上 下
89 / 144
連載

料理コンテスト【2】

しおりを挟む
 いや、頑張ってはいたのだ。


 本当にみんな、精一杯戦ったと思う。


 砂糖ではなく果汁を甘味付けに使うとか「おっ」とするような味つけもあった。



 でも、まだまだ調味料使うようになって1年位だと、物心ついた時から料理してた私とはやはり経験値が『大人と子供』だったのである。


 ………決勝戦する意味なくね?


 という位に、一般審査員も審査員も、参加してる料理人も、嬉しそうに私の料理を食べるのを楽しみに並ばれると、流石に心苦しい。
 いや、美味しそうに食べてくれるのは本当に嬉しいんだけどね。
 料理人はもっとこう、ライバル心むき出しで来るものではなかろうか。


 なんか、ミリアンと糸目になりながらただ黙々と出来た料理を小分けする作業をしつつ、「何だかなぁ」と思ってしまった。

 熱いドラマ的なものを期待した私がいけなかったのか。



 決勝戦には、フードはオムライス、スイーツは芋けんぴ、パーティー料理にはクロカンブッシュ(小さなシュークリームをタワー状にして細かい飴をシャシャっと浴びせるアレ。)とラザニアを出した。

 主に最近発売したトマトソースとケチャップ、発売を考えてるイモ関連を出したかっただけである。

 この商売への飽くなきチャレンジ。

 というか簡単にご家庭で作れるから買ってね、というこまめな宣伝でもある。
 そう、私はマーミヤ商会の代表。みんなを養う義務があるのである。

 自分だけならもっと楽なんだけど、大変だから頑張れる部分もある。

 大学で経済とかもさらっと学んだが、実際に自分が経営者として動く将来なんか考えたこともなかった。
 単位を取るための適当な学びかたではなく、もっと真面目にやれば良かったとは思うが、実践に勝るものなし。
 意外となんとかなるもんだ。

 いや、多分この世界だから物珍しい調味料と言う武器を持てているだけなのだが、この国だって美味しいものが食べられてハッピー、私も生活出来てハッピー、バイトさんや身内も仕事あって給料貰えてハッピー、とみんな困ることはないのだから良かろう。

 しかし未だに「店長」「会長」呼びに慣れないのは、魂が根っからの庶民なのであろう。


 まあ、そんなことも考えつつ、呑気に試合も終わり、ぶっちぎりの得票で私がトリプル優勝したのは、第一回だからでもあろう。
 二回目とか参加する気は勿論ない。


 後は、どんどん皆さんが工夫してご飯を美味しくしてくれて、どこで食べても美味いものが食べられるようになれば、私は調味料開発とパティスリーに力を入れてご飯ゾーンからは抜けて人にお任せだ。

 スイーツは正直いって、当分先にならないと私と競えるレベルにはならないと思う。
 だって一番スタンダードな生クリームを使ったお菓子すらもうちにしかないのだから。10年はかかるかも知れない。和菓子までとなるとまた更に先かも知れない。
 パティスリーの引退はかなり先の見通しだが、お菓子作るのは元々趣味なのでいいのだ。

 

「いや、本当にどの町の店の権利もいらないのか?土地とかもあるのだぞ?」

 ザック国王が、優勝した私にトロフィーを渡す時に不思議そうに尋ねた。

「いやもう若輩者ですから今の店だけで手一杯でございます。
 せいぜい後はワガシの店を考えてる位ですし、出すなら商会で買えますし。
 ただ、できたらでいいんですがお願いがありまして」

「なんだ?大概のことは聞くぞ。無理して出てもらったからな」

「肉、魚、野菜、果物などをどーんと戴けませんか?それで孤児院の子供とか無料招待して祭りをやろうと思いますので」

 そう。美味しいものを子供のうちから食べないといい舌は育たない。

 孤児院は経費も限られているし、そんなに贅沢なものも食べられないだろう。

 うちのレストランも日本円で5~600円前後の安い店だし、パティスリーも2、300円位だが(材料費がスイーツ以外は現物を調達するものが多いのでこれでも利益は出るのだ)、小遣いもろくにない子供たちには高嶺の花であろう。

 私のお金でどうにかするのも問題ないくらいは稼いでいるが、どうせなら迷惑料として食材ぐらい国からもらってもバチは当たるまい。

「なんだ、そんなことでいいなら喜んで手配しよう」

「それと、もう王様権限で勝手にこういうイベントに参加させないことも併せてお願いします」

「分かった分かった、クラインからも釘を刺されたから心配するな。悪かった」

 国王は苦笑して頭を下げた。

 一商人に頭を下げて過ちを認める王様は、決して悪い人ではないと私は思う。

 ただ、

「あのっ、申し訳ないですが、周りへの影響もあるので頭は下げないで下さい!ほんと困りますから」

 空気を読んで欲しい。

 周りが既にザワザワしているじゃないですか。国王に頭を下げさせる商人てレッテルつけるのはやめて下さい。

「ああ、そうか。済まないな」

 周りの気配をようやく察知した国王は、違うよ頭は下げてないし落ちているゴミを目障りだから拾って取り除いてただけだし、という苦しい演技をして何とかザワザワが収まった。

「ああゴミを拾われたのか。驚いた」
「メイドたちは何をしているのか」
「全くだ。ちゃんと指導しなくては」

 などと声が聞こえる。

 ごめんねメイドさん、アナタ達は悪くない。悪いの国王様だからね。恨むなら国王様を恨んでね。

「ところで」

 小声でハルカを手招きした。

「はい、何でしょうか?」

「ラザニアとオムライスはいつ頃店に出すのかな?かなり私のお気に入りなのだが。王妃は大学イモと言うのがいたく気に入っていたのでそれも」

「はぁ、来月中には………ってまた販売する頃に来られるのですか?」

「行かないと食べられぬだろう」

「………なんならこちらへ呼んで頂けたらお作りしますけども」

「ダメだ。商売人の仕事をおろそかにさせたくないからな。食べたければ行かないと。それに食事をしながら民と語れるいい機会なのだ」


 国王様が来る方がバイトさん達が動揺して仕事がおろそかになるので困るんですが、とはちょっと言いづらいので、


「………それでは販売が決まりましたらクライン様にお伝えしておきます」

 と述べるにとどめた。


 
 さあ、食材もたーんと貰えるみたいだし、後はこの国の孤児院がいくつあるのか調べて、日程の調整と何が喜ばれるかの調査かな。定期的にやるには月の何日、って決めた方がいいかなあ。
 やっぱり祈りの日だよね、平日は仕事あるし。
 いやそれより手伝ってくれる人が何人いるかだよねぇ。うーん。


 ミリアンと相談しつつの帰り道、私は頭を悩ませるのだった。






しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。