上 下
58 / 144
連載

武道会【中編】

しおりを挟む
 S級ガチムチのハンマー使いの冒険者が闘技場に現れると、おおお、とどよめきが沸く。
 強そうオーラ全開である。

 ハルカは、ニヒルな表情を作りながらも、

(よっしゃーもらった!これなら負けられるぞー)

 と心でガッツポーズをした。


『始め!!』


 判定員のおっちゃんが言うがいなか、ハルカはスススっとハンマー使いのオッサンに近寄る。
 一撃位は入れないと形的に不味かろう、と如意棒もどきを突き出す。

 当然S級なので軽く避ける。避ける。
 何回かは仕掛けないと流石にアレなんで上手いこと避けてくれて助かるけど。
 2メートル位あるくせにフットワーク軽いオッサンである。


 さあ、そちらも一撃はよ。
 倒れる気満々ですよあてくし。


 しかし、いくら待っても避けるだけで攻撃もしてこない。

 何でだ。

「ちょ、ちょっと、何で攻撃して来ないんですか?」

 打ち込みながら動き回ってるので、少し息が上がってきたハルカは、いい加減終わらないかしらと思い声をかける。


「………女性に攻撃は出来ん」


 ………常連客ではなかったが、オッサンはフェミニストだった。


 ハルカは怒りのままに、手加減してた如意棒もどきを全力で叩きつけた。

「お前は石川●衛門かぁぁーーそれともヤサ●かーー!!極悪顔のト●ロみたいな見た目しやがってぇぇぇ!!フェミニストなんぞ闘いには不要なんじゃあぁぁぁ」

 どうせ日本のマンガのキャラクターなど分かりゃしないので、荒ぶるままに言葉を溢れさせ、如意棒もどきを振り回す。

 ●トロ、もといハンマー使いは避けきれず吹っ飛んで、はっと気がつけばベスト4である。




「………何をやってんだお前は。わざと当たりに行って倒れる手もあったろうが」


 控え室で正座するハルカにこんこんと説教をするプルに、えうえう泣きながらハルカが「違うんです違うんですあの腐れフェミニストが悪いんです私は悪くないんです」と訴えている。
 
「ちょっとぉ、準決勝よハルカ。こんなときまでチート運発揮しなくていいんだってば」

「私に言わないで女神様に言って下さい。
 そもそも私は勝ちたくないのに、女神様も少し気を遣ってくれても良くないでしょうか。
 でしょう?私も好きで荒ぶった訳ではないのです!むしろ被害者なのでぃーす」


「………開き直った………」

「結果的に己の首を真綿で絞めてるだけだがな。俺様達は痛くも痒くもないし。
 ………ほいじゃ帰るか」

「そうねぇ帰ってお茶でも。ラウール、ほらいつまでも寝てないで行くわよ」

 始まった当初からほぼ置物と化していたラウールがのそりと立ち上がった。

《……お?もう終わったのか?じゃ帰って飯かのぅ?》

「わたくしが200%悪うございました。平に平にお許し下さいませ」

 帰ろうとする三人と一匹に土下座、と言うかうつ伏せに寝ているので寝下座になるハルカ。
 限界まで頭を下げた体勢である。

 頭の前に合わせた手にぽふ、とプルが足を乗せた。

「心のなかでどっかにある負けたくないというプライドを捨てろ。優勝なんかしてみろ、A級なのにと有名になって転生者であることがバレる可能性があるだろうが」

「かしこまりましてございます」


「おいミリアン、次は普通のS級だよな?」

 プルが問いかけると、首をかしげる。

「らしいんだけど、アタシ組んだことないから解らないのよねぇ………」

「客か?客じゃないよな?」

「見た覚えはないなぁ、ハルカはどう?」

「あのテイマーさん?知らない。ただ私は厨房にいることが多いから、絶対にお客さんでないとは言い切れないなぁ」


 テイマーというのは、一言で言えば猛獣使いである。
 自分の武器の代わりに動物を使って戦う訳だ。

 大概は狼や豹的な四つ足の敏捷で攻撃力の高い生き物が多いが、あまり使いこなせる人が多くないのと、攻撃力高い動物ほど人に慣れにくいのか、テイマー自体は少ないらしい。

 今回準決勝に勝ち進んだテイマーも見た目は若干ラウールに似た黒くてデカイ犬というか狼系の子を連れている。


「今度こそ負けろよ?」

「はいっ!!全力で負けに行きます!」

「俺様は腹が減ってきたのでさっさと終わらせて帰りたい。ちなみにヴェルサスのすき焼きが食いたいな」

「肉山盛りでございますね。かしこまりましてございます!」

《ワシもすき焼き食いたい》

「………ラウール寝てただけのクセに」

 ミリアンが睨むと、

《あいわかった。応援するぞ》


 よし、今度こそ。もう後がない。

 いざ負けゆかん自宅の道を。

 円陣を組んだハルカ達は、既に悲壮感すら漂っていた。






しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

居場所を奪われ続けた私はどこに行けばいいのでしょうか?

gacchi
恋愛
桃色の髪と赤い目を持って生まれたリゼットは、なぜか母親から嫌われている。 みっともない色だと叱られないように、五歳からは黒いカツラと目の色を隠す眼鏡をして、なるべく会わないようにして過ごしていた。 黒髪黒目は闇属性だと誤解され、そのせいで妹たちにも見下されていたが、母親に怒鳴られるよりはましだと思っていた。 十歳になった頃、三姉妹しかいない伯爵家を継ぐのは長女のリゼットだと父親から言われ、王都で勉強することになる。 家族から必要だと認められたいリゼットは領地を継ぐための仕事を覚え、伯爵令息のダミアンと婚約もしたのだが…。 奪われ続けても負けないリゼットを認めてくれる人が現れた一方で、奪うことしかしてこなかった者にはそれ相当の未来が待っていた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。