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お出かけするよ。

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 それから出発までは、そらもう大変だった。

 オーナーとして在庫もない状態で店を留守にするなど私のポリシーに反する。

 店のバイトさん達にはガルバン帝国に料理の講習にいくので2週間ほど留守にすることを告げた。

「店長以外も皆さん行かれるんですかっっ?!いえ、私達だけでも頑張ります!頑張りますけどもっっ」

 とミリアンの妹のニコルちゃんが悲愴感溢れる眼差しで聞いてきた。
 ちゃんとケルヴィンさんとミリアンとテンちゃんは残るから大丈夫よと宥めて安心させたが、やはりバイトさん達だけでは不安に思うのも当然だから、テンちゃん達が残ってくれるのは本当に助かった。

 ガルバン帝国に一緒に行けないのは寂しいけども、それは仕方ない。


『在庫を作るから出かけるまで私は暫く家に籠るですよ』

 と市場で小麦粉やらバターやら蜂蜜やら果物やらチーズなど、足りない食材をこれでもかと買い込んで、片っ端から精霊さんズをデザートとアイスクリームという安い賃金で馬車馬のようにこき使い、出来上がったものを店舗の二階にある倉庫へ持ち込んだ。
 冷蔵庫を上にも追加で設置し、時間経過をなくす魔法を付与してどんどん突っ込む。ただし魔石に魔力を注ぐのも限度があるので1ヶ月程度しかもたないが、それまでには帰ってくるので問題ない。

 カギはミリアンに預けておき、必要に応じてテンちゃんと二人で使ってもらう。


 その間にクラインとプルちゃんとラウールとトラちゃんには、『キャッチ&イート』ついでに『キャッチ&デストローイ』と言うことで、森に肉を大量に捕獲しに行って貰った。

 クロちゃんも手伝うといってくれたのだが、小さなままだと本来の力がでないと通常の半分サイズで試しに一回行って貰ったところ、ファイアブレスで肉も森も焦げ焦げになる所だったそうで、申し訳ないが遠慮して頂いて、シャイナさんといちゃらいちゃらして貰っている。

 口調はざっくばらんだが、紳士的に接してるところがシャイナさんも満更ではないようだ。
 タロちゃん達もなついている。

 個人的にはシャイナさん達が幸せになってくれれば嬉しいのだが、外野が余り口を出すのも可笑しなものだから、ゆるく見守ることにした。


 黙々とお菓子作りに勤しみつつ、忘れないうちにと王宮に「すいません王子ちょっとお借りしますけども」と菓子折を持って挨拶にも行ってきた。
 許可は貰っていると言うが、流石に王族を旅に連れてくのは色々不安があるのである。

「もう~お菓子まで。あら、新作かしら?美味しそうだわあ。
 でも、そんなに気にしなくていいのよ、あの子が勝手に行くっていってんだから。ハルカちゃんが心配することないわよ。どんどん使ってやって。
 むしろ、常時そばに置くという画期的な方法も提案できーーー」

 慌てて王様に口を塞がれた王妃はモゴモゴ言ってるがよく聞こえない。

「まあ、うちの息子、腕は立つし頭の出来も結構いいから役に立つと思うよ。よろしく頼むよ」

「………あ、ああはい、それは勿論存じております」

 ………え。常時って、まさか本当にマーミヤ商会で正式に社員にさせようというのだろうか。
 それは助かるけど、いいんだろうか王族を飯屋の人間にしても。
 まさか、スイーツや食べ物の為にクラインを人身御供にしようとか思ってないわよね?いくら食いしん坊な王族とはいえまさかね。

 いやいや、恐いから敢えて問いただすのは止めよう。人は曖昧にしておくことがいいこともあるし。


 パンプキンパイを渡してそそくさと王宮から帰宅すると、ケルヴィンさんがちょうど研究所から出てくる所だった。

「あ、ちょうど良かった。ソースの試作品が出来たので味見をして貰いたかったんですよ」

 いそいそと一緒に家に戻って来ると、日本で言う【中濃ソース】の試作品をテーブルに置いた。

「おおー、この色合いといい匂いといい正に私の希望してたソースの気配!」

 小皿に盛られたそれを、ちょと下品だが指で軽くすくって口に入れる。

「………………」

「………あれ?ダメでしたか?結構いい感じだと思っ」

「素晴らしい!ちょっと甘めなとこも大変私の好みだわ。さすがケルヴィンさん」

 トマトやニンジンなど、各種キズがあったり少し傷んでるとこがあって市場で売れない訳あり野菜を使っているので、コスト的にはかなり抑えられたとのこと。

「ゴーサイン頂ければいつでも工場で行けますよ。行きますか?会長」

「行きましょう!」

 とりあえず2本ほど貰ったので、今夜はお好み焼きか焼きそばにしよう。

 通常焼きそばにはウスターソースというもっとさらさらしたソースを使うことが多いそうなのだが、私は中濃ソース派である。九州の方が本場の甘めのソースも好みだ。


 その晩は【ソースが出来たよ祭】と言うことで、焼きそばにお好み焼き、色々な野菜と肉を適当な大きさに切って串揚げにしたものを出してソースの素晴らしさを讃えたのだったが、串揚げは特に好評で、小さくて食べやすいし店でも出したいという話になった。
 ソースの量産化が済んだらお試ししてみますかね。新作メニューはどちらもちょいちょい入れないと飽きちゃうだろうし。

 あまり出ないのを定期的に新作と入れ替えるのが合理的かな。
 無尽蔵にメニュー増やす訳にも行かないし。コストも無駄になる。

 おー、私も少しずつマーミヤ商会の会長らしくなってるわ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 などとやってるうちに、出発の日である。


 ピーターさんが用意してくれた籠は、10人位はゆったり乗れそうな大きめのものである。横になることも考えてくれたらしい。
 それもこの国でも自生している、籐のような植物と竹を組み合わせて縒りあげたもので、軽くて頑丈だ。

「ドラゴンで空を行くとか、さすがスケール違いますねマーミヤ商会は」

 と言いながら、大きくなったクロちゃんのサイズに合わせて体にかけるヒモの長さも調節しにきてくれた。

 しかし、なんで職人さん達も目をきらきらさせてドラゴンをさわさわしていくんだろうか。
 やはり大きなドラゴンってスター的な憧れの存在なんだろうか。

 いや、私もそういえば触らせてもらったけど。だってファンタジーじゃないですか。ねえ。



「じゃ、あとはよろしくね」

 ハルカ達は籠に乗り込む。

「気をつけてね!クロちゃんもよろしく頼むわよ」

 ミリアンとテンちゃんとケルヴィンさんまで見送りに来てくれた。

[たんと胃袋補充もしたし、絶好調だから安心してくれよ]

「………ハルカ、危ないことはしないでね………」

「分かってるって。子供じゃないんだから」

 ダンジョンの下層で美味しい肉を大量ゲットよ~、と意気込んでいる姿のどこが大人なのか教えて欲しいとミリアンとケルヴィンは糸目になっていた。


[じゃあ、行くからねぇ]

 バサッ、と羽を広げると、そんなに力も入ってないような感じなのに籠がふわぁっと浮き上がった。

 あっという間に空高く上がった私達は、普段見たことがない空からの景色にちょっと感動した。


 さあ、ガルバン帝国に出発だーー!!







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