしいなー」

《まず食いつくとこそこか?まぁいいがの。ところでさっきのイモ美味かったの》

「お前も聖獣としての行動に疑問しか見えないがな」

 と、どっちもどっちみたいな言い争いを続けるのだった。







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