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ガルバン帝国到着。

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 クロノスが宣言した通り、本当に5時間ほどでガルバン帝国に到着した。

 みんな、髪の毛は強風に煽られてグシャグシャである。
 何となく壮大なファンタジー的なものを想像して少し浮かれていた私は、高い羽毛布団を買わされたジジババのような騙された感が半端ないのだが、過剰な期待をした己がいけない。

 変わらないのはトラちゃん位か。毛が短いしね。

 防御結界を強く張ってしまうと飛んでいるクロノスに影響があるそうで(風の流れが変わり、浮力が減って飛びにくくなるそうだ)、最低限の邪魔にならない程度の防御結界しか張れず、暴風が強風になるくらいの変化しかなかった。

 せっかくの空からの景色を堪能しようにも、風が強くて目が開けられないので、最初に垂直に浮上した後はほぼ到着まで雄大な景色などは見られず、9割は籠の中に横たわるか座ってオヤツをつまんで雑談してるという、観光気分満喫とは程遠いものだった。

 いや、ある意味小田原とか熱海の温泉旅館に来た疲れを癒すおっさん集団のようでもあったので、これはこれでありなのだろうか。


 到着までの時間も勿体ないので、店のことや年末までの営業スケジュール、新作の提供時期なども色々相談した。
 トラちゃんが書記のようにちゃんと箇条書きで要点をメモしてくれる。
 あんたホンマ出来る子や。


「クライン………戻ったらピーターさんに籠タイプじゃなく、上も覆うタイプの飛行船タイプのものを頼んで欲しいの」

 メモ帳を開いてこんな奴、と説明する。

「分かった。やはり重さは抑えて貰って、と。この籠につけてもらうのがいいよな」

 クラインもメモ帳を開きピーターさんに伝える情報を控える。


 クライン達には、店を始めて早々に、ネット通販でまとめ買いしたシャープペンとボールペン、それにメモ帳を渡しておいた。
 こちらにも紙やペンはあるが、厚みがあったり凸凹してたりと書きづらいのだ。

 仲間にメッセージを残したり、自分の覚え書きとして使っていたり重宝しているらしい。


 先日たまたま開いたままでリビングのテーブルで爆睡していたプルちゃんのメモ帳をチラ見したら、『俺様の考える新作メニュー』とあったので、ほうほう何々、と悪いと思いつつ覗いて見たら、

【つぶあんを平たくして小さめのホットケーキに挟んだもの。】

 ………うん、どら焼きだね。ひねりもオリジナリティーも全く見当たらないよプルちゃん。

【魚の形に小麦粉溶いて焼いたのの中につぶあん入れる。これは売れる!】

 たい焼きだね。
 しかし、プルちゃんは本当につぶあんがお気に入りである。

 ………って、自分が好きなものを書いただけかーい。

 まあ売ってないけどさ店ではまだ。小豆さえ量産化出来ればあんこ系がパティスリーのイートインで出せるのになあ。

 ただ、メイン洋風なんだよなぁうちの店。
 今こそっと置かせて貰ってるアラレと煎餅が甘いもの苦手な人にも人気だし、いっそ和菓子と洋菓子分けるかなあ。
 メイド服でどら焼きとかお萩とかたい焼き出すのもなんかこう、違うよなぁ。
 どちらかというと、絣の着物に割烹着的なお姉さんが運んでくれたりすると萌える。………おお、なかなかいい考えだわ。
 和風メイドカフェ、いいないいな。

 いやでもまた人を増やして仕事も増えるしなぁ………検討だけにしとこう。



 そんなこんな考え事してる間に、スピードもゆっくりになり、顔を出せるレベルになった。

[ガルバン着くよ~]

 クロちゃんの声でわらわらと空からの景色を覗く。


 火山が白煙を上げていたり、溶岩が流れてるところもあるが、広大な土地である。ところどころに町もあるようだ。

 ただ、ちょいちょい木も生えてはいるものの、全体的なイメージカラーは『茶色』である。

 サウザーリンの緑一面という風景に慣れていたので、私は結構驚いた。

 それぞれやっぱり国の特色があるんだなぁ。確か陶器が売りの国だというし。


 事前にシュルツさんから、

『白い大きな城がある町の北側に籠とドラゴンが降りても大丈夫な平地があるのでそちらに』

 と言われたが………。あ。あそこか。


 確かに童話とかに出てきそうな白亜の城があり、そばの大きな町の周囲まで高い城壁がぐるりと囲っているその北側に、確かに少し整地されたようなだだっ広い土地がある。

 私は精霊さんズの一人を呼んで、クロちゃんにあそこに降りて欲しいと伝えて貰った。


 クロちゃんは結構細やかな気遣いをする子で、籠を転がらないよう着地させると、その横に自分も舞い降りた。



「ハルカ様、お待ちしておりました!本当に遠くまでお疲れ様です」


 一応目安で到着日程は知らせておいたが、わざわざシュルツさんが騎士団を引き連れて迎えに来ていた。

 騎士団は、唖然とした顔でドラゴンを白タク代わりにした荒ぶるヘアーの私達を交互に眺めていた。


 ………いくら船旅がイヤとは言え、目立ちすぎである。

 ただ、転生者であることを知られたくない私ではあるが、己の健康状態は大切にしたい。
 ノーモア船酔い、ノーモア吐き倒れ。

 もし疑われるような事があれば、たまったま命の危険があった聖獣を救ったら感謝され、その友達にたまったまドラゴンがいて親友を救ってくれた好意で運んでくれたと言うハートフルウォームなストーリーを展開する予定である。



「皇帝陛下がお待ちです。荷物はこちらで運ばせますので、こちらへ」

 
 ちょっと待て。この実験に失敗した研究者のコントみたいな頭の集団をそのまま連れてくのは不敬としか思えない。


「すみません、せめてお風呂だけでも入って身綺麗にしてから拝謁したいのですが」


 シュルツさんは、改めて私達の格好を見返し、「ああっ!!」と頭を下げる。

「長旅から着いたばかりの客人になんて失礼なことをっ!誠に申し訳ありません。
 先に部屋にご案内しますので、勿論お疲れを癒してからで構いませんので詳しいお話はその後で」


[ふわぁ、疲れたぁ~。お嬢、後で飯くれ。腹が減って死にそう]

 普段の小さいサイズに戻ったクロちゃんは、クラインに肩車してもらいながら、ぐったりとした声で訴えた。

「分かってる。とりあえずお風呂入ってからね」


 既に睡魔にランバダのダンスばりに激しく襲われてるプルちゃんを抱えあげて歩きながら、私もぐったりした状態で城の方へ歩を進ませるのだった。




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