異世界の皆さんが優しすぎる。

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ

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オープンてクローズがあるんだよ。

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「………すぴーーーー」

「………店長さん、店長さん」

 柔らかな女性の声が聞こえてくる。

 ……誰だ店長さんて。うちの店長はゴツいおっさんだぞ。ママって言わないとバイトの時給下げる怖いおっさんだ………え。

 ……いや、私も店長だった。

 一気に覚醒し飛び起きた。
 いかん新宿二丁目のトンカツ屋の記憶と混同してたわ。

「そろそろ起きて下さーい」

 私は時計を見た。
 もう一度見た。
 気を取り直して深呼吸してもっかい見た。

 さささ、3時過ぎ。

 確か9時前にちょっとひと休みのつもりでソファーベッドに横になった記憶はある。

 そこから今までの記憶がないなう。

 時間泥棒が現れたのか?
 私の時間を奪われたのか?
 むしろ一方的に奪われていたという話であってほしい。
 100ドランあげるから誰かそう言って。


「よくお休みになってたので、疲れてるだろうから暫く寝かせとけと副店長が」

 
 クラインめ………私をオープン初日早々に爆睡かましてバイトを鬼のように働かせる極悪オーナーの位置付けにするつもりか。

 しかしよく寝たお陰で元気である。
 やはり人間は睡眠大事。

「一部在庫が見当たらないものがあるのでその確認をしたくて………」

「んー、大概のモノは冷蔵庫にいれてた筈だけどな?何がないの?」

「レストランだとトンカツと唐揚げ、パティスリーではショートケーキとミルフィーユ、あとシュークリームも残り僅かです」

 お客さんに待たせておいて売り切れとはいかん。いかんぞ。

 バイトさんと慌てて階段を降りて在庫のチェックをする。
 ドードー鳥の唐揚げは思った以上に人気があったようだ。肉はまだ沢山あるのですぐ出来る。
 トンカツは冷蔵庫の奥の方にあったのに気づいてなかっただけだった。

「唐揚げ食べたいお客さんには10分待ってくれたら出来るって伝えてくれる?」

「「はい!」」

 バイトさんがホールに走る。

 ドードー鳥は既に一口サイズに切ってあるのでタレを作って漬け込むだけだ。
 とっとと片付け、パティスリーに回る。

「ショートケーキとミルフィーユがなくて、シュークリームが残り少ないって聞いたけど?」

「あ、店長っ、丁度良かった。季節のタルトも無くなりましたあ!」

「分かった。取ってくるけど他は大丈夫?」

「2階に行かれるならクッキーとパウンドケーキもお願いします!」

「りょ!!」

 ケーキはアイテムボックスにあるんだけど、この場で出せないからね。
 二階の倉庫に冷蔵庫おいてる設定にしてカギをつけてある。入れるのは私やクラインなど社員(といっていいのか不明だが)だけである。

 手間はかかるけどしょうがない。

 もう一度二階に上り、カギを開けて倉庫に入ると、クッキーとパウンドケーキを棚から取り出し、先にミニエレベーターに入れる。エレベーターと言っても当然人力である。よく2階建ての食べ物屋さんとかにある、料理を上げ下げするアレである。
 少し階段が急なので荷物の上げ下ろしが危ないとつけたのだ。

三回こんこんとエレベーターを叩いてからロープで下ろすと下で受け取ってくれる。

 利用者ほぼ私で、倉庫にしかないので魔法で浮力つけて下ろしてるけどね。重たいもん。

 下で「受け取った」サインは二回こんこんと鳴らす。
 そしてしゅるしゅるまた二階に箱を戻して、の繰り返しである。

 ケーキも2往復させて下ろした。

 これで閉店の6時まではなんとかなるだろう。


 本来の営業時間は9時から6時で昼休憩を1時間入れて8時間勤務である。
 ヘルプとかで店の行き来もするだろうと営業時間は2店舗とも同じにした。


 前にも思ってたが、大きな町でも夜にはあまり人が出歩かないので、営業しててもあまり集客は期待出来ない。
 バイトさん達も夜道を歩かせるのは気の毒だ。町の中とはいえ、魔物が出る世界だし、若いお嬢さんや坊っちゃんだ。何か揉め事に巻き込まれたりとか酔っ払いに絡まれたりとかないとも限らない。
 雇い主もこれでなかなか気を使うのだ。
 

 店に戻ると、ゾンビの群れのようだった長蛇の列は大分落ち着いて、落ち着いて、………落ち着いて来てないじゃないか。

 丘の方まで溢れていた人は居なくなった、というかテントに戻ったり寝袋に戻ったりハンモックで昼寝したりしてるような光景だが、目減りした。
 それでも相変わらず並んでいる。

 でも、列の終わりは見えてるので、ゴールは間近である。

 いそいそと接客に戻った私は、ふと視線に気づく。

 3、4歳位のリボンカチューシャをつけたフリフリスカートの女の子が、店の横の木のところからこちらを窺っている。
 ご両親らしき人もそばで見守っている。

 視線があったのに気づいたのか、女の子がちょこちょこ歩いて来て、ハルカに尋ねた。

「お姉さん、朝にね、一度来たんだけどね、美味しかったからまた来ちゃったの。この並んでる人たちが終わって、もし余ってたらご飯とお菓子、食べられますか?」

 私は並んでるお客さんを見た。
 多くてもあと二回位で捌けそうだったので、

「今並んでるお客さんが済んだら大丈夫よ。多分全部は無くならないからねー」

 と頭を撫でた。

「ありがとーお姉さん!!2回目はどこに並べばいい?」

 うーん、そうだな。一緒に並ぶと分からなくなるしな。

「プルちゃんちょっと来てー」

「ん?なんだ?」

 テーブルを拭いていたプルちゃんがやって来た。

「2回目のお客さんに並んでもらうのはどこにすればいい?」

「あー………1回目が終わりも見えたしなぁ。じゃあまたアレ使うか。おーい、テンちょっと看板持ってきて」

「………はーい………」

 少しくったりしたテンちゃんが、朝までお客さん整理に使ってた看板を持ってきた。

「んで、ここに紙を貼って、と」

『2回目のお客さまはこちら。ただし商品が品切になる場合もあります』

 と書いて、今並んでるお客さんのロープで仕切られた隣に立ててくれた。

「はーい、じゃあここで待っててね。でも1時間位は待つかも知れないよ?」

「はい!大丈夫です!父様………父さん母さんこっちー」

 女の子が手招きすると、町の若夫婦のような人達が「すみませんねぇ子供がワガママ言って」と頭を下げた。

「いえいえ、気に入って頂いてこちらこそありがとうございます。お待ち頂くと思いますけど………」

「いえいえ、1時間2時間なんて大したことないですから、今朝食べるまでの時間に比べたらっ」

 ご主人が手をぶんぶん振っている。
 すみませんね、本日はお待たせして。

「………あれ、2回目もあるのかい?」

 看板が立ったので様子を見に来たおばちゃんが、目を見開いた。

「商品あるので営業時間までは頑張りますけど、売り切れが出たらすみません」

「じゃ、あたしも並んでおこっと」

 三人の後ろにおばちゃんが並び、その後ろにジー様が並び、子供が並び、気がつくとあれよあれよでまた100人以上並んだ。

 前言撤回。


 やっぱお前らもう帰れえええええ。




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