異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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肉フェスは大成功の模様。

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『本日のゲストとして、今調味料やレストラン、パティスリーなどでホットな話題を提供しているマーミヤ商会代表、ハルカさんが美味しい料理のレッスンに来て下さいましたあぁ~』

「「「ワアァァァ」」」

 パチパチパチパチパチパチ。


 広場の目立つ場所に設けられた、料理も出来るように配置されたキッチンつき屋台の前に、私は押し出されていた。


 ………なんだろうかこの辱しめは。


 もっと、こぢんまりとウフフアハハのマダムの料理教室を想定していた私には、かなりのアップグレードな舞台である。
 居たたまれない。ただひたすら帰りたい。

 その上、この国の人間だとやりづらいだろうとクラインが司会までかって出てくれた。

 それに、なんで台所を預かるマダーム方以外に料理人とおぼしき人や子供やお年寄りまでメモを片手に集まっているのですか。そんなメモを取るような難しい事は教えられないんですけども。


『えー、今回は、今売られているホワイトシチューと、何にでも合うタルタルソース、そして皆さんが大変興味を持たれているクッキーについての簡単なレシピと言うことで宜しいでしょうか、ハルカさん?』

「え、ええ、まぁ」


 パチパチパチパチパチパチ。


 期待値MAXのキラキラ輝く目はやめて欲しいんですが。それほどのモノじゃないんですよあてくし。

 しかし、期待されると昔から必要以上に頑張らねばと思ってしまう自分もいる。
 よし、旅の恥はかきすてだ。

 私は女優。私は女優。私は女優。


「皆さまー、ホワイトシチュー食べた方はどのくらいいらっしゃいますかー?挙手をお願いしまーす」

 ほぼ全員手を挙げてますね。
 そうですか。

「もし美味しかったと思われた方は、自宅で簡単に作れるホワイトシチューを今からご説明致しますので、家族団らんに一花添えて下さいねー」

「「「「はーーーい!!」」」」


 ………といっても、小麦粉をバターで焦がさないよう炒め、ミルクを少しずつ注ぎ入れてダマにならないよう延ばして水を足して、好きな野菜や肉を入れて、好みの味まで塩を適宜入れて煮ていくだけなんだけど、そんな説明でもみんな「なるほどねぇ、小麦粉とバターがポイントか」などとメモを取っている。

「これは、ご飯もいいですが、塩パンなどにバッチリですからパン食の時にもお薦めでーす」

 ワアァァァァァ。
 パチパチパチパチパチパチパチパチ。

『いやいや、流石に食に関しては熱い思い入れをお持ちですねハルカさん。
 ところで、タルタルソースというのは本日屋台ではありませんでしたよね?』

 クラインは、とても王族とは思えない軽やかなトークで、うまいこと話の流れを変えてゆく。

「そうなんですよ!これはですね、揚げ物に抜群の相性を持つソースでして………」

 アイテムボックスにドードー鳥の唐揚げがたんとある。

「これもかーんたん、マーミヤ商会で扱うマヨネーズと言う調味料に、こうやって、ゆで卵をザクザク細かくして混ぜるだけです!
 お好みで追加してタマネーギを細かくして混ぜたり、キューリのピクルス細かくして混ぜたりと、ご家庭のお好みで味が少しずつ変わるので、我が家の味と言うのを皆さまに作って頂ければと思いまーす」

 でかいボウルに山ほど作ったタルタルソースの横に、これまた山ほどあるドードー鳥の唐揚げをアイテムボックスから引っ張り出す。

 ちょっとここにいる人達全部に1つずつは難しいので、1つを半分にカットする。

「はーい、そこのボク、ドードー鳥は好き?」

 一番前でガン見してヨダレをぬぐっていた小学生くらいの子供に声をかけた。

「………え、オレ?勿論大好きだよ!」

 楊枝に刺したタルタルソース付け唐揚げを手渡す。

「食べてみて」

「えっいいの?ありがと!」

 パクっ。

「………うわ、今までの唐揚げとは別物だ………うっめぇーーーー!!」

 サクラかと思うほどの気持ちのいい返しが来て、少しホッとした。

「はーい、今からサムラーイがお皿を持って回りますから、1つずつお取り下さいねー。是非味わって下さーい」

 相変わらず変身を解除してないプルちゃんに協力させて、周囲のお客さんに配ってもらう。

「美味いなこれ!母ちゃん家でもやってくれよ、簡単じゃん」
「貴方、気に入ったみたいね。帰りにマヨネーズ買っていきましょう」
「やーんもっと食べたいよー」
「酒のツマミにしてぇなぁおい」

 概ね好評価である。
 新商品なので営業にもなったのならありがたい。

『………もぐもぐ。いややっぱりタルタルソースは素晴らしいですね。これはパン粉付けて揚げるフライとかにも合いますねー』

「そうなんです!特に海鮮類なんか最高ですよ~エビフライとかキャキフライとか」

 お客さんもモヤモヤ~っと食べる自分を想像したのか、ヨダレを拭うおっさんや子供達もいた。


『フライには確かマーミヤ商会さんでソースもありますね。アレとダブルで使うのも良いのではないですか?』

 営業上手だなこの王族。

「はーい、オーク肉のフライなんかには普通のソースが合うかも知れませんねぇ。ダブルでなんてとても贅沢ですが、素敵ですねぇ」

 などと、揚げ物トークで場を繋いでると、唐揚げも配り終わったようでサムラーイが戻ってきた。

『はい、そろそろいいお時間のようなので、最後にクッキーですね。この国はなかなか風光明媚で素晴らしいところですが、ちょっと甘味系は残念なところもありますねぇ』

「まあ好みですから人それぞれあると思いますが、私はただ甘ければいいというのは体にもあまり宜しくないと思うんですよね。特に若いお嬢様には、スタイルを保ちたいと言う切なる願いがありますからね」

 若い女性が力強く頷いてるのが見えた。

「さて、そこでマーミヤ商会の開発した、ほどよい甘さの粉菓子、クッキー!
 いくらお肉は増やしたくなくても、全然甘くなければそんなのスイーツとは呼べませんからね!
 これはアーモンドやココアなど、お好きなモノを混ぜこんで平たく延ばしてパン釜などで焼くだけ!材料は小麦粉と砂糖、バターだけで充分なのです!これもご家庭のそれぞれの好みに合わせて作ると少し甘め、とか甘さ控えめ、とか色々工夫出来ますよ~♪食感も軽く混ぜるとざっくりした感覚に、よぉく混ぜるとしっとりした感じのクッキーになります」

 ダンッ、と前に置かれたテーブルに手をついた私は、「そしてっ!!」と続けた。

「恋人や好きな人がいるお嬢様、平たく延ばした生地を星型やハート型にくり抜いて焼けば、心を込めて愛しい人に贈る素敵なプレゼントになります。自分のオリジナル、世界にたった1つ!美味しい上に愛まで伝えられるという一石二鳥の素晴らしいお菓子になるのです!」

 顔を赤らめた若いお嬢様から妙齢の女性まで、熱狂的な拍手が送られた。
 ラブの伝道師みたいに思われているのだろうか。

 しかしまさかいってる本人がそんなもの作ったことも贈ったこともないとは思わないだろう。

「見本としてハート型のクッキー作りましたので、こちらも1つずつですがサムラーイに配ってもらいますので受け取ってからお帰り下さいましー。
 本日はありがとうございました~♪」


 ミリアンのアグレッシブな会話パターンを真似てみたが、どうやら大きな失敗もなく終わることが出来たようだ。
 皆さん嬉しそうにクッキーを受け取り散会して行く。

「………やれやれ。絶対帰るわよ明日には」

 女優モードを終了し、疲れがどっと出た私は、宣言のように呟いた。

「ご苦労様。レモン水飲むか」

 グラスに入れたレモン水をもらい一気に飲み干す。

「ありがとう。本当にクラインてマメよね。よく気がつくし」

 感謝の言葉を述べると、面食らったような顔をしてから、少し顔を赤らめた。

「お、おう、そうだろう。でも……」

 私は戻ってきたプルちゃんが、屋台を回ろうというのに引きずられて、あのあとの


「気がつくのはハルカにだけだ」



 と言う言葉は全く耳に届いていなかった。






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