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武道会【後編】
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準決勝。
テイマーとハルカとの戦いは、流石にハルカに分がないだろうと思われていた。
何しろテイマー自体はひょろりとした若いお兄ちゃんなのだが、相棒が子牛位のサイズの犬のようなクソデカイ猛獣である。
(………負けるのはいいんだけど、噛みつかれて流血まみれとか痛いのはちょっとやだなぁ)
ハルカは動物が基本的に好きなので、形だけの攻撃もためらいがある。
でも敵意を見せないと襲いにくいだろうしな。
『始め!!』
準決勝ともあって観客も多いし歓声もすごい。
(しゃあない、ちょっとだけ噛まれよう。んで参りました、とかでいいよね。少々の流血は諦めよう。エリクサーもあるし治癒魔法かけてもいいしな)
ニヒルな表情(とクラインに教わったが、周りから見ると細目になっただけである)でテイマーに向かって行く。
「パンドラ、行け!」
女の子なんだね、あんなデカイから男の子かと思ったわ。
などと呑気に思いつつ、噛まれるつもりで隙を見せまくりにしていたのだが。
パンドラちゃんは牙を向いてハルカに走って近づいた途端にピタッ、と止まり。
尻尾が丸まり。
ガクガク小刻みに震えオシッコを漏らした。
「………え?」
呆然と立ちすくむハルカを無視して駆け寄ってきたテイマーの兄ちゃんが、きっ、と睨み上げた。
「………あんた、熊とか狼とかと最近戦ったり触れたりしてないか?」
「………はあ。一緒に住んでるナイトウルフのジー様はおりますが」
「なっ、ナイトウルフだあ?!あの聖獣と言われてるヤツか?」
「いや、でもジー様ですよ?」
聖獣というほど厳かなアレではなくて、二千年ほど生きてるだけの食い意地の張った狼なだけですが。
と言おうとしたのだが、視線を感じ振り返る。
最前列でプル達と一緒に応援と言う名の元に、目付きの悪いラウールがじっと見つめていた。
目付きが悪いというかあれがデフォルトなのだが。
「お前の体から聖獣の匂いがしてる上に、本人(本狼か)まで………くっ、パンドラが怯える訳だ。卑怯な」
「そんなこと言われても家族みたいなもんですので。でも私負けたいので、この腕辺りをかぷっとやってくれませんか?抵抗しませんので、ほら」
ニヒルをキープしつつ、小声で告げるが、パンドラちゃんをけしかけてくれても後ずさりするだけ。
「お願いしますよー私もう帰りたいんですよぅ」
「……勝ちたいのは山々だが、俺のパンドラがアレではなあ」
既に闘技場の入口辺りまで下がってしまってる。
「………すみませーん、使い獣が調子悪いので参りましたーー」
テイマーの兄ちゃんはあっさり敗けを宣言した。
『決勝は、ハルカさんです!』
大きな拍手がデスマーチに聴こえて来たハルカは、とりあえずあのジー様は晩飯抜きにしようと固く誓った。
ーーーーーーーーーーーー
「ラウールの匂いまではなー」
「腐っても聖獣と呼ばれてるものねぇ」
《おい何故腐らす?まだまだフレッシュだぞワシは》
控え室で勝ち進んだ理由をハルカに告げられた面々は、ため息をついた。
「決勝、か………」
「………もう無理ぽ」
ハルカが悟りを開いたような眼差しで呟いた。
「諦めるなハルカ!決勝で負ければ結果オーライだ」
「そうよそうよ。S級にそう何度もは勝てないわよ」
「実際に勝ち抜いてしまってますがそれは」
「………………いや、でも………」
「楽しい1年でしたが、私が国のお役目で他国でちゅどーんと自爆しても、暫くは忘れないで下さいね」
「こら、まだ利用されると決まった訳じゃないだろ」
「もう優勝してしまう運命なのではないかと。それで可笑しいと怪しまれ調べられ、転生者判明するというルートしか見えません」
さ、コーヒーでも飲みましょうかねえ、ハルカはそう言うとトラが淹れてくれていたポットのコーヒーを注ぎ、美味しそうに飲んだ。
すっかり諦めきっているハルカをどう慰めようかと苦心していた時、控え室の扉が小さくノックされた。
「どうぞー」
ミリアンが声をかけると、扉が空いて、
「あのー、決勝でハルカさんと戦うことになったのでご挨拶だけでもと………」
と入って来た人物を見た途端、ハルカは目が輝いた。
「おお世紀末に救世主が現れた………さささ、どうぞ奥へ、ジルベルトさん!!」
顔を見せたのは、パラッツォのS級冒険者、ジルベルトさんであった。
ヒマワリ油、じゃなかった、グランさんの相棒である。
ハルカ以外からも包囲網のように周りから囲まれて、ジルベルトは何事かと若干引いている。
「ジルベルトさん、貴方を見込んでお願いしたいことがあります」
ハルカはキラキラした目をしながらジルベルトの手を取るのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『優勝は、パラッツォのジルベルトさんです!』
うおおおおおおおお
拍手と歓声が聞こえるなか、ハルカは闘技場で初めて一番ホッとしていた。
ジルベルトさんはやはりS級だけあって「変に目立ちたくないので、戦ってる風を装い敗けたい」というハルカの希望を汲んでくれ、見事優勝してくれたのだ。
どうやらグランさんは3回戦で敗けたようだが、会場にはいるそうだ。
二人に晩ごはんをご馳走するというショボい賄賂で話はついた。
と言っても「華を持たせてくれる上に食事までは」と断るのを無理やり頼み込んだので、正確には賄賂ではないかも知れない。
しかし、一番驚いたのは、そのあとの表彰かも知れない。
姿を見せなかったクラインが第3王子として出てきたのである。
しかし、そこでは別にハルカは(まあいいとこのボンボンだとは思ってたけどまさか王子とはねぇ………)位で意外なほど冷静に受け止めていた。
むしろ、ミリアンの方がビビってしまった位だ。
だが、ハルカが冷静だったのはそこまでで、準優勝の盾をくれた王様と王妃様に、常連客の顔が重なってしまった時に、
(王様と王妃様にうちの店を利用してもらった上に、知らぬとはいえ長蛇の列に並ばせた………あばばば)
と気づいてしまい、血の気が引いてその場で失神してしまったのである。
テイマーとハルカとの戦いは、流石にハルカに分がないだろうと思われていた。
何しろテイマー自体はひょろりとした若いお兄ちゃんなのだが、相棒が子牛位のサイズの犬のようなクソデカイ猛獣である。
(………負けるのはいいんだけど、噛みつかれて流血まみれとか痛いのはちょっとやだなぁ)
ハルカは動物が基本的に好きなので、形だけの攻撃もためらいがある。
でも敵意を見せないと襲いにくいだろうしな。
『始め!!』
準決勝ともあって観客も多いし歓声もすごい。
(しゃあない、ちょっとだけ噛まれよう。んで参りました、とかでいいよね。少々の流血は諦めよう。エリクサーもあるし治癒魔法かけてもいいしな)
ニヒルな表情(とクラインに教わったが、周りから見ると細目になっただけである)でテイマーに向かって行く。
「パンドラ、行け!」
女の子なんだね、あんなデカイから男の子かと思ったわ。
などと呑気に思いつつ、噛まれるつもりで隙を見せまくりにしていたのだが。
パンドラちゃんは牙を向いてハルカに走って近づいた途端にピタッ、と止まり。
尻尾が丸まり。
ガクガク小刻みに震えオシッコを漏らした。
「………え?」
呆然と立ちすくむハルカを無視して駆け寄ってきたテイマーの兄ちゃんが、きっ、と睨み上げた。
「………あんた、熊とか狼とかと最近戦ったり触れたりしてないか?」
「………はあ。一緒に住んでるナイトウルフのジー様はおりますが」
「なっ、ナイトウルフだあ?!あの聖獣と言われてるヤツか?」
「いや、でもジー様ですよ?」
聖獣というほど厳かなアレではなくて、二千年ほど生きてるだけの食い意地の張った狼なだけですが。
と言おうとしたのだが、視線を感じ振り返る。
最前列でプル達と一緒に応援と言う名の元に、目付きの悪いラウールがじっと見つめていた。
目付きが悪いというかあれがデフォルトなのだが。
「お前の体から聖獣の匂いがしてる上に、本人(本狼か)まで………くっ、パンドラが怯える訳だ。卑怯な」
「そんなこと言われても家族みたいなもんですので。でも私負けたいので、この腕辺りをかぷっとやってくれませんか?抵抗しませんので、ほら」
ニヒルをキープしつつ、小声で告げるが、パンドラちゃんをけしかけてくれても後ずさりするだけ。
「お願いしますよー私もう帰りたいんですよぅ」
「……勝ちたいのは山々だが、俺のパンドラがアレではなあ」
既に闘技場の入口辺りまで下がってしまってる。
「………すみませーん、使い獣が調子悪いので参りましたーー」
テイマーの兄ちゃんはあっさり敗けを宣言した。
『決勝は、ハルカさんです!』
大きな拍手がデスマーチに聴こえて来たハルカは、とりあえずあのジー様は晩飯抜きにしようと固く誓った。
ーーーーーーーーーーーー
「ラウールの匂いまではなー」
「腐っても聖獣と呼ばれてるものねぇ」
《おい何故腐らす?まだまだフレッシュだぞワシは》
控え室で勝ち進んだ理由をハルカに告げられた面々は、ため息をついた。
「決勝、か………」
「………もう無理ぽ」
ハルカが悟りを開いたような眼差しで呟いた。
「諦めるなハルカ!決勝で負ければ結果オーライだ」
「そうよそうよ。S級にそう何度もは勝てないわよ」
「実際に勝ち抜いてしまってますがそれは」
「………………いや、でも………」
「楽しい1年でしたが、私が国のお役目で他国でちゅどーんと自爆しても、暫くは忘れないで下さいね」
「こら、まだ利用されると決まった訳じゃないだろ」
「もう優勝してしまう運命なのではないかと。それで可笑しいと怪しまれ調べられ、転生者判明するというルートしか見えません」
さ、コーヒーでも飲みましょうかねえ、ハルカはそう言うとトラが淹れてくれていたポットのコーヒーを注ぎ、美味しそうに飲んだ。
すっかり諦めきっているハルカをどう慰めようかと苦心していた時、控え室の扉が小さくノックされた。
「どうぞー」
ミリアンが声をかけると、扉が空いて、
「あのー、決勝でハルカさんと戦うことになったのでご挨拶だけでもと………」
と入って来た人物を見た途端、ハルカは目が輝いた。
「おお世紀末に救世主が現れた………さささ、どうぞ奥へ、ジルベルトさん!!」
顔を見せたのは、パラッツォのS級冒険者、ジルベルトさんであった。
ヒマワリ油、じゃなかった、グランさんの相棒である。
ハルカ以外からも包囲網のように周りから囲まれて、ジルベルトは何事かと若干引いている。
「ジルベルトさん、貴方を見込んでお願いしたいことがあります」
ハルカはキラキラした目をしながらジルベルトの手を取るのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『優勝は、パラッツォのジルベルトさんです!』
うおおおおおおおお
拍手と歓声が聞こえるなか、ハルカは闘技場で初めて一番ホッとしていた。
ジルベルトさんはやはりS級だけあって「変に目立ちたくないので、戦ってる風を装い敗けたい」というハルカの希望を汲んでくれ、見事優勝してくれたのだ。
どうやらグランさんは3回戦で敗けたようだが、会場にはいるそうだ。
二人に晩ごはんをご馳走するというショボい賄賂で話はついた。
と言っても「華を持たせてくれる上に食事までは」と断るのを無理やり頼み込んだので、正確には賄賂ではないかも知れない。
しかし、一番驚いたのは、そのあとの表彰かも知れない。
姿を見せなかったクラインが第3王子として出てきたのである。
しかし、そこでは別にハルカは(まあいいとこのボンボンだとは思ってたけどまさか王子とはねぇ………)位で意外なほど冷静に受け止めていた。
むしろ、ミリアンの方がビビってしまった位だ。
だが、ハルカが冷静だったのはそこまでで、準優勝の盾をくれた王様と王妃様に、常連客の顔が重なってしまった時に、
(王様と王妃様にうちの店を利用してもらった上に、知らぬとはいえ長蛇の列に並ばせた………あばばば)
と気づいてしまい、血の気が引いてその場で失神してしまったのである。
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