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エクストリームドライブ【1】

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「………?料理人が変わったのか?」

 晩餐会で出てきた料理を見て、キース皇帝陛下はシュルツさんを見た。

「いえ、そのような報告は受けておりませんが」

 どうでもいいが、夜にまたキース皇帝陛下は着替えていた。
 今度は紫色のスケスケ素材の布でラメまぶしのレースまでついたお高そうなシャツに黄色と黒の細い縦縞のパンツである。

 食虫花から毒蛾へのジョブチェンジ。

 どちらにしろ危険性が高そうである。

「恐れ入ります。本日は皇帝陛下に私の故郷の料理を味わって頂きたくシェフの皆さまに無理をお願い致しました。お気に召していただけると良いのでございますが」
(意訳:とりあえず食べられるモノを頂きたいので自衛手段を取らせてもらうし)

「そうなのか。それは楽しみだな」

 晩餐会とは言ってもフランス料理的なお洒落な料理など作れないので、私の作れるものしかないのだが。

「………さて、これは何かな?」

「肉じゃが、と言いまして、玉ねぎとオーク肉とジャガーモをショーユと砂糖で甘辛く煮たものです」

「………ふむ。甘いのかと思ったらそうでもないのだな」

「はい。ライスに大変合うようになっております」

 好みだったのか黙々と肉じゃがを食べ続けている皇帝陛下を眺めていたが、いつまで食べてんのかしら。他にも料理あるんですけど。


「ハルカ様、申し訳ございませんがこちらは」

 シュルツさんが話しかけてくれたので、肉じゃが皇帝は放置する。

「あ、そちらはドードー鳥を食べやすいサイズに切って唐揚げにしたものです。そちらのタルタルソースとおろしポン酢どちらのソースでもお試し頂きたいです」

「………美味いですねこのタルタルソースと言うのは!卵を使っておられますね。濃厚でドードー鳥と合いますな………おや、こちらのおろしポン酢というのはレモン……いや違うな、何か柑橘系とも違う酸味がさっぱりしてて食欲をそそります」

 クライン達を見ると、既にあちこちに手を伸ばし、自宅と同じように食べ出している。
 クロちゃんもプルちゃんと同じように、大人用の椅子にクッションを押し込んでテーブルと高さを合わせてもらっているが、遠いところは手が届かないので、食べたいのを指差ししてもらって私が山盛りにしておいた。
 私も自分用に盛る。

 
 ちなみに他のメニューはパパリン貝(味も見た目もホタテ)を軽くゆでてほぐしたものをマヨネーズで和えて大根の千切りと混ぜ合わせたサラダに、豆腐とネギの味噌汁、ホウレン草のごま和え、ヴェルサス肉のサイコロステーキガーリック風味とクラーケンのゲソのバター醤油炒めである。

 1人分ずつは一応盛って、多めに作ってるので残りはテーブルの中央に大皿で載せている。バイキング形式だ。
 だってうちのファミリー、半端なく食べるんだもん。

 一応えらい人には高級品を1つは出しておかないといけないと思ったのだが、どうもオーガキング様を出すほど好感は持てなかったのでヴェルサスさんに登場願った。
 単にヴェルサスさんがより沢山肉があったせいもある。


 私達の向かい側に座っているやたらと体つきの大きな、親子と見える大臣さんとその息子(これもまたでかい)は、無言で食い散らかしている。この人達も胡散臭い笑みを浮かべてて苦手である。

 ちなみに防衛大臣のブロウラードさんと息子さんはウィリアムさんと言うらしい。
 ウィリアムさんは私と同い年のようだが、別に興味がないのでどうでもいい。


「ところで、明日なんですが、早めに出ますのでご挨拶なしになると思いますが申し訳ありません」

 80階層以上のダンジョンだ。
 一日で進めるわけもないので、数日は最低限内部に居ると思われる。

 正直、講師もやらないでいつまでも滞在していたくないので(店も心配だし)、クライン達と、【さっさと頂く肉は頂きつつ、要らんのはキャッチ&デストローイで片付けて、講師も終わらせて帰る】という事にしたので、出来るだけ急ごうと話がまとまった。
 
「気にするな、こちらこそ迷惑かけて済まないな」

 キース皇帝陛下は、ちっとも済まないと思ってない口調で労った。
 見ると彼は既に肉じゃがゾーンを攻略し、ゲソバター炒めを侵略中のため、目も合わせなかった。

 一種類ずつ全滅させないで少しずつ満遍なく食べた方が飽きが来なくていいんだけどなぁ、と私は思ったが、まあ本人のエリアの食べ物だ。本人の好きにさせよう。

 
 とりあえず、晩餐会という会話を楽しみながら食事をするというイベントな割に、皆さまほぼ無言で食べていた為、さらーっとご飯を食べて部屋に戻ることが出来た。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あぁ、肩が凝った………」

 改めて風呂に入って来た私達は、ひとまず私とトラちゃん、プルちゃんが眠る部屋に集まった。
 隣の部屋はクラインとクロちゃんである。

「はい、ペンダント。クロちゃんのも作っておいたよ。防御結界や即死魔法、毒や麻痺なんかも無効化してくれるし、この魔石のとこポチってすると、大幅に身体能力アップしてくれるからね。ちょっと変身するけど大したことないから」

 ムーアさんからダンジョンの話を聞いて、さすがに今回は一旦手持ちのペンダントを回収し全属性無効強化、特に雷属性の魔法無効特大強化に加えて、クラインとプルちゃんのたっての希望で遠●の金さんと桃太●侍の変身も入れといた。
 トラちゃんのはメイドと忍者を追加して入れてある。
 クロちゃんは小さい時は二足歩行だが、人型のタイプは動きづらいかも知れないと思い、ゴジ●とバ●タン星人だけにしておいた。
 なぜこの組合わせなのか。単に私が好きだからである。


「飲食関係はみんなに不自由はさせないから、思い切ってやって頂戴。あと携帯用アイテムボックスに、時間経過なしの魔法も改めてかけたのと容量も増やしたから、肉以外もお値打ち品あればよろ」

「分かった。確か宝箱もあるらしいな」

「みたいね。何が入ってるか良くわかんないし、それは見てからね。ミミック(宝箱に偽装した魔物)の場合もありそうだし」

「そうだな。………でも、クロノスは疲れてるだろうし、留守番しててもいいんだぞ?」

 プルちゃんがクロちゃんに目を向ける。

「いやもう目一杯食べたし、全然平気だよ。それに、ただずーっと一人で待っててもつまんないし。俺、結構強いし役に立てると思うよ?」

「それじゃ、お願いします。
 でも、くれぐれも、くーれーぐーれーも、美味しい魔物は焼き尽くさないでくれる?美味しくなくなるからね。美味しくない魔物はいくらでも燃やしていいから」

 私が念押しすると、一度うちの土地の森を危うく焼け野原にしそうだったことを思い出したのか、クロちゃんは何度もコクコクと頷いた。

「それじゃ、明日は早いからもう寝ましょ」

 私はそう呟くと、アクビを噛み殺した。
 いや、私も市場に行って買い物したり、魔法を使わずに料理したり緊張する人ばかりに会ったりで、結構疲れてるんですよ。

 布団に潜り込むと、5分もしないうちに爆睡状態に入ってしまった。………すぴー。



ーーーーーーーーーーーーーー

 翌早朝。

 私達は、ゼノンの町の外れにあるエクストリームドライブの入口までやってきた。

 普段なら、かなり人で賑わっているのだろうダンジョン前の出店の方も、パラパラとパーティーが買い出しをしてる位で、早朝とは言え少々寂しい人出である。


 一番近い出店でダンジョンマップを購入し、ついでに出現魔物ガイドブックなる冊子も購入。

「さあて、行きますかねぇ」

「ハルカ、ダーククロルとクロロニアンつうの捕獲したら、一旦食べよう。噂ほどあてにならんものはないから直接確認したい。大して美味くなきゃ殲滅に専念した方が効率的だし」

 プルちゃんが私に声をかけた。

「分かってるよ。
 どうせ一日で片付くわけないんだから、食事の時にみんなで試食しましょ」


 あぁ、ダーククロル君、クロロニアン君。

 諸君はどんな美味を提供してくれるのかね。今、不動の1位を独走中のオーガキング様を越えてくれることを期待しているよ。フハハハハハ。


「ハルカ、気持ちは分かるが不気味だから半月目で肩で笑うの止めてくれ」

 クラインにたしなめられた。

「あー、ごめん。ちょっと美味しい食べ物に関することだと、たまに脳内暴走が始まるから。反省しなきゃ。さ、行こうか」

 私は気を取り直し洞窟に向かう。
 今回も如意棒もどきは持ってきましたよ。毎回もどき呼ばわりも可哀想なので『にょいぽん』と呼ぶ事にしました。
 にょいぽん、頑張るのだよ。お姉さんは大漁という響きが好きだから覚えておくように。


 プルちゃん達が「たまに(・・・)?控え目も甚だしいなおい」「美味かったら全部捕獲するぞアイツは」「俺は美味しいものが沢山食えるならそれでいいし~♪」などとヒソヒソ語らっている事など知るよしもなかった。



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