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どうすんだろな本当に。

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「………ねえ、プル」

 リビングのソファーでクッションを抱えたまま寝転がっていたミリアンは、一点を見つめながら呟くように口を開いた。

「何だミリアン?」

 ローテーブルを挟んで向かい側で同じようにダラダラとラウールと寝転がっていたプルが言葉を返す。

「さっきから隅っこの方で立ったり座ったりしている落ち着きのない生命体がいるんだけど」

「あー、いるなぁ」

《ハルカだぞ?》

「分かってるわよそんなこたぁ。だから何であーなってんのか聞いてんのよ」

 キッチンのテーブルでコーヒーを飲んでいたクラインが、ふぅ、と溜め息をついた。

「あのアホはな、店にかまけてすっかり忘れてたんだよ」

「何を?」

「バルゴでの優勝商品」

「………あー、舞踏会か武道会に出ないといけないってヤツ?でもなんであんなに挙動不審なの?」

「説明してやろう」

 プルがむくっと起き上がって、クラインに向き直った。

「今夜は解説のお馴染み、行動パターン分析者・クラインさんにお越し頂きました。ようこそクラインさん」

「よろしくお願いいたします」

「さて、ハルカさんはさきほど茫然と立ち尽くしてましたが、あれは一体どういった心の動きでしょう?」

「今日、王宮からの正式な招待状が届いたので、『何でこんな大事なこと忘れてたんだよ私』と自分の記憶力のなさに呆れてる訳ですね。
 まぁあれだけ嫌がってたのに、最近ご機嫌でスローライフがどうとか、町の人と仲良くなってきたぞー!、とか浮かれたこと言ってたので、薄々そうじゃないかとは思ってましたが。
 ハルカさんの脳は油断するとすぐリセットされますからね」

「ほうほう、あ、今しゃがみ込みましたね」

「『もう二週間もないじゃん、今さらダンスの練習してもどうもならないでしょうが。でも武道会は負けるのやだし、でも武器は使えないし魔法はおおっぴらに使えないしなーうーん』と悩んでいるところでしょうね」

「分かりやすいですね」

「あれだけストレートに感情がダダモレする人物もそうそういないでしょうね」

「おやっ?立ち上がって手を見つめて笑顔になりましたよ?」

「『そうだよ!やっぱケガしたとか言って手とか足に包帯巻いて参加を断ればいいのよ!』とか考えてんでしょうね」

「ほー。でも………あ、またうずくまりましたね」

「前に私が言った、治癒士が王宮にいると言ってたから意味がないというのを小さな脳で思い出したんでしょう。思い出しただけ立派です」

「そうですね。………しかし、また不屈の闘志で立ち上がりましたよ?………と思ったらすぐまた膝をついた」

「パンチドランカー並みに打たれ強いですが、どうせ『よし、討伐してて戻れませんでしたサーセン!!』とかでバックレようとして、『やべ、冒険者引退してたじゃん私』というのをすぐ気がついたんでしょうね。流石に最近の記憶は思い出す時間が早いですね」

「………顔を覆ってえうえうしてますね」

「万策尽きたんでしょうね。万策というほど知恵を働かせてませんが、あれがハルカさんの精一杯ですね。
 舞踏会は相手側に恥をかかせてしまうので選ばず、武道会で負けることにしたんでしょう。ただ、腐ってもA級冒険者でしたからね。余り酷い負けかたは出来ないだろうから、もっともらしく負ける方法か、そこそこ戦えるやり方がないかケルヴィンか私に聞いてくる可能性は高いですね」

「なるほど。いつもながら、クラインさんの行動パターンの読みには信憑性がありますね。また是非次回もよろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく」


 二人の掛け合いを聞いていたミリアンが苦笑して、

「あんた達、いくらハルカがおバカとは言え、そんな単純な思考回路はしてないでしょ」

 とたしなめた。

「ミリアン、もう一年近い付き合いになるがな、あいつは本当にビックリする位ひねりがなく呆れるほど単純だぞ」

 プルがラウールに寄りかかって鼻をほじほじした。

「汚いから止めなさいよ。全くあんた達ひどいんだから。………あ、ハルカ」

 気がつくとソファーのそばにハルカが立っていた。

「クライン………お願いがあるんだけど。ほどほど勝って負けるみたいないい方法ないかなぁ?色々考えてみたんだけど煮詰まっちゃって……」

「………ま、まあ協力してやらんこともない」

 ラウールに顔をうずめて必死に笑いをこらえるプルの震える肩と、テーブルの下でティースプーンの柄をを強く足に押し当てて痛みで笑いをこらえるクラインを眺めながら、ミリアンは裏表がないというか表しかないハルカに一抹の不安を覚え、やっぱりアタシが当分守ってあげないとダメだわこの子、と気持ちを新たにするのであった。



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