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プライベートジェット訪問。

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[こんちわーラウールいますかー?]

 
 翌日の昼前にやってきたフレイムドラゴンのクロノスは、確かに赤茶色のドラゴンの見た目だが、ラウールと大して変わらない大きさをしていた。

《おお、済まぬなわざわざこちらまで来てもらって》

[いいっていいって。こっちの方が若いんだし暇してたしさ。
 ところで転生者の子ってどの子?]

 キョロキョロと周りを見回し、キッチンから出てきたハルカを見て、

[あー、アンタだね?オーラが普通の人間と全然違うや。よろしく!俺はクロノスだよ]
 
 と勝手に納得して頷いている。


 本日やって来るというので、ハルカと同じドラゴン種と言うことでシャイナさん(最近は短時間だがパティスリーの方にバイトに来ていて、可愛らしさで大人気なのである。)、トラとラウールというメンツは在宅していた。
 たろちゃん、じろちゃん、はなちゃんは在宅はしてるが、基本コロコロ遊んでるだけなので数に含めてない。


 プルは「フレイムドラゴン見てぇよう~っ」と休みたがったが、テンが「………帰ってからでも会える。ただでさえ忙しいのにサボるのはダメ、ぜったい」と、クラインと無理矢理引きずっていった。

 最近、テンは人に喜んで貰えるのが嬉しいらしく、より一層真面目に働く子になったので、とても頼もしい。


「ハルカ、ごめんなさいね、風呂掃除当番なの忘れてたから先に片付けてきたわ………あらもう来てたのね。いらっしゃいませ」

 シャイナさんがクロノスを見て驚いたようで目を見張った。

[………おや、この美人さんはどなただい?]

 クロノスが顔を赤らめてハルカに問いかけた。

「ピクサードラゴンのシャイナさんです」

 ハルカは(人から見ても美ドラゴンだけど、同じドラゴン種から見ても美人なのねやっぱり!)と、嬉しくなった。

「やだわー、美人だなんて。子持ちですのよ私」

 褒められて照れながらもシャイナさんも嬉しそうだ。

[あー、御主人が………]

 あからさまにがっかりしてるクロノスに、私はこそっと、

「未亡人、じゃなくて未亡ドラゴンです。旦那さんは亡くなられたそうなんで」

 と耳打ちをして親指を立てた。

 シャイナさんもまだまだ人生長いし、いいドラゴンさんがいたらとは思ってたので、まずは友達からスタートしてくれればありがたいが、もしシャイナさんが嫌がるようならサポートはしないので、慎重に頼む旨を付け加えると、

[お嬢、いい子だなー]

 と感謝された。


 まずは昼時でお腹も空いているとのことなので、お昼ごはんでもという事で、用意していたヴェルサスの焼肉とオーク肉の酢豚、ドードー鳥のロースト、ナガーモの味噌和え、クロノスにはお酒も好きだと言うので、赤ワインと日本酒を用意した。
 デザートには何が好みか分からなかったので、フランボワーズケーキにブルーベリームース、シュークリームにレアチーズケーキを用意していた。もちろん店で出してるものである。
 ハルカの少しは楽をしたいなーという乙女心という奴である。


[………ふわあ、何十年ぶりだ赤ワインなんて!!超嬉しい!違う酒もあるんだな!]

「日本酒という私の故郷のお酒ですよ。気に入って貰えるといいんですが」

 テーブルの料理はみるみるうちに、

[美味いなー][初めて食ったなースゲー好みの味~っ][あり得ないぐらい美味くね?][また酒と一緒だとより一層美味いなー]

 等という合いの手で消えていった。

 少しは遠慮を知れ、というラウールのてしっ、という前足の一撃に、

[いやゴメンゴメン、でも俺らの種族って基本人里離れたところで住んでるもんでさ、人間の作ったモノとか食べる機会がなかなかないんだよ。
 通りで《ちっとばっか人里で暮らすので当分遊びには行かれん》とか言ってくる訳だぜ。きったねえなー、自分ばっか美味しいもの食ってんだもんなー。誘ってくれてもいいだろうがよ、転生者なら別に人外なんて驚きもしないだろうしさ]

 ………まあ、シャイナさん達もラウールもいるし、そもそもプルもテンも人外だしな。慣れたよな流石に。普通に喋るし。
 ハルカは頷きながらも、疑問に思っていた事を聞いてみた。

「ところで、シャイナさんみたいにウロコも頂いてないのに何で話が出来るんですかねえ?」

[え?だって俺は元々人の言葉話せるし。長生きしてっとそう言うの身に付くんだよ] 

《………まあ200年、300年とか経つとな、普通に話せるようになっとるぞ。シャイナはまだ100年も経っとらんじゃろ?だからウロコとか媒介になるもんが必要なんじゃよ》

「そうねぇ、私は80年ちょいかしらね。あまり細かくは覚えてないんだけど」

 首を傾げる仕草が相変わらずワンダホーなシャイナさんが80超えとは初耳だ。

 ハルカは、みんな長生きねぇ、と、少しこの先の生活に不安を覚えた。
 私は流石に100年も200年も生きられない気がするんだけど、皆さんのその後が心配だ。
 大丈夫だろうか、こんなに短命の種族のとこで一緒に暮らしてて。
 ついつい普通に迎え入れてしまってるのだが、彼らには私がポックリした後で迷惑がかかるかも知れない。

 ………まあ、もう少しババアになってから考えるか。まだ元気だしね私。


 ハルカは、伊達に転生者向きのお気楽な順応性の高い人間ではないので、『今考えても解らんことは後で考える』というスルースキルが標準装備(デフォルト)である。


「ところで、私達をガルバン帝国に運んでくれるって話なんですが………あの、そのサイズで運べます?」

 ハルカは一番気になってたことを直球でぶっこんだ。

[ちょっといい加減敬語とかやめて、俺はラウールのダチなんだし、タメ口で頼むわ。それと、このサイズは燃費が悪いから小さくなってるだけで、本来は結構デカイよ?いっぺん見せてやろうか?]

「おー、是非お願いします!」


 ムダに広い土地を買ってるのも役に立つわね、とハルカは庭に案内する。
 

[ちょっと離れてね。………うん、そんくらいでいいかな。………よっ、と]

 ぶわっと髪が煽られるような風が吹いた後には、体長20メートルはあろうかというハルカの想像してた通りのドラゴンらしいサイズのドラゴンがいた。

「うわぁ、本当にドラゴンだーー格好いいなぁ~っ、あ、触ってもいい?」

 ペタペタと羽や体に触って来るハルカがくすぐったいのか、ブルブルっと体を震わせると、

[もういい?戻るよ]


 また風が吹いた後には、クロノスはさっきと同じサイズに戻っていた。

[………ね?だから五人十人位、籠に乗せて運ぶのは楽勝さ。
 多分、5、6時間もあればガルバン帝国には着くよ。ただし、魔力も体力も消耗が激しいから、行く前と帰る前はめっちゃ飯を食わないと遠出は無理だよ?]

「今回出した食事みたいなもので良ければ幾らでも。足りなきゃ捕獲してくるし」

[え?マジであんな美味い飯食わせてくれるの?………生肉とかでも大丈夫だよ?まぁ美味くはないけどさ、栄養素の補給は出来るよ]

「NO美味NOライフ!!こちらから輸送を頼んでるのに生肉とかで働かせるとかアンビリーバボー!美味しく食べて楽しく働く、それが労働者のスタンダード!お任せあれ。日本人はおもてなしの心を持つ民族よ。………ただ、それはそれとして、報酬はいかほど………?」

[報酬………?]

 クロノスはラウールを振り向いた。

《往復で運んで貰うのに飯を食うのは当然じゃろ?食わんと運べんのだから。
 だからそれ以外の褒美っちゅうか、要求っちゅうか、まあそういうヤツじゃよ》

[ああ!そういうことか。いや、別に金貰っても使わないしなー。
 ………!!あ、そしたらさぁ、ラウールみたいに暫くお世話になってもいい俺も?
 その代わり、どっか遠出したい時には飛ぶし。移動とか便利よー俺。船弱いんでしょハルカって?
 俺も暫く美味い飯食って暮らしたいしさー、暇だし]

 また食いぶちが1人………いや1ドラゴン増えるのか。

 何故だ。このところ同居者が右肩上がりで増えている気がする。
 減る気配すらない。
 家長としてはほんのり扶養負担が気になるけども。

 まー今は経済的な問題も特にないし。

 それに、クロノスは食事をさせてくれたらプライベートジェット的な役割も果たしてくれるという。
 
 私の『船酔いで死ぬ』というフラグを叩きおってくれる救世主である。
 すがらぬ選択肢はない。

「………さささ、中で紅茶とスイーツでも食べながら詳しく話をつめようではあーりませんか。ちょうど空き部屋もありますゆえ」


 クロノスは、ハルカの誘いに

[スイーツ?いやいや悪いねぇ]

 といそいそとハルカ邸に戻るのであった。




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