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【閑話】国王の思い。

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「………ダーリンたら、いいの?あんな憎まれ口をきいちゃって」

「構わないさ。実際、ハルカの新作が食べたいのは本当だしな」

 ザックはクラインの歩いていった先を眺めていた。


 ハルカは、恐らく転生者だろう。

 クラインは必死に隠そうとしてるんだろうが、まだまだ人生の経験値が足りない。私もだてに年食ってる訳じゃない。


 王族にしか立ち入れない古い書庫の書物に書いてあった特徴とも一致する。

 黒い髪に異国風の顔立ち、通常では持ち得ない特殊な能力、書物にはチート能力と書いてあったが、それを持っているらしい。
 戦闘能力は解らないが冒険者でA級だったと聞いている。
 ただ転生者ならS級が当然だろうから、彼女の場合おそらく勇者などと違い戦闘ではなくチート能力は料理特化とか言うものなのであろう。

 ………そんな特化があるのは書物にも無かったので、かなり珍しいタイプなのだろう。


 ただ、珍しいからこそ目立つ。
 ものすごく目立つのだ。


 それこそ他国から偵察隊がのべつまくなしにやって来る程には。


 勿論、本人に悪気はないのは分かっている。
 あののほほーんとしたゆるゆるしたお気楽顔見てれば明らかだし、大人しく生きていきたいのだろう、イベントなどには極力参加したくないのも挙動不審気味の回避行動に現れている。

 だが、調味料を生み出し、今まで味わった事もないような美食やスイーツをしれっと販売したりすれば、旅人や商人、通りすがりの他国の住民の言の葉に乗らずにはいられないのだ。

 それは流れ流れて権力者の耳にも入る。

 我が国に住んでいる国民であり、尚且つ王国でも現在資金力含めトップレベルの大手商会のオーナーということで、話を通すために国王である私に対して、ハルカの国への招聘許可願いもレイジス王国とヴォルテン王国からも来ている。
 ガルバン帝国からは再度の招聘許可願いである。

 初めのガルバンの時には『本人がいいと言えば』と答えてしまったが、軽率だった。
 皇帝陛下がまだマトモだったからいいが、妃だの側室だの言い出したら戻れなくなる可能性もあった。
 あー危ない危ない。
(実は実際に言われてるが、逃げ切ったのでザックが知らないだけである)


「まぁ、ドラゴンで空を往き来しちゃったらなぁ………」

 もう、目立つとかそんなレベルじゃないもんなぁ。ドラゴンを移動の足に使う商人なんて何処にいるんだ。

 あれで大人しく生きてるつもりなのが異世界から来てる人間ならではである。
 普通の飼い犬の振りしてる聖獣とか魔族っぽいのもいるしな。異常に動きの機敏な丸まっちいネコ的な何かとか、人外がゴロゴロしてるし。


 別にザックは、ハルカをこの国でどうしても抱え込みたい訳ではない。ハルカ本人が行きたいとこに根を下ろすならそれもいいと思う。

 まあ、食事とスイーツに関しては住んでるとこに買いに行けるといいので出来れば近いとこがいいんだけどなー、程度の願望はある。クラインももう少し強気で押せよとは考えるが、それも息子自身の話である。親が出ていくなんて情けない事はしたくない。自分が出たら、親のお願いではなく単なる権力者のごり押しになるからだ。一応現時点でこの国の最高権力者ではあるし。

 それに、ハルカは自由にさせとくのが最適解だと己の本能が告げている。


 ………ただ、自分のところはそれでもいいが、他国が同様に考えてるとは思わない。
 いくらでも利用価値はあるのだ。
 下手したら招聘許可出したらそのまま行ったきり拉致監禁コースという可能性も低くない。

「こちらの国が気に入ったようで住みたいと仰ってます」

 などと言われたら、証拠がない限り手も出せないのだ。


 だから、他国への対応を考える時間を稼ぐために『料理コンテスト』などとイベントを考え、「ハルカも参加者なので時期的に今は手が空かない」なども苦しい言い訳で逃げてるところなのである。

 ハルカには勝手に参加者に連ねてしまって申し訳ないとは思うが、転生者だというのを知らない振りして手助けするのもこれで結構大変なので、若干の不自由は許して欲しいものだ。

 なんで転生者であるハルカに心を砕くかと言えば、クラインも知らないがザックの大好きだった大祖母、三代前の王妃が転生者だったからだ。

 でも、ひいばあちゃんは全く料理は出来なかった。その代わりメチャメチャ強かった。ザックが16の時に亡くなったが、それまで1度も剣でも槍でも勝てた事はなかった。

最後に試合をした時点で80才近かった筈だが、こちらが膝をついた時にも息も切らせず仁王立ちしてまだまだだねぇと笑い、それからこっそり転生者であることを教えてくれたのだ。
 髪の毛が綺麗に真っ白になってたから考えもしてなかったが、年取れば白くなるんだよな。

「私はね、向こうで結構な貧乏な家の子だったんだけどねぇ、火事で逃げ遅れたおじいちゃん助けて、自分がうっかり死んじゃったのよ。そしたら気がついたらこの国の森の中にいてね」

「そばにいた妖精だとかいうちんまい子供が、別の世界に転生させたと言ってさ、
『人助けをしてるので2つ願いを叶えてやる。ただし元の国へ帰るのとかは無理』
 とか言われてね。
 いやまー死んだもんはしょうがないよね。本当に貧乏だったし、生き返っても家族の食いぶち増えるだけだからさ、こっちで第二の人生楽しませて貰えるだけめっけもんかと思ってさ。
 「一人でも生き抜ける強さ」と「ご飯に困らない生活」をお願いしたら、どんな武器でも大抵使いこなせちゃうし、男にも負けないレベルだったから冒険者でS級まで行ったし、収入もあってご飯に困らない生活になったから、あー良かったなー、と思ってたのよ。この国ご飯の味は物足りないけど、食べられれば良かったし。
 そしたら王宮の依頼とかもこなしてるうちに、あんたの大祖父、ま、ひいじいちゃんがね、強くて惚れ惚れするとか、か弱い女性であることを前面に出さない人は潔くて気持ちいいとか見初めてくれて。
 いやぁあの人も随分変わってたわー。普通自分より強い女とか嫌だよね?
 悪いけど貴族っぽい上品さなんて欠片もないし、気疲れする王族なんて嫌ですって何度も断ったんだけどね。だんだんほだされて。で今に至るって訳なのよ」
 
 ひいばあちゃんは照れ臭そうにアッハッハ、と笑い、でも内緒ね、転生者だってのはバレると色々周りに利用されたりするからね、とザックに念押しした。
 ただの遠くの小国から来た田舎者で通していた方が楽に生きられるし。まあ自分が出ることで助けられる人はつい助けたりもしたけど、これも前世の本能みたいなもんでさ、しょうがないよ体が勝手に動いちゃうんだもん、と呑気に笑みを浮かべた。

「だからねザック、あなたが大人になって、国王になってから、もし転生者が現れたら、出来る限り力になってあげてくれるかい?私とは血縁者じゃないだろうけど、同じ故郷の身内みたいなもんだから」

 ザックの頭を撫でながらそう言ったひいばあちゃんは、それから1ヶ月もしないうちに、お忍びで遊びに行ってたピノの町で魔物に襲われてた若い商人を助けたのが原因で命を落とした。魔物に噛まれたところから毒が回ったらしい。

 枕元で鼻水垂らして泣いていたザックに、

「バカだね、年食ってるんだから遅かれ早かれ死ぬんだよ。この年でまだ誰かを助けられたなんてラッキーだよ。
 うまくいきゃまたうっかり転生出来るかも知れないから泣きなさんな」

 とベッドから手をだし、ザックの髪をクシャッ、とかき回した。
 それから2日もしないうちに息を引き取ったが、のんきでお気楽顔で、豪快な人であった。そしてやたらお人好しであった。

 ハルカがひいばあちゃんの生まれ変わりとはさすがに思わないが、基本性格的に似たような人が転生するんだなと実感した。

 ハルカもお人好しで、能天気で、よくも悪くも面倒事に巻き込まれるタイプだ。


 ひいじいちゃんのように頑張って口説き落とせたら、クラインにひいばあちゃんの話をしてやろうと思っているのだが、あの押しの弱さでは当分なんともならんだろう。

 ザックは溜め息がこぼれた。


 取り敢えず、なんかいい方法ねえかなぁ。

 ………まあ、まだ少し時間はあるし、ひとまず飯食ってスイーツ食べるか。腹が減っては戦が出来ぬというし。

 アゼリアと食事を再開しながらザックはお茶をもらうために離れたところで控えているメイドを呼ぶためベルを鳴らすのであった。



 この王族は、血筋にお気楽とお人好し成分がほんのり受け継がれている。




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