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まだまだオープン。
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ハルカが眠れないといいかけ休憩所で爆睡のビッグウェイブに飲み込まれた頃、店では2回目のお客さん入れ替えが始まっていた。
そして、クラインは入ってきたお客さんの中に、アフロヘアーの真っ赤なシャツと緑と黄色の縞柄のパンツを履いたモジャモジャ髭を生やしたド派手な男性と、大きなオレンジ色の花柄のワンピースを着て黒っぽいスカーフを頭に巻いた指輪をいくつもつけた、これまたド派手な女性を見た。
(パラッツォからでも来たのだろうか?眩しくて目が潰れたかと思っただろうが)
それでも大事なお客さんなのでテーブルに案内し、注文を取りに来たクラインは、ド派手バカップルの隣のテーブルにいる、3歳位のカチューシャリボンをつけたフリフリスカートの女の子を連れた庶民の夫婦と目が合い、思わず動揺してトレイから水の入ったコップが転がり落ちて割れた。
「失礼致しました!」
周囲のお客さんに謝り慌てて片付けながら、次期国王夫妻の愛娘(?)が飛びついて来ようとしたので頭をアイアンクローで阻止しながら見回すと、カウンターテーブルに座っているミハイル兄さんも確認した。
ミハイル兄さんはメガネをかけて髪をざんばらな感じにしてるだけなので容易に分かった。手を振るな手を。
近くにいたバイト君に割れたグラスを入れたトレイと交換してもらう。
アイアンクローはむしろエンリケを喜ばす事にしかなってないことに気づき解放する。
いや。そうすると。
いや、まさかね。まさかとは思うが、このアフロのバカップルは。
ギリギリと顔をバカップルに向けると、手招きされた。嫌々近寄ったクラインの耳元で、
「これで国王と分かる奴はおるまい?フフフッ」
小声で嬉しそうに微笑むアフロに、バレた時点で王室に壊滅的なダメージを与える変装を何故したんだと言いたいのを飲み込んで、もし疑われても死ぬ気でバックレて下さいと厳重注意をする。
「クラインに見せたくて2日も並んだのよぅ私たち?」
どおりで王宮で姿を見ないと思った。
王様や王妃が徹夜でレストランのオープンに並ぶこの国、詰んでるかも知れない。
「はいはい見ましたよ」
「でもぉ、糸目じゃないのー見えてないでしょー?」
「とんでもないこれが全開ですよ。もうフルスロットルな感じで全開バリバリです」
「あら、そうなの………?まあいいわ」
「しかし、ようやく熱々を食べられるなハニー?」
「そうねダーリン♪
どうせなら食べたことないものがいいわよね。母はウナーギ丼がいいわ、あとスイーツメニューお願い」
「父はトロロご飯定食と親子丼というのをくれ」
クラインが黙々と注文を受けていると、アルベルト兄さんとフラン義姉さんが、
「店員さん、僕は海鮮丼と卵とじうどんを」
「わたくしは煮魚定食というのとスイーツメニュー下さいな。あ、メニューはお義母さ……いえ、お隣の方と一緒に見ますわ」
「ぼ、……私はスイーツとスイーツがいいです……わ」
確実に被らないもの頼んでいる。シェアするつもりなのがあからさまである。
しかし、ちゃんとズルしないで並んで来たのは偉いので、取り皿をつけてやろうとクラインは思った。
「ごめんなさい、店員さん。確認したいのだけど、こちらでスイーツ食べても、あちらで2つずつは購入出来るんですわよね?」
「……はい、大丈夫ですよ。こちらで食事中にお持ち帰りをご用意しておくのも可能なので、食べるのと持ち帰り分を選んで頂くと宜しいかと」
「まあ、助かるわ!」
実はメニューにも一工夫してある。
名前だけでは分からないモノも多いので、ちゃんと簡単な説明と商品のイラストがついているのだ。
イラストはトラが描いている。そしてやたらと上手い。
お茶を淹れるのも上手いし、大工仕事もマイホームの時に弁当運ぶついでにちょいちょい手伝っていて、職人からヘッドハンティングされそうになっていたし、掃除も短時間で効率的に綺麗になっている。
戦闘能力も意外に高いのだが、ハルカが通販が出来なくなる可能性があるから止めてくれと泣かれるので行かないようにしてるだけである。
本当にあの猫もどきは何処へ行こうとしているのだろうか。
まあそんな訳でみんながメニューを見て頼める訳である。
だがスイーツメニューをキラキラした目で見ている彼らには王族の威厳の欠片も見当たらない。
しかし、一応世間的には第三王子である自分がレストランの制服を着てうろうろしてるのもどうなのだろうかという話ではあるのでそこは触れないで置こう。
少し経って食事を運んだときには既にお持ち帰りスイーツも決めていた。
誰だ国民と語らい町の様子を確認するとか言ってたのは。
確かに隣の年配のジー様やら後ろの席の若いカップルに話しかけてはいるが、全部食い物の話じゃないか。
「1日では民の声は聞ききれんな、モグモグ。いやトロロご飯マジで美味いな」
「そうですわねダーリン。こういうのはやはり日々の積み重ねで……パクパクあらちょっとウナーギ丼驚きの味ですわよ」
「父上、海鮮丼が美味すぎて手が止まりません。いや本当に国民を愛する気持ちは近隣諸国で我々が一番ではないかと、もきゅもきゅ」
とか食いながら言うな。
「父様、母様、エンリナはチョコパフェを作れるシェフがいるこの国は素晴らしいと思います」
「えらいなエンリナは。……ところでそれ一口くれないか」
「えー………でも卵とじうどん一口と交換してあげます」
「交渉上手だなエンリナは、はっはっはっ」
ダメだこの人たち常連客になる未来しか見えない。
「………ちゃんと仕事は済ませてから来てくださいね」
溜め息をついたクラインは、それだけは念を押す事を忘れなかった。
国のためではない。
このまま放置すると確実に大臣連中に刺されそうだからである。
もぎゅもぎゅと幸せそうにご飯を食べている家族を見るのはやぶさかではないが、それとこれとは話が別である。
このタイミングでハルカが爆睡してたのは幸いだったとクラインは息をついた。
王族云々よりこんな身内を紹介するのはかなりの勇気がいる。
いずれにしろ舞踏会か武道会でバレるだろうが、せめて真っ当な格好をしてるときにしたい。
クラインは自分では気づいてないが、結構繊細なのであった。
そして、クラインは入ってきたお客さんの中に、アフロヘアーの真っ赤なシャツと緑と黄色の縞柄のパンツを履いたモジャモジャ髭を生やしたド派手な男性と、大きなオレンジ色の花柄のワンピースを着て黒っぽいスカーフを頭に巻いた指輪をいくつもつけた、これまたド派手な女性を見た。
(パラッツォからでも来たのだろうか?眩しくて目が潰れたかと思っただろうが)
それでも大事なお客さんなのでテーブルに案内し、注文を取りに来たクラインは、ド派手バカップルの隣のテーブルにいる、3歳位のカチューシャリボンをつけたフリフリスカートの女の子を連れた庶民の夫婦と目が合い、思わず動揺してトレイから水の入ったコップが転がり落ちて割れた。
「失礼致しました!」
周囲のお客さんに謝り慌てて片付けながら、次期国王夫妻の愛娘(?)が飛びついて来ようとしたので頭をアイアンクローで阻止しながら見回すと、カウンターテーブルに座っているミハイル兄さんも確認した。
ミハイル兄さんはメガネをかけて髪をざんばらな感じにしてるだけなので容易に分かった。手を振るな手を。
近くにいたバイト君に割れたグラスを入れたトレイと交換してもらう。
アイアンクローはむしろエンリケを喜ばす事にしかなってないことに気づき解放する。
いや。そうすると。
いや、まさかね。まさかとは思うが、このアフロのバカップルは。
ギリギリと顔をバカップルに向けると、手招きされた。嫌々近寄ったクラインの耳元で、
「これで国王と分かる奴はおるまい?フフフッ」
小声で嬉しそうに微笑むアフロに、バレた時点で王室に壊滅的なダメージを与える変装を何故したんだと言いたいのを飲み込んで、もし疑われても死ぬ気でバックレて下さいと厳重注意をする。
「クラインに見せたくて2日も並んだのよぅ私たち?」
どおりで王宮で姿を見ないと思った。
王様や王妃が徹夜でレストランのオープンに並ぶこの国、詰んでるかも知れない。
「はいはい見ましたよ」
「でもぉ、糸目じゃないのー見えてないでしょー?」
「とんでもないこれが全開ですよ。もうフルスロットルな感じで全開バリバリです」
「あら、そうなの………?まあいいわ」
「しかし、ようやく熱々を食べられるなハニー?」
「そうねダーリン♪
どうせなら食べたことないものがいいわよね。母はウナーギ丼がいいわ、あとスイーツメニューお願い」
「父はトロロご飯定食と親子丼というのをくれ」
クラインが黙々と注文を受けていると、アルベルト兄さんとフラン義姉さんが、
「店員さん、僕は海鮮丼と卵とじうどんを」
「わたくしは煮魚定食というのとスイーツメニュー下さいな。あ、メニューはお義母さ……いえ、お隣の方と一緒に見ますわ」
「ぼ、……私はスイーツとスイーツがいいです……わ」
確実に被らないもの頼んでいる。シェアするつもりなのがあからさまである。
しかし、ちゃんとズルしないで並んで来たのは偉いので、取り皿をつけてやろうとクラインは思った。
「ごめんなさい、店員さん。確認したいのだけど、こちらでスイーツ食べても、あちらで2つずつは購入出来るんですわよね?」
「……はい、大丈夫ですよ。こちらで食事中にお持ち帰りをご用意しておくのも可能なので、食べるのと持ち帰り分を選んで頂くと宜しいかと」
「まあ、助かるわ!」
実はメニューにも一工夫してある。
名前だけでは分からないモノも多いので、ちゃんと簡単な説明と商品のイラストがついているのだ。
イラストはトラが描いている。そしてやたらと上手い。
お茶を淹れるのも上手いし、大工仕事もマイホームの時に弁当運ぶついでにちょいちょい手伝っていて、職人からヘッドハンティングされそうになっていたし、掃除も短時間で効率的に綺麗になっている。
戦闘能力も意外に高いのだが、ハルカが通販が出来なくなる可能性があるから止めてくれと泣かれるので行かないようにしてるだけである。
本当にあの猫もどきは何処へ行こうとしているのだろうか。
まあそんな訳でみんながメニューを見て頼める訳である。
だがスイーツメニューをキラキラした目で見ている彼らには王族の威厳の欠片も見当たらない。
しかし、一応世間的には第三王子である自分がレストランの制服を着てうろうろしてるのもどうなのだろうかという話ではあるのでそこは触れないで置こう。
少し経って食事を運んだときには既にお持ち帰りスイーツも決めていた。
誰だ国民と語らい町の様子を確認するとか言ってたのは。
確かに隣の年配のジー様やら後ろの席の若いカップルに話しかけてはいるが、全部食い物の話じゃないか。
「1日では民の声は聞ききれんな、モグモグ。いやトロロご飯マジで美味いな」
「そうですわねダーリン。こういうのはやはり日々の積み重ねで……パクパクあらちょっとウナーギ丼驚きの味ですわよ」
「父上、海鮮丼が美味すぎて手が止まりません。いや本当に国民を愛する気持ちは近隣諸国で我々が一番ではないかと、もきゅもきゅ」
とか食いながら言うな。
「父様、母様、エンリナはチョコパフェを作れるシェフがいるこの国は素晴らしいと思います」
「えらいなエンリナは。……ところでそれ一口くれないか」
「えー………でも卵とじうどん一口と交換してあげます」
「交渉上手だなエンリナは、はっはっはっ」
ダメだこの人たち常連客になる未来しか見えない。
「………ちゃんと仕事は済ませてから来てくださいね」
溜め息をついたクラインは、それだけは念を押す事を忘れなかった。
国のためではない。
このまま放置すると確実に大臣連中に刺されそうだからである。
もぎゅもぎゅと幸せそうにご飯を食べている家族を見るのはやぶさかではないが、それとこれとは話が別である。
このタイミングでハルカが爆睡してたのは幸いだったとクラインは息をついた。
王族云々よりこんな身内を紹介するのはかなりの勇気がいる。
いずれにしろ舞踏会か武道会でバレるだろうが、せめて真っ当な格好をしてるときにしたい。
クラインは自分では気づいてないが、結構繊細なのであった。
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