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エクストリームドライブ【2】
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1つ ひとより ご飯が好きで てれれん♪
2つ ふつうの お肉は要らぬ てれれん♪
3つ みつける 美味しい魔物 てれれん♪
退治てくれよう プル太郎~♪
プルちゃんが般若の面を被った着物姿でふわりふわりと刀で切り刻んでいる。
「てやんでえっ おめえらの悪巧みは
この桜吹雪が見逃さねえぜっ
食らえっサクラハリケーン!!」
クラインはと言えば、桜吹雪が描かれた左肩を露にして、細かい花びら(紙製である)を撒き散らして魔物の視界を奪いつつ止めをさしている。
本当は濡れ手拭いがメイン武器の金さんだが、クラインの
「雷属性の魔物に濡れ手拭いは死亡フラグ。それに乾いたらただのタオル」
と拒否られ、仕方なく日本刀にしたという涙なくして語れない経緯があるのだが、まあそれはどうでもいい。楽しそうで何よりである。
「フォッ フォッ フォッ フォッ
お前らを本日の昼ごはんにしてやろう。ステーキか?それともすき焼きか?」
クロちゃんのハサミから放たれるレーザー光線は最初は命中率が悪かったが、扱いに慣れたのか首を狙っての攻撃がかなりヒットするようになってきた。
メイド服のトラちゃんは、ヘッドドレスをウルトラ●ンセブンのアイ●ラッガーのように投げては的確に足や首をスパンスパン切断している。
自分で作っといてなんだが、どうしてヘッドドレスであんなに素晴らしく切れるのだらう。
えー、現在洞窟の52階層でございます。
朝7時頃からずんたったずんたったと進み、ほぼ50階層までは欲しい肉もないので魔物は瞬殺。
マップを参考に、どうせしょぼい敵しか出ない場所の宝箱なんてカスしかないと全部無視し、ただひたすら階層降りたら次の階層の階段へ進み、降りたらまた次の階層への繰返し。
ほぼ一時間で10階層位のスピードで降り続け、現在お昼の12時を回ったところでございます。
自分のやりたい変身が出るまでポチっていたプルちゃんとクラインは、13回目と7回目にしてようやく新作の桃太●侍と遠山の金●んが出たので、そこで解除せずに固定している。
1度変身するとボタンを押しても5分は戻れないが、解除しなければ3日は持つ。
クロちゃんはバル●ン星人が気に入ったようで、ハサミのような手からレーザー光線のような光魔法を放出して、ダーククロルを首ちょんぱしながら、上手く当たるとシャキーンシャキーンとハサミを動かして喜んでいる。
ええ、控え目に申し上げても無双乱舞中でございます。
私も今回は頑張るつもりで、既に綾波●イにも変身しているのだが、手を出す必要もなくお肉が増えていくので、途中からトラちゃんにカットしてもらったお肉をせっせせっせとアイテムボックスに詰め込んでいくだけになっている。
「たくさん……」
まあ、そろそろ昼ごはん作るつもりだったからいいんだけど。
フロアごとにある【セーフティエリア】は魔物が襲ってこないように国の魔導師が強い結界を張っているので、冒険者が安心して休めるのだ。
とりあえず変身を解除して、と。
「ご飯そろそろ作るから先にセーフティエリア行ってていいかなー?」
「おー、よろしく~♪………おのれ逃がすか小悪党っ!肉を置いてけぇぇ要は死ねえぇぇっ」
みんなも肉を下ろすのは出来るので(トラちゃんが早いだけだ)、トラちゃんを連れてセーフティエリアに移動する。
「さて、まず美味しさを知るには焼いてみないとね」
アイテムボックスからフライパンとハイパー七輪を何個か出す。
何がハイパーか。火力に魔力を使うので煮る、焼くがとても早いのだ。
精霊さんズに相談して、普通の七輪に魔石をはめ込むことで完成、大変簡単です。
まだクロロニアンは出てきてないのでダーククロルの肉だけであるが、シュルツさんがこれも美味しいと言っていた。
薄めにスライスして軽く塩コショウする。いい具合に焼けましたよ、と。
ぱくり。
「………おお、食べたことない感覚。
ベースはイベリコ豚っぽいけど、鶏肉的なあっさり感もある。ジューシーで美味しーい♪その上柔らかーい♪」
思った以上の満足度だ。
さて、何を作ろうか。
洞窟の中は結構冷えるので、温かいものが食べたいな。
「トン汁にするか………」
豚肉の味に近いのでトン汁でいいだろう。
ママリン貝(アサリっぽい奴)の炊き込みご飯もあるし、後はシンプルに肉を焼いてポン酢で頂こうか。
考えてるうちにお腹が空いてきた。
せっせとアイテムボックスからサトーモだのゴボウだのサツマーモだのを取り出して、大きな寸胴も引っ張り出した。
「精霊さんズお水よろ~」
見てる人がいなきゃわざわざ持ってきた飲み水は使いませんよ。
いつ冒険者とかち合うか気が気じゃないけども。今のところここには一組もパーティーはいない。
ハイパー七輪に寸胴を置き、火をつける。野菜を食べやすい大きさに切って放り込んだら、肉も細かくして投入。
わははは、いい出汁が出そう。匂いがたまりません。
大分肉も野菜も火が通ったところで味噌を入れる。
味見の特権が料理人の醍醐味よ。
「………めちゃめちゃ美味しいわ。体もあったまるし。どうするよこの完成度。
ムーアさんも言ってた通り、本当に肉が固くならないなぁ」
もう少し大きめに切ったダーククロルの肉は、薄く塩コショウするだけにする。
その時、ざざざっと飛び込むようにセーフティエリアに入って来た集団がいた。
クライン達ではない。
(初めてかもセーフティエリアで冒険者のパーティーに会うの)
結構ケガをしてる人もいるが、なんか呆然とこちらを見ている。
「………すげえ旨そうな匂いが漂ってくると思ったら、スープだよ。あんなでかい寸胴に七輪までダンジョンに持ち込むとは、大容量の携帯用アイテムボックス持ってるんだなぁ羨ましい。
………くそー、肉の焼ける匂いが空腹にはきついぜ」
「とりあえずコイツの手当てして少し休もうぜ」
「そうだな、しかし腹へった………」
腹ペコのパーティーの前で美味しく頂ける筈がなかろう。おいどんな拷問だ。
別に肉も腐るほどあるし、これも何かの縁。タダでお裾分けするのは構わないのだが、ここまで来るならS級冒険者クラスだろうし、プライドもあるだろう。
恵んでもらったとか傷つかれても困るし。
………うーん。
トラちゃんにコソコソ耳打ちすると、頷いて渡した大きな白い紙と太いマジックでさらさらっと書いて、ぽてぽてと冒険者さん達のところへ歩いていった。
『今だけ!!冒険者慰安!出張マーミヤ食堂 1食20ドラン』
見せた紙をガン見していた若い冒険者の兄さんが1人立ち上がってこちらへ歩いてきた。
「………どこのバッタもん詐欺師かと思ったら、本物のマーミヤ食堂じゃん。
あの、ハルカさんですよね?どうしてこんなとこに?」
聞くと、仕事の関係で行ったブルーシャでうちの移動食堂に来たことがあるそうだ。
「それはそれはありがとうございます。
いや、こちらに仕事があって一時的に来てまして。ついでに魔物が増えたってことで、ダンジョンの討伐の依頼もヘルプで受けたもので」
「そうですか!おーい、みんな、大丈夫だ、本物だ!安全だぞー!!」
たまに、こういう出店的なものを洞窟で出す人間がいるようで、中には悪どいのもいて、睡眠薬入りとかで目覚めたら身ぐるみ剥がされてたという恐ろしい事もあるらしいので、警戒されていたようだ。
お仲間さんが嬉しそうに近寄ってくる。
ちょっと待て。
血だらけの兄さんがほふく前進で来るのは止めて欲しい。
近寄る度に傷が広がるように見えるんですが。
ホラー映画の押し売りはいけません。
ていうか止めろ仲間。
「あの、回復薬とハイパー回復薬もありますがお譲りしましょうか?」
エリクサーも山ほどあるのだが、市場では超高級品で気軽にあげていいものでもないし、化粧水も美容クリームも、作っても作ってもひと瓶作るのに必要なセンチュリオン様の肉は本当に少量なので、三トンからの肉が全然減りゃぁしない。
これはなんか別のモノを、と考えたのが回復薬より効果が高く値段もそこそこというハイパー回復薬である。
ちょい深めの噛み傷、切り傷、解毒など速攻で治る。
ハイパーとつけておけばお値打ち感が出るだろうという、ネーミングセンス皆無の私の命名である。
だが覚えやすいので使う。私が覚えやすければそれでいいのである。
あちこちのギルドに置いてたら流石に在庫が無くなるだろうとリンダーベルの商業ギルドでのみ卸している。
「「「本当ですか!!お願いしますお願いします金はいくら高くても払います!」」」
本来は卸値で回復薬は100ドラン(1000円)、ハイパーは500ドラン、エリクサーだけは10000ドランと超お高めだが、効果は保証済みである。
卸すと瞬く間に売り切れるので、もう少し量をくれとせっつかれている位だ。
「それじゃ、今回だけ回復薬は50ドラン、ハイパーは250ドランでお譲りします。
次回お会いした際には、洞窟内だけは卸値でお譲りします」
わざわざリンダーベルに買いに来てる人にも悪いし、ギルドに文句言われても困るので、タダで譲るのは止めといた。
卸値で譲るのは、手持ちの薬が切れて成仏テンパイな人が殆どだろうとの推測からだ。
人の生き死にに利益を乗せちゃなんね。
あとちょっとなのに、薬が切れたから地上に戻らなきゃあかん、というのは悔しいだろうし。
冒険者の一人がハイパー回復薬を購入し、ほふく前進兄さんに飲ませたところ、すぐ傷口がふさがり、体力も回復したようだ。良かった良かった。
パーティーの皆さん土下座で感謝を伝えるのは止めてください。
商売ですよ商売。
ノースプラッタ大事。
もう少し先まで行きたいからと回復薬とハイパー回復薬の追加購入も受け付けた。
「で、………その、この上厚かましいんですけど、本当に20ドランで食事を?」
最初に声をかけてきた兄さんが尋ねる。
「はい勿論。やっぱり気力体力が冒険中は落ちやすいですからね。美味しいもの食べてモチベーション上げないと」
「ありがとうございますありがとうございます、6人分お願いします」
「はーい、120ドラン頂きました。そちらまでお持ちしますのでお待ちください」
使わなくなってアイテムボックスにしまい込んでいた、移動食堂でのテーブルと椅子がこんなところで役に立つとは。
急いで出して、冒険者さん達の側にテーブルと椅子を並べる。
器も当然しまい込んでいるので人数分出して、ダーククロルのトン汁と炊き込みご飯、今回はサービスだとダーククロルのポン酢かけもつけた。
だって目の前で焼いてるのに出さないとか食える食える詐欺よね。
涙ぐみながら、
「なんだこれクソ美味え………!!」
「空きっ腹に汁が染み渡るな~」
「傷口がふさがりそうな気までする」
いやふさがってんだろさっきハイパー回復薬飲んだだろ、と内心突っ込みを入れていたら、漸くクライン達がセーフティエリアに入って来た。
「おーうまそうな匂………って何でテーブルと椅子がよその冒険者にまで出てる?」
プルちゃんが呆れた顔で耳打ちした。
簡単に事情を説明し、そらしゃあないなあと納得してくれた。
こちらもテーブルを出して料理を乗せる。
「………くうう。労働のあとの飯は美味い!!そしてダーククロルも美味い!!」
「沢山肉を捕って来てるから、気持ちよくセーフティエリアで飲食するために、パーティーいたら移動食堂するのも手だな」
うん。まあそんなに下層はいないだろうし。
「すみません………お代わりも出来ますかもう一人前分とか」
申し訳なさそうに近寄ってきた血まみれほふく前進兄さんが尋ねてきたので、構いませんよ、と言ったら全員が一列に並んできた。
プルちゃん達も食い尽くされてたまるかと食べる速度が加速されたため、作り置きしようと多めに作ったトン汁もなくなった。
満腹になって元気が出たのか、つやつやした顔をして冒険者の兄さん達は先に出ていった。
私達も片付けをしてぼちぼち階段へ進むことにした。
ここらから大分しんどくなるエリアだから、進みは遅くなるだろうけど、今日だけでだいぶ階層は稼げた。
80階層より下が何があるか解らないから、体力温存しつつ進みますかね。
般若の面をつけた小さな着流しの子供と、左肩を脱いだ桜吹雪の刺青を入れた獣人の兄さんと、フォッフォッ、フォッフォッ言ってる両手ハサミの銀色の生き物と、プラグスーツを着込んだ水色の髪の毛の女性と言う、どこからどうみても怪しさがK点越えのパーティーは、のどかに下層階へ降りていくのだった。
2つ ふつうの お肉は要らぬ てれれん♪
3つ みつける 美味しい魔物 てれれん♪
退治てくれよう プル太郎~♪
プルちゃんが般若の面を被った着物姿でふわりふわりと刀で切り刻んでいる。
「てやんでえっ おめえらの悪巧みは
この桜吹雪が見逃さねえぜっ
食らえっサクラハリケーン!!」
クラインはと言えば、桜吹雪が描かれた左肩を露にして、細かい花びら(紙製である)を撒き散らして魔物の視界を奪いつつ止めをさしている。
本当は濡れ手拭いがメイン武器の金さんだが、クラインの
「雷属性の魔物に濡れ手拭いは死亡フラグ。それに乾いたらただのタオル」
と拒否られ、仕方なく日本刀にしたという涙なくして語れない経緯があるのだが、まあそれはどうでもいい。楽しそうで何よりである。
「フォッ フォッ フォッ フォッ
お前らを本日の昼ごはんにしてやろう。ステーキか?それともすき焼きか?」
クロちゃんのハサミから放たれるレーザー光線は最初は命中率が悪かったが、扱いに慣れたのか首を狙っての攻撃がかなりヒットするようになってきた。
メイド服のトラちゃんは、ヘッドドレスをウルトラ●ンセブンのアイ●ラッガーのように投げては的確に足や首をスパンスパン切断している。
自分で作っといてなんだが、どうしてヘッドドレスであんなに素晴らしく切れるのだらう。
えー、現在洞窟の52階層でございます。
朝7時頃からずんたったずんたったと進み、ほぼ50階層までは欲しい肉もないので魔物は瞬殺。
マップを参考に、どうせしょぼい敵しか出ない場所の宝箱なんてカスしかないと全部無視し、ただひたすら階層降りたら次の階層の階段へ進み、降りたらまた次の階層への繰返し。
ほぼ一時間で10階層位のスピードで降り続け、現在お昼の12時を回ったところでございます。
自分のやりたい変身が出るまでポチっていたプルちゃんとクラインは、13回目と7回目にしてようやく新作の桃太●侍と遠山の金●んが出たので、そこで解除せずに固定している。
1度変身するとボタンを押しても5分は戻れないが、解除しなければ3日は持つ。
クロちゃんはバル●ン星人が気に入ったようで、ハサミのような手からレーザー光線のような光魔法を放出して、ダーククロルを首ちょんぱしながら、上手く当たるとシャキーンシャキーンとハサミを動かして喜んでいる。
ええ、控え目に申し上げても無双乱舞中でございます。
私も今回は頑張るつもりで、既に綾波●イにも変身しているのだが、手を出す必要もなくお肉が増えていくので、途中からトラちゃんにカットしてもらったお肉をせっせせっせとアイテムボックスに詰め込んでいくだけになっている。
「たくさん……」
まあ、そろそろ昼ごはん作るつもりだったからいいんだけど。
フロアごとにある【セーフティエリア】は魔物が襲ってこないように国の魔導師が強い結界を張っているので、冒険者が安心して休めるのだ。
とりあえず変身を解除して、と。
「ご飯そろそろ作るから先にセーフティエリア行ってていいかなー?」
「おー、よろしく~♪………おのれ逃がすか小悪党っ!肉を置いてけぇぇ要は死ねえぇぇっ」
みんなも肉を下ろすのは出来るので(トラちゃんが早いだけだ)、トラちゃんを連れてセーフティエリアに移動する。
「さて、まず美味しさを知るには焼いてみないとね」
アイテムボックスからフライパンとハイパー七輪を何個か出す。
何がハイパーか。火力に魔力を使うので煮る、焼くがとても早いのだ。
精霊さんズに相談して、普通の七輪に魔石をはめ込むことで完成、大変簡単です。
まだクロロニアンは出てきてないのでダーククロルの肉だけであるが、シュルツさんがこれも美味しいと言っていた。
薄めにスライスして軽く塩コショウする。いい具合に焼けましたよ、と。
ぱくり。
「………おお、食べたことない感覚。
ベースはイベリコ豚っぽいけど、鶏肉的なあっさり感もある。ジューシーで美味しーい♪その上柔らかーい♪」
思った以上の満足度だ。
さて、何を作ろうか。
洞窟の中は結構冷えるので、温かいものが食べたいな。
「トン汁にするか………」
豚肉の味に近いのでトン汁でいいだろう。
ママリン貝(アサリっぽい奴)の炊き込みご飯もあるし、後はシンプルに肉を焼いてポン酢で頂こうか。
考えてるうちにお腹が空いてきた。
せっせとアイテムボックスからサトーモだのゴボウだのサツマーモだのを取り出して、大きな寸胴も引っ張り出した。
「精霊さんズお水よろ~」
見てる人がいなきゃわざわざ持ってきた飲み水は使いませんよ。
いつ冒険者とかち合うか気が気じゃないけども。今のところここには一組もパーティーはいない。
ハイパー七輪に寸胴を置き、火をつける。野菜を食べやすい大きさに切って放り込んだら、肉も細かくして投入。
わははは、いい出汁が出そう。匂いがたまりません。
大分肉も野菜も火が通ったところで味噌を入れる。
味見の特権が料理人の醍醐味よ。
「………めちゃめちゃ美味しいわ。体もあったまるし。どうするよこの完成度。
ムーアさんも言ってた通り、本当に肉が固くならないなぁ」
もう少し大きめに切ったダーククロルの肉は、薄く塩コショウするだけにする。
その時、ざざざっと飛び込むようにセーフティエリアに入って来た集団がいた。
クライン達ではない。
(初めてかもセーフティエリアで冒険者のパーティーに会うの)
結構ケガをしてる人もいるが、なんか呆然とこちらを見ている。
「………すげえ旨そうな匂いが漂ってくると思ったら、スープだよ。あんなでかい寸胴に七輪までダンジョンに持ち込むとは、大容量の携帯用アイテムボックス持ってるんだなぁ羨ましい。
………くそー、肉の焼ける匂いが空腹にはきついぜ」
「とりあえずコイツの手当てして少し休もうぜ」
「そうだな、しかし腹へった………」
腹ペコのパーティーの前で美味しく頂ける筈がなかろう。おいどんな拷問だ。
別に肉も腐るほどあるし、これも何かの縁。タダでお裾分けするのは構わないのだが、ここまで来るならS級冒険者クラスだろうし、プライドもあるだろう。
恵んでもらったとか傷つかれても困るし。
………うーん。
トラちゃんにコソコソ耳打ちすると、頷いて渡した大きな白い紙と太いマジックでさらさらっと書いて、ぽてぽてと冒険者さん達のところへ歩いていった。
『今だけ!!冒険者慰安!出張マーミヤ食堂 1食20ドラン』
見せた紙をガン見していた若い冒険者の兄さんが1人立ち上がってこちらへ歩いてきた。
「………どこのバッタもん詐欺師かと思ったら、本物のマーミヤ食堂じゃん。
あの、ハルカさんですよね?どうしてこんなとこに?」
聞くと、仕事の関係で行ったブルーシャでうちの移動食堂に来たことがあるそうだ。
「それはそれはありがとうございます。
いや、こちらに仕事があって一時的に来てまして。ついでに魔物が増えたってことで、ダンジョンの討伐の依頼もヘルプで受けたもので」
「そうですか!おーい、みんな、大丈夫だ、本物だ!安全だぞー!!」
たまに、こういう出店的なものを洞窟で出す人間がいるようで、中には悪どいのもいて、睡眠薬入りとかで目覚めたら身ぐるみ剥がされてたという恐ろしい事もあるらしいので、警戒されていたようだ。
お仲間さんが嬉しそうに近寄ってくる。
ちょっと待て。
血だらけの兄さんがほふく前進で来るのは止めて欲しい。
近寄る度に傷が広がるように見えるんですが。
ホラー映画の押し売りはいけません。
ていうか止めろ仲間。
「あの、回復薬とハイパー回復薬もありますがお譲りしましょうか?」
エリクサーも山ほどあるのだが、市場では超高級品で気軽にあげていいものでもないし、化粧水も美容クリームも、作っても作ってもひと瓶作るのに必要なセンチュリオン様の肉は本当に少量なので、三トンからの肉が全然減りゃぁしない。
これはなんか別のモノを、と考えたのが回復薬より効果が高く値段もそこそこというハイパー回復薬である。
ちょい深めの噛み傷、切り傷、解毒など速攻で治る。
ハイパーとつけておけばお値打ち感が出るだろうという、ネーミングセンス皆無の私の命名である。
だが覚えやすいので使う。私が覚えやすければそれでいいのである。
あちこちのギルドに置いてたら流石に在庫が無くなるだろうとリンダーベルの商業ギルドでのみ卸している。
「「「本当ですか!!お願いしますお願いします金はいくら高くても払います!」」」
本来は卸値で回復薬は100ドラン(1000円)、ハイパーは500ドラン、エリクサーだけは10000ドランと超お高めだが、効果は保証済みである。
卸すと瞬く間に売り切れるので、もう少し量をくれとせっつかれている位だ。
「それじゃ、今回だけ回復薬は50ドラン、ハイパーは250ドランでお譲りします。
次回お会いした際には、洞窟内だけは卸値でお譲りします」
わざわざリンダーベルに買いに来てる人にも悪いし、ギルドに文句言われても困るので、タダで譲るのは止めといた。
卸値で譲るのは、手持ちの薬が切れて成仏テンパイな人が殆どだろうとの推測からだ。
人の生き死にに利益を乗せちゃなんね。
あとちょっとなのに、薬が切れたから地上に戻らなきゃあかん、というのは悔しいだろうし。
冒険者の一人がハイパー回復薬を購入し、ほふく前進兄さんに飲ませたところ、すぐ傷口がふさがり、体力も回復したようだ。良かった良かった。
パーティーの皆さん土下座で感謝を伝えるのは止めてください。
商売ですよ商売。
ノースプラッタ大事。
もう少し先まで行きたいからと回復薬とハイパー回復薬の追加購入も受け付けた。
「で、………その、この上厚かましいんですけど、本当に20ドランで食事を?」
最初に声をかけてきた兄さんが尋ねる。
「はい勿論。やっぱり気力体力が冒険中は落ちやすいですからね。美味しいもの食べてモチベーション上げないと」
「ありがとうございますありがとうございます、6人分お願いします」
「はーい、120ドラン頂きました。そちらまでお持ちしますのでお待ちください」
使わなくなってアイテムボックスにしまい込んでいた、移動食堂でのテーブルと椅子がこんなところで役に立つとは。
急いで出して、冒険者さん達の側にテーブルと椅子を並べる。
器も当然しまい込んでいるので人数分出して、ダーククロルのトン汁と炊き込みご飯、今回はサービスだとダーククロルのポン酢かけもつけた。
だって目の前で焼いてるのに出さないとか食える食える詐欺よね。
涙ぐみながら、
「なんだこれクソ美味え………!!」
「空きっ腹に汁が染み渡るな~」
「傷口がふさがりそうな気までする」
いやふさがってんだろさっきハイパー回復薬飲んだだろ、と内心突っ込みを入れていたら、漸くクライン達がセーフティエリアに入って来た。
「おーうまそうな匂………って何でテーブルと椅子がよその冒険者にまで出てる?」
プルちゃんが呆れた顔で耳打ちした。
簡単に事情を説明し、そらしゃあないなあと納得してくれた。
こちらもテーブルを出して料理を乗せる。
「………くうう。労働のあとの飯は美味い!!そしてダーククロルも美味い!!」
「沢山肉を捕って来てるから、気持ちよくセーフティエリアで飲食するために、パーティーいたら移動食堂するのも手だな」
うん。まあそんなに下層はいないだろうし。
「すみません………お代わりも出来ますかもう一人前分とか」
申し訳なさそうに近寄ってきた血まみれほふく前進兄さんが尋ねてきたので、構いませんよ、と言ったら全員が一列に並んできた。
プルちゃん達も食い尽くされてたまるかと食べる速度が加速されたため、作り置きしようと多めに作ったトン汁もなくなった。
満腹になって元気が出たのか、つやつやした顔をして冒険者の兄さん達は先に出ていった。
私達も片付けをしてぼちぼち階段へ進むことにした。
ここらから大分しんどくなるエリアだから、進みは遅くなるだろうけど、今日だけでだいぶ階層は稼げた。
80階層より下が何があるか解らないから、体力温存しつつ進みますかね。
般若の面をつけた小さな着流しの子供と、左肩を脱いだ桜吹雪の刺青を入れた獣人の兄さんと、フォッフォッ、フォッフォッ言ってる両手ハサミの銀色の生き物と、プラグスーツを着込んだ水色の髪の毛の女性と言う、どこからどうみても怪しさがK点越えのパーティーは、のどかに下層階へ降りていくのだった。
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※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
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