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ガルバン帝国・ダンジョンが先ですか。

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「………ほお、お主がハルカと申す者か」



 私とクラインが皇帝に拝謁しに行く時に、プルちゃんも一緒にと言ったのだが、

「疲れてるし、えーと、クロノス………そうだよ、クロノスがドラゴンてことで、何かこう、悪さするのとかさ、何かこう、拐われたりとかしないようにトラとガードしないといけないと思うな俺様は。
 だから二人で行ってこい」


 全力で拒否ってる割には底の浅い言い訳をするプルちゃんだが、まあ皇帝に会ってもしゃあないもんなぁ、と諦める。


 一応クラインは隣国の王子ではあるし、国同士の円滑な関係維持とやらもあり、元から挨拶ぐらいはしてこいやコラ、と国王陛下に蹴り飛ばされて来たそうなので渋々ついてきた。

 
 美丈夫、ってこんな感じなんだなぁ、というのが皇帝の印象で、もっとおじ様かと思ったら、最近代替わりしたとかで私と似たような世代に見える筋肉質な精悍な顔立ちの若き皇帝である。
 この世界では珍しい真っ赤な髪の毛を短めにしており、パッと見には軍人さんのように見える。

 ………なんで筋肉質か分かるか、ですか。

 いやもう、勘弁して欲しい位スケスケなんですよ、皇帝の衣装が。

 前世では洋服はTシャツとかジーパン、パーカーとリクルートスーツ2着しか持ってなかったし、こちらでも類似品的な麻や綿のざっくりしたシャツや長いキュロットスカートみたいなもんばかりなもんで高級生地とかご縁がないのだが、オーガンジーとかシフォンとかみたいな素材のカラフルな薄い生地に、ラメが撒き散らされてるようなもので、セレブのマダムとかが着てる袖口の生地をゆったり使ったブラウスみたいなのに、黒のパンツを合わせている。

 アマゾンの奥地にしか生えないデカイ食虫花とか、燐粉を散らす蛾を連想させるファッションセンスさえ除けば、長身だし細マッチョのイケメン好きにはたまらないポテンシャルの持ち主である。


「シュルツから聞いている。調味料などを扱う商会もやっていてレストランやパティスリーも経営してるとか。若いのになかなか商才があるのだな」

「とんでもございません。私の祖国にある調味料を広めたかったのと、美味しい料理が世界中で食べられたらいいと思っただけでございますので」

 どうでもいいが、皇帝陛下の椅子の横のミニテーブルに、とっても見覚えのあるパウンドケーキが皿にカットされ載っている。

 ついでにガラスのキャンディー入れのようなものに入ってるのもアラレのように見えなくもない。


 視線に気がついたのか、ふっとイケメン食虫花もといキース皇帝陛下が笑った。

「シュルツがどうしても食べてもらいたいと先日訪問した時に土産にくれたものよ。なかなか美味いものだな、お主の作るものは」

 そういって、アラレを掴むと口の中に入れる。

「ありがたいお言葉感謝に堪えません」


 ふと横を見ると、シュルツさんがどうしても皇帝陛下に食べて欲しいと持ってきたと言うより、どうしても食べたくて持って帰ってきたのを強引に奪われたような切ない顔をしてるのですが無視していいですか。


「それに、噂に違わぬ美形だな。どうだ、私の妃にならぬか?」

「ちょっと何言ってるか分かりませんけど有り難くお断りします」

「いや、分かってるだろお主」


 偉い人のお世辞は恐ろしい。
 他国の料理が出来る珍獣を囲い込みたいのかも知れない。
 どんな無理強いさせられるか分かったもんじゃない。下手したら転生者とバレるかも知れないし。

 それも食虫花的なアグレッシブなセンスの皇帝なんて、性格もアグレッシブに違いない。部下のオヤツも奪い取る暴君なんて私のタイプではないのだ。

 しかし、冗談でも皇帝陛下の言動を断るには理由も必要だろう。

 えーと。

 えーと。

「………申し訳ありません、私は既に婚約者がおりまして売約済みですので」

「ほう、そうだったか?初耳だな。
 して、国のトップを袖にするほどの存在か?」

 私も初耳です。

 クラインが横で唖然とした顔をしていたのが見えたが、慌てて平静に戻った。

 
 ごめんよクライン、助けてもらうよ。

「実は………サウザーリン王国第3王子であるクライン、様が私の婚約者でございまして」

 火のついた爆弾を丸投げした私に、怒りからか真っ赤な顔をしたクラインは、それでも芝居に乗ってくれたようで、

「………はい、実はそうなのです。大変私的なことでございますので、申し上げにくく失礼致しました、キース皇帝陛下」

 と頭を下げる。

「そうか、隣国の王子である貴殿なら仕方あるまい。残念だが私は身を引くか」

 ハッハッハ、と豪快に笑ったキース皇帝陛下は、ところで、と話を切り出した。


「料理の講習をしてもらう話の前に実は相談があってな。
 私の国のエクストリームドライブという一番深いダンジョンの方で、魔物がかなり大量に発生するようになってな、国内が少々落ち着かないのだ。
 ハルカ、殿は確か冒険者をしておられたと聞いているが、少し助けてはくれまいか?」

 王子の婚約者に成り上がった途端、お主からハルカ殿にランクアップですか。
 やはりこの食虫花、信用できないわ。


「討伐に参加すれば宜しいですか?」

 料理させるついでに討伐利用だったのね、と思いつつ、それでも自分が来たことで増えたのだろうという弱味もある。


「済まぬ。少し討伐して貰ってから講習を開く方が料理人達も安心するだろうからな。………流石に剣に聞こえたクライン王子に頼むわけにも行かぬし」

「いえ。………大事な婚約者を一人で行かせる選択肢はありません。婚約者と私、連れてきた従者もダンジョンに入ります」

 従者?………ああ、プルちゃんか。

 しかし婚約者婚約者言われると、どうにも演技とはいえ照れ臭いので、控えめにしてもらいたいのだけど、丸投げ案件なので文句が言える訳もない。

 後でクラインには土下座しよう。


 早速明日からでも潜ります、と言う話にまとまって、部屋に戻る寸前に、慌てて確認する。

「あの、皇帝陛下」

「………ん?何かな」

「捕獲した魔物は、戴いても?………いえ全部とはいいませんが、折角討伐するなら、ついでにレストランでも提供させて頂こうかと」

 嘘はついてないです。
 全部は要らない。
 美味い肉だけです。

「ああ勿論構わん。………ただ、いや、難しいかも知れぬが、もしクロロニアンが討伐出来たら少しだけ肉を貰いたいな。昔食べたきりなので、是非ともまた思い出の味を楽しみたい」

 一番美味い肉が欲しいと。

 楽して美味しいモノだけ手に入れようなんて、図々しいにも程があるが、食虫花とは言え皇帝陛下だ。ここは敬意を払うべきであろう。

「喜んで献上させて戴きます」

 その代わり、かなりキャッチしますけど。次にいつ来るか分かんないんで。
 あ、宜しいですか?いやぁ皇帝陛下もお心が広くていらっしゃいますね。いやいやどうしてどうして流石に人の上に立つ御方。
 それでは遠慮なく行かせて戴きます。


 などと心の中でセルフ会話のキャッチボールを済ませ、私達は謁見の間を辞した。




 クラインを一旦プルちゃんとクロちゃんの待つ部屋に引きずり込み、扉を閉めた途端に防音結界を張って土下座した。

「すんませんした!!本当にすんませんした!!」


 クラインがなんとも言えない顔をした後に、「………まあ仕方ないだろあれは。下手すればそのまま本当に妃にするつもりだったみたいだしな」と呟いた。

「食文化の発展のためとは言え、さすがにろくに話もしたことがない食虫花に嫁ぐのもねえ。利用される気配ぷんぷんしてたしさ。いや本当にごめんね丸投げして」

「………食虫花?」

「あの視覚テロかと思わせる尋常でない洋服の色彩センス、恥ずかしげもなくスッケスケの服で人前に現れて筋肉見せびらかす俺様ナルシストぶり、私にはどう考えても無理だわ」

 食虫花の説明をすると何故か爆笑されたが、確かにな、と納得してくれた。

 爆笑した声で目が覚めたのか、プルちゃんとクロちゃんが起きてきた。

「ハルカ、腹へった………」

[お嬢ー俺もペコペコだぁぁ]

「ごめんねお待たせ。明日からの相談も兼ねて遅めの昼ごはんといきますかね」


 持ってきたウナーギ丼や唐揚げ、しょうが焼きなど沢山の肉メインの食事をアイテムボックスから取りだし、テーブルに広げながら、明日からのダンジョン討伐の説明を始めるのであった。






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