異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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彼方からの風【2】

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「………すまんが、お前の美味いもの巡りとか心底どうでもいい。いつになったら転生者が出てくるんだ」

「だから、順を追って話してるんですから、ちゃんと聞いて下さいキース様。あ、これお土産のアーモンドクッキーです。どうぞ。これがまた美味いんですよ」

 シュルツが横に置いてたカバンからクッキーの入った袋を取り出すと、キースに献上した。

「うむ、貰おうか。
 ………お、歯応えがあって、甘味が控えめなところがなかなか………」

「紅茶も先ほど頼んでますのでそろそろ来るかと。で、武道会なんですがね………」




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 武道会当日も朝飯を食べるべく早めに出たシュルツ達だが、祈りの日ということでレストランマーミヤもパティスリーハルカも休みであった。

 仕方がないと、市場の方まで行き、やっている食堂に入る。

 この店も、あそこほどではないがなかなか美味い食事を出してきたので満足した。

 ついでに軽く聞き込む。

「最近サウザーリンがいいって友人に言われて来たんだが、やはりこの国の調味料ってのが売りなのかい?」

 店の女主人は当然といった感じで頷く。

「この国に来る旅行者が増えたのは、確実に食事とスイーツと調味料だね。まあ国と言うか、マーミヤ商会のおかげかしらねぇ」

 ショーユ、ミソ以外にもマヨネーズやメンツユなど様々な調味料も出てきているとのこと。

「色んな使い方の冊子も10ドランで売ってるから買ってくといいよ、調味料と一緒に」

「ほお、マーミヤ商会てのは結構遣り手なのかね?」

「遣り手………?」

 ぶはっ、と女主人が吹き出した。

「やだね、遣り手だったらレストランの食事やスイーツなんかもっと高く売るさ。あんなに美味いんだもの。それに調味料だって庶民に手が出ないような金額にするとかさ。料理の作り方なんかあたしなら教えないさ、独占販売出来るだろ?
 マーミヤ商会のオーナーは、遠くのニホンて国から船で座礁してこの国に流れ着いた若い美人の女の子でね、薄利多売でちゃんと利益は出てるからいいんです、とか言うようなのんびりした子だからね」

「へええ、若いと欲をかきそうだけどな。今時珍しいねぇ」

 従者は相づちを打つ。

「肉なんかの食材もかなりのところ自分たちで調達するから、原価も抑えられるって言ってたね」

「へ?冒険者かなんかなのかい?その人」

「元、だけどね。でもA級だったそうだからかなり強いんじゃないかい?周りのお仲間さんも強そうだしねぇ。
 ほら、今日の武道会にもハルカちゃん、マーミヤ商会のオーナーが出場するんだよ。応援に行かなくちゃ行けないから今日は朝だけしか営業しないのさ」

「僕らも観に行くんですよ。ハルカさんね、覚えとこ」

 礼を言って店を出ると、シュルツは少し考え込んだ。

(ニホン………何かで読んだような気がするが思い出せん………)

 そのハルカとか言う娘の故郷のようだが、この近辺にある国ではない。

 これでも財政大臣である。近隣諸国の情報は頭に入っている。

(まあ、ともあれ試合の楽しみが出来たな。ショーユとミソ、あと他のマヨなんちゃらとか調味料を買い込んで戻る際にキース様への土産話にもなろう)

「美人ですって!楽しみですねえ~」

 ウキウキと会場に歩き出した従者を見ながら、呆れた顔で着いていくシュルツだった。


 ーーーーーーーーーーーー

 武道会で、ハルカという娘は、危なげなく勝ち進んでいった。

(………しかし、あまり気負ってないと言うか、勝ちたくないオーラが出てるんだが、観客は気づかないんだろうか?)

 先ほどのテイマーとの試合も、むしろ襲ってくれと言わんばかりに隙だらけで向かって行ったではないか。

 確かに、目を細めて流れるように動くさまは強そうに見える。

 だが、一番の疑問は、あの得物だ。

 ただの棒に見せかけているが、色んな魔力がついている。自分が水魔法を少々扱えるから見えてしまうのかも知れない。
 そう言えば、サウザーリンはあまり魔法を使う人間がいなかったな。

 防御魔法もついてるようだし、反撃魔法も付与されている。
 ぶっちゃけ、あれ持ってたら五歳の子供でも優勝しそうだ。

 あんな反則的な武器、どこで手に入れたんだ。魔物のドロップアイテムにしては豪華すぎる。Sランクの魔物でも出るかどうかといったところか。うちのダンジョンのエクストリームドライブの最下層なら有り得るが。

「あんな、複数の属性の魔法の武器扱えるなんて、伝説の勇者とか転生者くら、いな………?」


(………思い出した!ニホン!!あの転生者の話が載ってた本に出てた祖国じゃないか!こことは違う世界、異世界とか。読んだときには眉唾だと思ったので忘れていたが。50年や100年に一度現れるかどうかの人間なんて気にしてたら寿命来るしな。
 ………まさか本当にいるとは………)

 シュルツは思わずイスから立ち上がった。

「どうしたんすかシュルツ様?ハルカの勝利に興奮されたんですか?周りにお客さんいるんで落ち着いて下さい」

 驚いた従者が腕を掴む。

「あ、ああ、済まなかった」

 改めて腰かけると、はてこの国の人間は把握しているのだろうかと考えた。

 答えは否。

 そんなレアな人材をレストランやパティスリーやらせて放置しておく訳がない。

 いや、確かにものすごく美味いんだが。


 そうか。
 
 我が国に住んで貰って、ガルバン帝国でレストランでもなんでもやって貰えばいいではないか。
 別にどうしてもこの国でないといけない理由もあるまい。
 元々異世界から来ているのだから厚遇されるところのほうがいいに決まってる。

 調味料もかなり食事情のお粗末な我が国に広まれば、旅行者もどんどん集まるメシウマな国になって、ダンジョンもあって陶器もあってと、素晴らしい成長を遂げること間違いなしだ。

 恐らくかなりの魔法も使えるのだろうし、周辺国の戦にでも役に立ってくれるに違いない。

「おい、先に宿に帰ってるぞ。お前は最後まで観てて構わん。後で結果教えてくれ」

 試合なんぞ観てても仕方ない。
 早速移住計画の案を練らねば。

 ぽけっと訳がわからない様子でこちらを見てる従者を放置し、せかせかと宿への道を戻るシュルツだった。




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